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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
20/59

19

(全く、冴木は酔いすぎだ)


 布団を押し入れから出して、フローリングの上に敷く。ひたすら水色の布団カバーが今日はいつもより濃く見えた。


 冴木はからかうのならばもっとマシな言い訳でも考えてもらいたいものだ。と思いつつも、先程の冴木の瞳の色は本気である目の色だった。よう、な気がするとも思う。


 改めて考えてみると僕と紗綾ちゃんは確かに外から見れば凄く仲が良く見えてもおかしくない。が、実質は僕が振り回されているだけであり、そこに恋愛感情は、ない。と思う。紗綾がいくら佳人だと言っても僕にその気持ちは……。


 ぐるぐると今までの事を思い出しても結局紗綾に腕を引っ張られて親戚の年下の女の子の面倒を見る年上のような振る舞いをしている自分の姿しか思い浮かばない。冴木が何を思って言ったのか……そもそもこうやって考えさせるのが目的か? からかっているのかも。


 駿河は部屋の照明に答えを求めるように眺めた。いつも通り煌々と明かりが点っていた。眩しい。


 ……とりあえず、考えるのはやめ、だ。寝よう寝よう。


 そう思った矢先に外から強弱が不安定なコンコン、コンコンという音が聞こえてきた。コンコン、コンコンと、いう音はメトロノームのように次第に大きくなっていき、山彦の様に響いている。

 駿河は一瞬何の音だ? と首を傾げた。何かを叩く音。乾いた音。金属を叩く音。


 誰かが僕の部屋のドアを、叩いているのか? ……どうやらそうらしい。


 しかし、誰だ。こんな時間にチャイムを押さずにノックで訪ねてくる人は。


 駿河がこんな夜遅くに誰が訪ねてきたのだろうと、訝しげにドアを開けると目の前には如月紗綾が立っていた。雪女かな、と駿河は自らに冗談を言った。紗綾の肌があまりにも白くて美しいから昔小耳に挟んだ自らの命を省みずに助けてくれた遭難者に恩返しに来た雪女の逸話を思い出した。


 そうは言っても現実と違うのは紗綾の顔は火照って赤く、目がうつろだったことだった。いつもは良く締められていて怜悧そうな眉もキレを欠いていて全体的に緊張が溶けきり緩い雰囲気を漂わせている。

「紗綾ちゃん?」


「はい、先輩」 


「こんな時間に何か用かい?」


「お邪魔しまーす」


 駿河の言葉をラジオで流れているかのように適当に聞き流しながら無視して紗綾が駿河の部屋へと転がり込んだ。


「さ、さやちゃ……?」


「ふぇ?」


 紗綾は駿河の部屋の奥へとふらふらとさまよう幽霊のように覚束無い足取りで入って、布団へと倒れ込んだ。


「こんな夜中に何しに来たの?」


 駿河が紗綾の奇行を心配に思って駆け寄ると紗綾が顔をゆっくりと上げた。


 目と目が合う。 


 相変わらず大きな瞳は透明さを欠けていて、うっすらと雲がかかった月のような光を放っている。


「えと、今日は御礼を言いたいと思いまして」


「お礼?」


 両手をいじらしそうに合わせながら紗綾はにっこりと笑った。


「……その……先輩、今日は楽しかったです。だから、ありがとうございました」


「それは誕生日会を開いてもらった僕が言うべき言葉なのでは」


 ひくっ、と小さなしゃっくりを一つしてから紗綾は顔をしかめた。


「いーんですよ! 細かいことは! 全くいっつも細かいですね先輩は!」


 何に気を害したのか不明だが紗綾の力ない右ストレートが駿河にヒットした。


「ちょっと紗綾ちゃんいきなりなんなんだ」

「みゃー」


「……酔ってる? 大丈夫?」 


「酔ってなんかいるもんか! 酔ってない! 私は! 断じて! 酔って、ないんだー! ……ふにゃ」


 紗綾は精根尽き果ててばたり、と布団に倒れ込んだ。


「あの……紗綾ちゃん?」


「むにゃむにゃ」


「……参ったな」 

 

「おーい紗綾ちゃーん。起きてー、起きてくれー」


 駿河が紗綾の体を揺さぶるが何の反応もなかった。


(仕方無いか)


 紗綾を置いて取り合えず部屋から出て、紗綾の酔いが治まるのを待とうと考えた駿河は部屋から出て、そうだな、コンビニに行き、缶コーヒーでも買って時間を潰そうとした。


 玄関まで来てステンレス製の取っ手に手をかけたところ「しぇんぱぁい」と後ろから声が聞こえてきた。思わず駿河は振り返った。そこにはすやすやと心地が良さそうに眠る紗綾の姿があって、駿河はなんだか笑ってしまった。

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