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それから駿河は甘利の部屋で甘利の手料理を食べて夜を過ごした。
甘利が落ち込んでいるだろう駿河のために甘利が今まで聞いたことがある昔話の話題を振ると駿河もそれに応えて、まるで恋人のように話し合った。
布団の中に入ってから、駿河は自分なりに、冴木良平のことを考えた。
そして自分のことを考えた。そして如月紗綾のことについて考えた。
でも何を考えたところで色々なことを考えているうちに想いが募ってきて、それが一ヶ所に集まると反発しあって砕けてバラバラになって夢のように散った。考えは闇に閉ざされていた。手応えすらなかった。奇妙な感触だけはあるのに、実体としてそれを見ることが叶わなかった。
心の奥にある違和感のある感触だけが常に、柔らかくなったり、堅くなったり、刺々しくなったりして変化していた。でも結局、それがなにかは見ることが出来なかった。
ただ、この感情に名前をつけなければ駿河はやりきれなかった。だから、それに、暫定的に、無知という名前をつけた。分からないから、分からないものであると信じ込んだ。
相手の気持ちが分からないことから来る不快感だと信じた。理解できないもどかしさだと思ってみた。
名前をつけることによって少しは和らぐかと思ったが、そうはならなかった。むしろ、相互の理解をしうる事が出来ないから不快感を感じているとは到底思えなくて、もっと違う何かだという気がしてただ別種の不快感が増しただけだった。
駿河はいつの間にか眠りの淵に落ちていった。線が切れて光らなくなった電球のように睡眠に誘われていた。




