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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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「……甘利ちゃん? まだ寝てなかったのかい?」


「ええ」


 そう言うと甘利は駿河から視線を逸らして満天の星空を仰いだ。


 しかし、駿河には甘利のその目が星空に浮かぶある一つだけの星を見つめているように見えたのが酷く印象的で、甘利のとろん、とした目に光が瞬いた。「いやー黒澤先輩」「何だい?」


「なーんか、眠れない夜ってあるじゃないですか。こうまで夜空が故郷のものと似ていますとねえ。星空が私を諭してくれているようです」


「何か詩人だねえ、甘利ちゃん」 


「んふふ、ちょっと言ってみたかっただけです。誉めないでくださいよ」


「誉めてないけどね。甘利ちゃんの地元でも星空はこんなに綺麗なんだね?」


「失礼な。私の地元の方がもっと綺麗ですよ」


「そりゃ失礼。僕もこの星空は嫌いじゃないけど自分が生まれ育った故郷から見る星空の方が綺麗だってのは同感だ。……甘利ちゃんの故郷から見る星空は綺麗そうだね。伝承や古くからの怪談がいっぱいありそうだから」


「伝承や古くからの怪談がいっぱいあると綺麗なんですか?」

「うん、そう相場が決まってる。いいなあ、甘利ちゃんの生まれ故郷に一回行ってみたいな。面白い話がいっぱい聞けそうだし、何よりこの満点の星よりも綺麗な空を見れるだけで価値があると思うよ。ああ、そうだ。甘利ちゃんは誰と一緒に空を見るのが好きなんだい?」


「誰と、ですか?」


「うん。綺麗なものを見るときって隣に誰かが居るだけで二倍になるじゃないか」


 昔は、甘利はそんな枕詞をつけた。


「……お母さんと一緒によく見たものです。お父さんは居なくなってしまったし。まあ、お母さんもかなり昔に亡くなってしまったのですけどねえ。そっか、そういえば本当の故郷の星空は、もう忘れてしまったなあ。私は叔父さんと叔母さんにこの大学を通わせて貰っているので。うん、そうですねえお母さんと一緒に見る故郷の星星はとっても綺麗でした。私はお母さんと星を見るのが一番好きです」


「甘利ちゃん。何か僕悪いこと言っちゃったかな」


「いい、ええ。先輩のせいじゃありません。ただ、女の子には感傷的になってしまう夜が時折あるんですよ。たまたま今日がその日であった。それだけです」


「ふうん。感傷的か。僕にはそれは男女関係ない人間の普遍的性質を内包したように思えるけどね」


「あははー。黒澤先輩にも感傷的になる、なんて形容詞が当てはまる状況が存在するんですね」


「僕をなんだと思っているんだ」


「ジョーダンですよ。マイケル・ジョーダン」


「甘利ちゃん、それはキツい」


「ははは」


 はにかむような笑顔を弾けさせてくすり、と甘利が頬を緩めた。


 心なしか赤いのは____何のせいだったのだろう。少なくとも二人とも仲良く顔が赤かった。


「黒澤先輩。今日は星空のなかでも月がとびっきりに綺麗ですね。月が綺麗ですねって、なんて」


 ふと、詰まるように甘利がそんなことを言った。


 駿河も月を見る。確かに綺麗だ____改めて思う。「確かにそうだね」だから率直に肯定の意を示す言葉を述べただけだったのだが、甘利の方はあからさまにむかむかと、し始めた。


 怒りと、その他諸々の感情を含めた複雑な感情が砂嵐のように吹き荒れているようだった。


 深い吐息が甘利の回りの空気を潤した。冬になればそれは盛大に大きくて白いものになっているだろう息を無作為に、無秩序に落胆の色を確かに混ぜてため息を吐いた。


「呆れました」


「何が?」


「こういう時、普通求められてるのは拙い返事かウィットを効かせた流暢な返しのどっちかでしょう? 失望しました黒澤先輩」

「こういう時ってどういう時?」「まーったく!」


 顔を真っ赤にして甘利が天を仰いだ。


「黒澤先輩って本当に知識が偏ってますよね。ばかじゃないですか? 夏目漱石くらい読んでみたらどうです?」


「ばか? そりゃまた何で。それに漱石なら幾つかは読んでるよ」


「~~もうっ! だからっ! 黒澤先輩の大ばかっ! まるで知ってることには深淵を知っているかのように知っているくせに知らないことはまるで知らないシャーロック・ホームズのようですね! ばかっ!」


 駿河としては本当に甘利の行っている意味が分からないのでどうして怒っているのかの理由を訊ねていたのだが、甘利はもう本当に知りませんからっ、と捨て台詞を残して、今世紀で最大級の恥ずかしそうな顔をして突風のように自室に戻っていった。というか、そもそもシャーロック・ホームズのようなって、それはもう誉め言葉じゃ……?


「……よく分かんないな」

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