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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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手紙


 拝啓。と、こんなの要りますかね? 紗綾は常々こういう決まりみたいなものを余分だと感じてるんですが。

 まあ拝啓黒澤駿河先輩へ。この手紙を読んでいるときに私は居ないだなんて言ってしまうと如何にも月並みで、人並みであまり面白くなくなってしまうのですが、まあ、とにかく私はこの世に居ないでしょう。全く! 美人薄命とはこの事です。何故かと言うのは聞かないでください。別に聞けるものならば聞いてみればいいですけれど。

 まあ、なんというんでしょうかね。怨恨? そんなもんですよ。最近凄く視線を感じるんです。統合失調の症状にそうやって視線を感じるというのがあるそうですが、そういう訳ではなくて、質量を持ったような視線を感じるんですよ。なんてね。本物の視線かそうでないかだなんてどうでもいいんですよ、当の本人にとっては自分がそういう症状だと言われたとしても、そのリアルがリアリティまで緩和されることなんてないのですから、本物だろうが偽物だろうが、関係ないんですね。あ、そーだ。こんな遺書染みたモノは本当はワープロで書いてしまっても良かったのですが、まあ手書きの方が私らしさを滲ませることが出来て良いでしょうからこっちを選びました。と、それよりも、そして、ここから本題で、私は先輩に忠告及び嘆願及び遺言及びetc……? を言わせてもらいたいわけで、この手紙をしたためたというわけですよ。

 恐らく先輩は今、こう思っています。どうして自分が殺められることを察していたのに、僕に言ってくれないんだ? とね。流石に面倒くさい後輩が居なくなってせいせいするだなんて言われたら紗綾は泣いてしまいますから先輩がそう思ってはいないこととして、とにかく私を少しばかり悼んでくれる気持ちでいっぱいな訳ですよ。日本語がおかしい? 気にしないでください。

 はい、それで。最も重要事項を述べます。重要です。暗記するために一言半句間違えずに覚えてくださいなんて流石に言いませんけれど、

 先輩は絶対にやめてくださいね? 絶対の絶対の絶対に絶対ですからね!

 あ、それにそうだ。先輩。実はですね、これは先輩にだけは秘密を開かしてしまおうと思って、いや、先輩にですらも打ち明けてはならないことなのかもしれませんが、しかし私はこの事を本人に言うのは本当にこっ恥ずかしくて言うことが出来ませんので、この手紙の中でまあ、一つ言ってしまおうかと思います。うう、やはりこれを書いて良いのか悩むなあ。でもやっぱり書きたいことでもありますよお。御津さんへにだけ伝えることが出来ればいいのですが。

 ええ、と。御津さんはですね、諸事情ありまして、いや、本当に色々運が悪いことが重なりまして御津さんの親御さんは私の両親にお金を借りてしまっているんですよ。なんて、嘘だと言いたいところですが、それは本当のことで、その事実自体はどうにも弄くることが出来ません。かといって紗綾がそれに対して何の打開策も打ち出さないという程無能という訳であるはずもなくて、実は御津さんの家賃とか諸経費は御津さんに返すように溜めてありまして、あ、これを私的に御津さん貯金と読んでいるんですが(どうでもいいか)、私もちょこちょこ貯金してたんで結構貯まっててそのお金を御津さんにあげたいんですよお。だけど自分から言うのはこっ恥ずかしい。そこで先輩の出番という訳で、もし、先輩がこの手紙を読んでいるのならば、御津さんに言って貰えませんかね。実は何があるかは教えてないんですけど御津さんならばそれが何処にあって何処からどうするかは知らせてあるはずなので知らせてくださいね。

 ま、なんやかんやで結構足りないのがお笑いです。紗綾ごときにはそんなもんです。

 ふふふ驚きました? でも、お金は人の為に使うためにありますからね! 我ながら呆れるくらいにJanne Da Arcの様な聖人っぷりです! これは私が聖女と呼ばれる日も遠くありませんね。聖女は往々にして無惨な死を迎えることが少なくありませんが。なんて。

 私の敬愛するべき、先輩へ。大好きだった先輩へ。

 」

 


*

 少しインクが滲んでいたが、丁寧な字で締めくくられていた。


「あいつ。馬鹿なんじゃないのか?」


 御津が暫くの沈黙のうち、重い口を開いた。瞳は潤んでいた。

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