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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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5

 黒澤駿河の部屋は、一見するだけならば普通の部屋と言えた。

 

 フローリングの床に高さが膝元までしかない折り畳み式のテーブルが置いてあり、部屋の隅には衣服をしまうための小さなタンス、レジュメなどを管理するための小さな引き出し、本棚が整然と並んでいる。カーテンも薄い水色の質素なもので、全体的な見た目に落ちつきもいい。


 パッと見で少し変わっているところをあげるとすれば、コンポの側面にネス湖から顔を出すネッシーのシールがペタリと貼ってあるだけだ。駿河はできる限りシンプルな部屋が好きだった。


 駿河は台所のコーヒーマシンを動かしながら、紗綾を見た。紗綾はキョロキョロ部屋を見渡していた。


「相変わらずオカルティックな部屋ですねえ、先輩」


「そうかい? 別に見た目は普通だと思うんだけど。ていうか滅多に部屋に人なんて呼ばないからどうでもいいんだけどさ」


「それはそうですねえ。先輩が部屋の見た目を気にかけるほど交流が深くて部屋で知らない人たちとあまりどんちゃん騒ぎをされては困りますしね。この際先輩の知り合いの少なさについては黙っておいてあげるとして」


「紗綾ちゃん。狭くて僕の部屋に泊まる理由がわざわざ無いだけで、僕は男友達はそこそこ居るよ。それよりも、そんなに変かな? この部屋」


 紗綾が本棚に並び立つ本の背を細くすらりとした指でなぞりながら部屋の中を何かを見つけようと見渡した。その指の先の本には、ヒバゴンの新常識、小説「黄昏モスマンと自惚れの少女」、宇宙人とUFOなどと印字されている。


「少なくとも理系学生のくせに本棚一杯に並んでいる本が全て悩殺ヒバゴン写真集だとかフルヌードの宇宙人についての本だとかいうのは私には明らかにおかしい眺めにしか見えませんけれどねえ」


「確かにそういう類いの本ばかりなのは認めるが、ヒバゴンや宇宙人が裸なのは当たり前で、それはただのヒバゴンと宇宙人についての本だよ紗綾ちゃん」


「そういう考え方もありますよね」


「服を着てるヒバゴンと宇宙人の本があったら逆にお目にかかりたいくらいだね。というか本棚一杯に並んでる本は僕の趣味だ。誰だって趣味の一つや二つくらいは持っているだろう? 何もおかしくない」


「自分で吟味した紅茶や珈琲を飲むというのやら、文学作品が、こう、ぶわっと並んでるだけなら紗綾も何も言いませんけどね。大学生になってまでオカルト……」


「その口ぶりで僕に一見オカルティックな、ただの大したことない噂を僕に押し付けてくる紗綾ちゃんには言われたくないなあ」


「何を仰るんですか先輩! 先輩が好きそうだから、紗綾は誠心誠意、粉骨砕身、オカルティックな話を探してきているといいますのに!」


「余計なお世話だ」


「まあ、余計だろうがなんだろうが紗綾は先輩に押し付けまくりますけどね。その年にもなってオカルティックな存在を信じている先輩にですね」


「ちょっと待ってくれ。僕はオカルトを信じているわけではなくて、現代社会の精神的フロンティアであるオカルトがオカルト足りえている人間の精神に興味を持っているわけで、つまりオカルトが存在するかどうかはあまり重要でなくて、人間がそれの存在を作り出してしまう、存在させてしまう、そして信じてしまうのは何故なのだろうかということに興味があるんだ。つまり古代ヨーロッパにも存在していた未知なる概念や事象に対する人類の付き合い方を_____」


「ちっ、始まりましたよ先輩のどうでもいい講釈が。ああ、どうでもいいどうでもいい……とと、ありました」


 紗綾が本棚を少し動かすと、その奥の壁には拳骨大の穴が空いていた。剥き出しになったそれはすっぽりとその空間が抜けていて、あちらの部屋が、202号室の冴木良平の部屋が見えた。

 紗綾はそれを見て呆れるように、うんざりするように片手で頭を押さえて首を振った。昨夜かなり大きな物音がしたので疑問に思って駿河の部屋に来たのだった。


 大家としての感が冴えてしまった次第だった。紗綾はその隠し方の杜撰さに呆れ返る。普段あれだけの推理力を発揮する人間が犯人になるとこうまで弱いのかと、名探偵が犯人にならない理由の一つを垣間見たような気がした。


「やはり先輩は推理の攻撃力は高いくせに守備力は稚拙ですねえ、トリックと言うのもおこがましいくらいに。探偵向きであっても犯人にはまるで向いていない。そういうところが先輩らしくて、私は嫌いではないですけれどね」


 駿河はばつの悪そうな顔をした。

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