20
部屋から出ると駿河は冷たい空気が肌にこびりつく小さな痛みを感じた。暖かい空気が体から出ていき、代わりに冷たい空気が肺を満たす感覚も。
そっとドアを閉めて、駿河は一息ついた。
吐く息はまだ辛うじて白くなく空気中に溶けていくだけだったが、駿河は直ぐに白くなるだろうと思った。そうなると暖房器具も出さなければいけないし、光熱費がかさむ……あんまりそこは深く考えないようにしよう。必要経費だ。何か別のことを考えよう。
そういえばこれから寒くなっていくのだろうが、この寒い中自分は紗綾に外を連れ回されるだろうか。それは本当に勘弁してもらいところである。色々やりたい放題だよな、と駿河は苦笑する。
自分のその言葉の背後にある特定の感情を認めながら。
勿論、振り回されるのは嫌だ。だけど。
正直なところ、悪くないんじゃないかなと思ってる自分がいるわけで。とはいってもやはり紗綾ちゃんに振り回されている最中にはそんなことは欠片も思うことは無いのはおかしいと考える。
矛盾した気持ちだと思うが、むしろ感情とはそんなようなものじゃないかと思い直す。どっちつかずが当たり前。まあ、なんだかんだ言って、清濁合わせて考えて、結構この生活が好きだった。こんな生活を気に入っていた。
喉元過ぎればなんとやらで、喉元が過ぎていった生活は案外、楽しいもの、美味しいものになるのかもしれない。そう考えると悪くない。ふと笑い出しそうになった。一人で居るとポジティブになるのは何故だろうか。一人きりだからこそ、人には見せたように照れながら少し微笑んだ。
「くーろーさわ、先輩っ!」
と思ったら____視界の隅からひょっこりと甘利の顔が。
「なっ、甘利ちゃん!?」
「んー? どうかしましたかー? 黒澤先輩ー? 何してるんです?」
無邪気な顔の甘利を見て、今の表情を見られてなかったよなと安堵の息をつく。