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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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4


 駿河の視界の中で、アパートの目の前で大家が網で秋刀魚を焼いていた。


 駿河は秋刀魚を焼いている大家さんに歩み寄る、と秋刀魚の焼けた良い匂いがしてきた。皮がパリッと焼けてそこを箸でつついたらよく肥えた脂が顔を出してきそうだ。


 いや、違う。そんなことではなくて。


「大家サン」


「嫌だなあ、そんな他人行儀の呼び方で私を呼ばないでくださいよお」


 大屋さんが駿河の声に気付いて黒くて長い髪を垂らした絶世の美少女、を自称する女の子が頭をもたげた。


 彼女の学生証には如月紗綾の四文字が書かれている。


 如月紗綾、仲諒大学の学生で、駿河の後輩には違いないのだが、その駿河が紗綾に頭が上がらない理由はこの一点に集約していると言える。


 紗綾の父親はかなりの資産家で、元々このアパートの所有者もその人だったのだが、娘がその近くの大学へ通うこととなり、入学祝いの一つとしてアパートを譲った、という駿河の様な凡人もとい平民にとっては理解しがたい所業が行われたため、今はこのアパート、駿河の下宿先は如月紗綾のものとなっているのであった。


 大家、如月紗綾。だから、駿河は紗綾に今ひとつ頭が上がらないと言えた。


 しかし、それならば、大した束縛ではない、他の下宿先を求めれば良いのではないか、というのも駿河は何度考えたのか分からない。


 だが、紗綾の両親からすれば何分自分の可愛い娘だ、紗綾に何かあってはならないから信頼できる人が近くに居て欲しいのだろう、駿河の親が紗綾の両親と仲が良いというのがあり、駿河はここに住まわされることを両親に頼まれて、半ば強制されている。両親きっての頼みは断れない。


 それに、家賃はそういう前提もあって法外と言っても良いほど格安だ。


 紗綾の家のような金を湯水か何かと勘違い、と言ってしまうのは人聞きが悪いが、少なくとも大学に行かせて貰っているという立場の自覚を持っている学生の駿河にとっては親の願いを押しきってまで、しかもここよりも交通の便が悪く、その上高い下宿先に変えるわけにはいかなかった。


 故にこうして目の前に紗綾が居るわけだが。それでも、何度別の下宿先を探そうと思ったか自分でも分からないのだが。


「先輩遅かったですねえ、うっかり夜道で暴漢に襲われて死んだかと思いました」


「ちょっと課題が手間取ってね……それより簡単に僕を殺さないでくれ、生きてるよ」


「その様ですね、先輩を襲った暴漢はなかなか弱い暴漢だったようでがっかりです」


「そもそも暴漢に襲われてないんだが、襲われているという前提で話さないでくれるかな?」


「え!? それでは先輩はこの真っ暗な夜道の中誰にも襲われずに帰って来たってことですか!? せっかく厳選に厳選を重ねて先輩を襲うように暴漢を大金はたいて雇ったというのに仕事しなかったと言うのですか!?」


「勝手に僕の暗殺を企まないでくれ」


「やだなあ、嘘ですよ」 


「嘘に聞こえないんだよ」


「先輩。それに殺しまではさせませんよ、それじゃあ面白くないじゃないですか」


「紗綾ちゃんが面白いか面白くないかは別として、どう転んでも僕には面白い結果にならないのが僕は悲しいな。紗綾ちゃんが僕相手にそういうことしか考えてくれていないのが一番悲しいよ」


 相変わらず怖い事をいう後輩だ。と、言いたかったがそれよりも気になるのは秋刀魚。じゅうじゅうと身を焼かれている。


「ところで紗綾ちゃん、その秋刀魚何?」


「これですか? 秋刀魚ですよ。食べます?」


「……そういうことじゃなくてさあ」


「よし、焼けました。ではタッパーにでも詰めておきましょう。オイル煮にでもしようかと思いまして」


 手際よくサンマをタッパーに詰めていく紗綾を見て駿河はズレてんなあ、と思う。箱入り娘とかそういうレベルではない、明らかに奇人、変人の類いだ。


 紗綾がそこに気付いていないはずはないのだが、気付いていないフリをしている事は十分に考えられる。そういうポーズを周囲、特に自分、駿河に見せつけているというか。


「あ、そうだ先輩。部屋見せてくださいよ」


 不意に思い出したように紗綾が言葉を発した。


「げ」


「げ? やはり先輩。昨夜、紗綾に言えない様なことがあったんですね!?」


「あ、ええと。あれは僕のせいではなくてだな……、そもそも、つまり」


「御託はいいです」

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