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「前に来た時から本棚の位置が変わっていて、恐らく元々あった本棚の位置の壁のところだけ日に焼けていないで不自然にやけに白いじゃないですか。こんなの私でなくても本棚で穴を隠したんだってバレバレですよ」
「あ、大家さん、それは……」
「大家さん。なるほど、水くさい言い回しです。しかし、ですねえ、やっぱりこういう時はそうやって私の事を呼んでほしいものです。昨日やけに五月蝿かったものですから来てみたら案の定です。全く、罪を覆い隠して見えなくしてしまおうだなんて、どこの大学生ですか」
駿河は、そう言いながら紗綾が部屋にかけてあった時計を見たので、つられて時計を見た。針は少し遅い夜ご飯を食べるのに丁度いい時間にはまだ少し時間があった時刻を指し示していた。丑三つ時にはまだ十分に時間があった。
「僕は大学生だけど……」
「では、どこの先輩ですか。ま、なんにせよこれはアウトコースですねえ。すっかりもっておじゃんですよ……。全く、ぶっ壊したなら素直にぶっ壊したと言ってほしい」
「いや待ってくれ、紗綾ちゃん。それは隣の部屋の冴木が酔っ払ってネトゲで失態をやらかした挙げ句に壁をぶん蹴りあげたら穴が空いたんであって僕が穴を空けたわけでは」
「私としては口論が凄くあった後に何か壊れる音を聞いたんですがね、紗綾は苛立っている冴木さんが五月蝿かったので先輩が怒ってそこそこ薄い壁越しに口論をし始めたように聞こえましたが?」
「……壊したのは冴木だ」
駿河のその言葉を聞いて紗綾は深くため息をついた。
「自らの過ちを頑なに認めないなんて子供ですか先輩は。まあ、私にとっては、目の前の事実が覆らない限り、過程なんて関係ないですから、どちらも同じことなんですがねえ……とにかく何か言うことはないんですか?」
紗綾が勢いよく駿河に指を差す。駿河が紗綾の瞳を覗き込むと凍てつく視線で覗き込んだ。凍てついているとはいえ煮えたぎるような目にも見えて、駿河の目が火傷しそうなくらいだった。
それから、沈黙が二人を包んだが、全く動かずに駿河を見続ける紗綾に対して駿河は先輩の威厳もあったものではないほどに微妙に落ち着きがない。
沈黙。耐えきれない。駿河の目が泳ぐ。
「僕のせいでもあります。申し訳ありませんでした!」
「いえいえ、構いませんよお。ちゃんと謝ってくださればね。ふふふのふ」
「いや、でも、冴木が……」
「また、同じ問答を繰り返すつもりですか先輩。確かに実行犯は冴木さんだっただけなのかもしれません。けれども、そうだとして、本当に冴木さんだけの否だったのでしょうかねえ。実際にやったことと、やった原因に関わったこと。私にとっては結局同じことで、それはみんなで仲よく大切に使おうとしているものが少しでも害されたことに対しての私が満足する理由になりえますかねえ」
「……すいません」
余裕のある素振りでゆっくりと言葉を紡ぐ紗綾だが、駿河には紗綾の目が笑っていない様にしか見えなかった。