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雨の香りは、土と混ざって、明らかに駿河には血の匂いに思えた。拭っても拭っても消えない錆びの臭いに思えた。鼻の奥に残って気持ち悪かった。
雨の滴が頬を伝ったせいで、哀しくなった。伽藍とした心に雨が染み込んでいってズキズキと痛んだ。
雨漏れするこころを寂しさという器が確かに溜めていって一滴落ちる度に悲しくなって、切なくなって、泣きたくなって、そしてついに堪えきれなくなって、涙を溢した。
嘘だと思った。嘘だと思いたいだけである気がした。
なんだか自分が大馬鹿者である気分がした。
雨に濡れた服に冷たい空気が当たる度に体温が 持っていかれるのが分かった。 駿河は空を見上げた。 雲が真っ黒で、今にも落ちてきそうだった。
静かに降っていた雨はその日の夜。車軸を流すような雨へと転じていた。
土が雨を吸って、吸いきれなくなって出てきた水が洪水となって屋後丘を下っていった。




