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窓の外の光景は冷えきっていた。カラスが一羽、電線の上にとまった。
仲諒大学六号舘の六階からは、七号舘がよく見える。仲諒大学は一号舘から六号館まで円を描くようにしてそれぞれの棟が立地していた。コンクリートの壁が城郭のように聳えていた。
六号館と言えば法学部の講義を行う教室が数多くあり、その学部所属の甘利十和と御津奈々子もここの床を幾度も踏んだ。もう、真冬に足を突っ込んでいて、空はぼんやりと暗かった。
駿河の前に、レースのついたピンクのスカートを可愛らしく振る甘利の姿があった。
「黒澤先輩。こんなとこに甘利を呼び出して何か用ですか?」
駿河は甘利をこの六号館に呼び出していた。
「紗綾ちゃんを殺した人間が誰だか分かったんだ」
「え? 先輩? 先輩が紗綾さんは自殺でなく、他殺と思っているというよは聞きましたが、まさか、本当に?」
「紗綾ちゃんを殺した人間は分かったよ____いや、違うな。最初から、見当はついていた」
「ちょ、ちょっと待ってください先輩。いくらなんでもいきなりすぎますよ。誰であったとしても甘利は聞きたくありませんし、先輩の言葉を鵜呑みにしてその人に冷たく当たってしまう可能性もなきにしもあらずです。まずは順序を考えてですね」
その名前は駿河の口から鋭く発せられた。
そうだ、これで。これで____いい。駿河は論理の石を崩れないように積み直して、そうであることを確めた。
その名前が告げられる刹那、駿河はほんの少しだけその名前を甘利に告げることを躊躇った。
「甘利ちゃん。甘利十和_____君だ、君なんだよ」
甘利十和の瞳が大きく見開かれた。




