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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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 甘利が去っていった。それから、駿河は空を見ていた。雲が切ない色に染まっていた。


 頬に冷たいものが触れて、消えていった。駿河はそれを拭った。


 ……雪? 綺麗だ。こいつはどれだけの時間をかけて、空から落ちてきたのだろう。


 きっととてもゆっくり落ちてきたのだろう。風に大事そうに包まれて、惑うように空を舞って、下の世界に想いを馳せていたのだろうか。どんどん近くなっていく下界に心を躍らせていたのだろうか。夢はあったのだろうか。寂しくはなったのだろうか。____ただ、それは溶けて消えていった。


 駿河は紗綾の顔を想い出した。雪の様に白い肌に薄い唇が思い出された。


 寒さに縮む肌に吐息をかけると、そこだけ仄かに暖かかった。

 ひゅう、と吹いていった冷風が確かに駿河の体から熱を奪い取っていった。……寒い。駿河はそう思った。体だけでなく、心も溶けない氷の様に縮こまっていた。しかし。


 心が確かに凍てついていたのすら今の駿河にとっては、自分の心が凍りついている間は絶対に紗綾の存在を忘れないような気がして、懐かしくて、なんだか嬉しかった。



*

 PLLLL。着信がある。駿河はポケットから携帯電話を取り出して耳元にそっと当てた。


「もしもし」


 か弱い声だ。触れれば割れてしまいそうな声だ。


「先輩。さっきは急に突き飛ばしたりしてごめんなさい。でも、あんなこと言い出す先輩がどうしても許せなくて」


「そうか、僕も言い過ぎたと思ってる。ごめんね甘利ちゃん」


「先輩が謝ることないじゃないですか。甘利の方が謝ろうとして電話をしたんですから、先輩に謝られるとどんな返答していいかこっちが困るじゃないですか」


 電話の奥の声は微かに震えているように聞こえた。未だに瞳に涙を潤わせているのだろうか。そんなにも、甘利は僕のことを心配してくれていたのか。 


「ごめん。……あ」


「また謝りましたね? まったく、先輩らしいんですから。この会話。なんだか初めて会ったときのようですね?」 


 震えた声の中にくすくすと懐かしがっているような、楽そうな笑い声が混ざった。


 甘利と出会ったのは紗綾と会った日とあまり変わらない。紗綾に案内されてアパートに転居するために連れてこられた時に、ひょっこり部屋から出てきたのが初対面だ。


 なんでも、本当ならば甘利がその日に入居予定だったのだが、駿河が急に入居予定に加わるというので甘利の日程が前倒しになってしまったそうで、こちらを見るなり走りよってきて少し怒ってきたことを駿河は覚えている。どうして、後から入った貴方の予定で私の予定の方がズラされなければならないんだという怒りだった。


 駿河は甘利からその話を初めて聞かされて申し訳なく、謝った。だが、甘利は何故か更に腹を立てて日本男児、しかも仮にも人生の先輩がそう簡単に後輩に謝らないでくださいとそっぽを向いた。


 そして、そこでまた駿河は謝って、甘利が指摘した。しかし、指摘した顔は見慣れた甘利の穏やかな顔でおかしげにくすくすと、笑った。


 そういえば、それから甘利が怒っているところは全くといって見ていなかった。初対面の印象が薄れるほどに、普通の可愛い後輩として振る舞っていた。

 

 駿河はその日の夜、自室で音をなるべく立てないようにして過ごした。自分でもどうしてこんな事をしているのか分からなかったがとにかく音を立てないで過ごした。冴木への配慮という訳ではなかった。甘利の事ばかり考えていた。

 

  

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