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眼帯娘とオカルト先輩  作者: 水戸
HINOTAMA
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13


 焼き肉の煙が室内に燻る。テーブルの上にはなみなみと注がれた生ジョッキが円を描くようにして置いてある。それを各々見ながらごくり、と唾を飲み込んだ。


 まだ肉は来ていないが店内の熱気と、何より肉汁が炭に滴ってパチンと弾ける音と肉が焼けて香ばしさをふんだんに辺りに漂わせる匂いがもうたまらない。


 駿河は焼き肉を食べに行くといつも決まってアルコール飲料の他に口がさっぱりするという理由で炭酸飲料を頼むので、駿河の前にだけグラスは二つあった。


 というよりも駿河の好きなメニューは比較的さっぱりしたものなのだが、こうして皆で食べに来ると油っこいものも食べざるをえない(油っこいものが嫌いという訳ではなくてあくまで比較的であり、目の前でじゅうじゅう焼かれると自然に手が出る)せいで必要だった。今日はジンジャーエールが置かれていた。駿河は甘いものがあまり好きではなかったがこういう時の炭酸飲料だけは特別だった。


 駿河は油っこいものを炭酸飲料で紛らすという考え方が酷く合理的だと思っているから節さえある。それだけではなく、まだ自分が小さい時分に連れていってもらった焼き肉屋では、いつも炭酸が入ったオレンジジュースを飲んでいた記憶があってそれを懐かしんでいるからという理由もあるだろうと思う。


「しっかし、先輩ってばあの時、完全にキメてましたよね。紗綾ちゃん? 何を企んでる? って格好よすぎです! きゃーっ」


 駿河の横に座っている紗綾が両手で顔を隠しながら子供の様にはしゃいでいる。駿河が困るのを見て、喜んでいる。


「僕の傷を抉るのをやめてくれ紗綾ちゃん」


「紗綾さん。黒澤先輩が困ってるじゃないですかー!」


 甘利がはしゃぎながら駿河にくっつく紗綾を嗜めながらひっぺがえすと紗綾は不満のようで名残惜しそうに駿河の方を見た。その後、甘利を睨み付けた。


「何をですか甘利ちゃん! 先輩はドMですから喜んでますよ! 見てくださいこの顔を!」


「とんでもなく嫌そうな顔をしているように甘利には見えますが」


「そんなことありませんよ!」


「ありますよ! 絶対黒澤先輩のこの顔は紗綾さんの事を恨んでるって顔をしてます!」


 甘利十和が駿河の顔を見てから、紗綾の方に視線を移して溜め息を吐いた。二人の間にはライターの火をつけるには十分な程の火花が散っていた。


 そこに「まあ、ともかくだ」と言葉を挟んだのは冴木良平。


「取りあえずつもる話があろうがなかろうが、乾杯と行きますか!」


 賛成ー! と言いながらみんなのお姉さんポジションを努めている女性の、そして酒飲みの、御津菜々子が手を上げた。


 筒賀澪もそれに同調して無言で手をちょこんと上げる。


「じゃあ、みなさんグラスを持ってください!」


 あくまで、これは駿河の誕生会なのだ、と我に返った紗綾は手元のグラスを手にとって聖火ランナーかのように天高く上げた。他の面々、駿河も含めて、紗綾の合図で皆グラスを高くあげる。


「じゃあ、かんぱーい!」


 カッコーン! という小気味良い音で黒澤駿河誕生パーティー、つまりただのアパート《ルプラホーン》の住居人たちの飲み会が始まった。


 乾杯の時、駿河は冷ややかにひきつり笑いを浮かべながらグラスを合わせたのは言うまでもない。

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