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「……別に、僕は君を許さないけれど君にこの国の法にのっとって罰を受けてもらいたい訳じゃない……そんなのナンセンスだ。たかが君がどれだけの罰を受けようとも紗綾ちゃんが戻ってくる訳じゃない」
「じゃあどうして私にこんな事を話すのです? 話しても何も変わらないというのに。私が認めて先輩が満足してはい終わりですか。紗綾さんもいたたまれませんねえ」
ぐぐ、と駿河は拳を握った。「後悔したくなかったからだ。紗綾ちゃんに顔向け出来ないと思ったからだ」
「……死人の為によくやりますねえ」
「甘利……!」
「まあ、いいです。実は逃げ通せるとは私も思っていませんよ。日本の警察は優秀らしいですからねえ。しかし、いやあ、おかしい。先輩らしくない。なんてったって今回先輩のやったことは全て無駄なんですから! すべからく無駄で無為で無策で無様なんですよ、何の力もありません。無力なんですよ」
「そうだね……確かにそうかもしれない」
ピンと張り詰められて今にも切れそうになっている糸のように空気が張り詰めた。
「それでもここまで暴かれると思っていませんでしたけどねえ姉と妹の二択を外すのは先輩らしくて甘利はなんだか笑ってしまいますよ。動機が根本から間違っているのも馬鹿な先輩らしいです。私が紗綾さんに対する殺意を明確にしようと思ったのは何もお母さんのことだけじゃありませんよ」
「動機が違う?」
「トリガーに罪はあるのかという話ですよ。母親を無惨にも殺した人間の娘に今度は好きな人までも奪われようとしているのを黙っていろって言うんですか?」
「好きな人? 誰だ?」
「黒澤先輩に決まってるじゃないですか」
鋭く。刃物の様に尖った言葉が駿河を貫く。
絶句。駿河は甘利から目を逸らした。そうせざるを得なかった。
「好きです、先輩」
甘利十和の一言が黒澤駿河の体を縛り付けた。ガン、と頭をコンクリートか何かで思いきりぶん殴られた衝撃が襲った。




