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____次の日の朝。甘利には内緒で抜け出してきた。そうしなければ御津に駿河は話を切り出せないと思ったからだ。
甘利が自らを心配して、傍に居てくれるとわざわざ言ってくれたのに裏切ってこの部屋の前に居ることは心が痛んだ。
駿河は「MITO」の表札をまじまじと見つめた。ホームセンターで一ついくらで買えそうな木のアルファベットを四文字、キッチリ横に並べるのではなく思い思いに長方形の木の板に張ってあって、それが吊るしてある。
それが御津らしいと駿河は前から思っていて、御津のそういう所が駿河は嫌いではなかった。いや、むしろ自分にはない性質の性格を持っていると思っていて、好いていた。
駿河は御津の部屋のチャイムをゆっくりと押した。チャイムを鳴らす前にも、鳴らしている最中も頭の中には雲がかかっていた。指がプラスティックの四角形を押していて、軽快な音楽が流れているときですら思考がぼやけているように思えた。
部屋の奥から足音が聞こえてきた。
どっどっと低い音を響かせて自分の心臓が波打っているのが分かった。自分の心臓が鶏の様な小さな心臓だと感じるくらいに酸素を性急に体に送り届けていた。
ガチャリとドアの鍵が回される音に数秒遅れてゆっくりと扉が開いた。その奥から出てきた御津奈々子が意外そうな顔をしてこちらを見ている。
「どうした? 駿河? なんか用か?」
「御津さん。紗綾ちゃんのことで少し話があるんですけど部屋にあがらせてもらってもいいですか」
かなり早口でそういってから、駿河は御津の顔を伺った。御津の瞳にはいつもと違う輝きを見ることは出来なかった。
「ああ、いいよ」




