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その日の夜、駿河は夢を見た。
……劇の夢だ。子供の時、どこかの劇場で見た光景だ。どんな____話だっただろうか。
悲恋の話。
王族の娘と、男の話。恋の話。
ありふれた物語。身分違いの男女の____恋愛。叶わない。自身も何故今になって夢に出てきたのか分からないほどにチープなストーリーの劇。
だが、それはやけに鮮明流れていた。
その中のワンシーンだけが、夢の天幕にこびりついて離れない。子供心にも出来の良くないと分かる劇の中で、一つだけ飛び抜けて心に残ったシーン。____ああ、そうか。そう、ここだけは覚えている。
男が戦死したとの虚偽の報告を受け入れさせられ、もう結ばれぬと知った姫君が失意から身を投げ出すショット。姫君の元に全てを擲って駆けつけた男が丁度、それを見つけてしまうシーン。その刹那のすれ違いが心を捉えて離さない。
その光景だけが、ゆっくりと、ゆっくりと駿河の夢の中で流れていた。
ゆっくりと、なおも、夢をそれだけで満たすように。
その光景は酷く残酷で、悲しみの底で硝子細工が砕け散っていく音がした。
硝子細工は胸の奥で砕けて、煌めいて散ってき、残った欠片が何時までも刺さり肉を抉って取れないような痛みがずっと支配している。
進むな時よ、堕ちていくから。
誰の、台詞だっただろうか。




