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「紗綾ちゃん? どういうこと?」
駿河が紗綾に質問すると紗綾は悪戯っ子の様に笑っていた。駿河は自分が何かをされている、あるいはもうすでに何かをされた後にも関わらずなにが起きたのか分からないという不安に駆られていた。
「こういうことですよ。みなさん、もう出てきてくれてもいいですよー」
紗綾が茂みの方に声をかけるとガサガサと茂みを掻き分けて、数人の人間が出てきた。駿河は呆気にとられた。
「予定よりも大分早い種明かしだな管理人さん」
余裕を出そうと失敗して早口になってしまっている声が駿河に聞こえた。
「だな、冴木。紗綾ちゃんが待ちきれなくなっちゃったのかな?」
「黒澤せんぱーい」
その顔触れは駿河もよく知った人ばかりだったからだ。四人。だが、何故?
「甘利ちゃん? ……、それに筒賀、冴木。……御津さんも。紗綾ちゃん、ナニコレ?」
「黒澤____。なんだ見抜けなかったのか? 御津姉さんは河童の河流れを見てしまったよ____」
色が落ちかかって茶色と黒髪が混ざりあった髪色がこの女の元気の良さを象徴している。駿河よりも年が一つないし二つ(ぼかしているので教えてくれない)御津奈々子が駿河の肩を哀れそうにポンポンと二回ほど叩いた。
「良いものが見れたよ黒澤」
「ちょっと御津さん? なんでここに____」
「誕生日、おめでとう。駿河」
戸惑う駿河の元に前髪で表情を隠す大人しめそうな女の子が話しかけた。筒賀澪という学部は違うが同じ年の女の子、駿河と同じ年で普段は前髪を深く下ろしてその表情をを窺い知るのは少し難しい。
「筒賀まで何をしてるんだよ」
「えっと、それは。だから……」
「うん」
「その、えと」
「なんだ?」
「うぅ……」
「ハッピイバースデイですよ先輩!」
言い澱んでいる筒賀をフォローして紗綾が駿河にニッコニコで____それはそれは満面の笑顔を向ける。
「は? 何なんだこの状況は紗綾ちゃん。説明してくれ」
「誕生日おめでとうございます、先輩!」
「え?」
紗綾がバッグからクラッカーを取り出して数秒後には、駿河は爆音におそわれ紙くずだらけになることとなった。
「アパート《ルプラホーン》の総力をあげての先輩へのドッキリサプライズ! 火の玉騒ぎは先輩の誕生日パーティーの余興のミステリープレゼントと、いうことだったのです!」
「意味が分からない」
「先輩の為にみんなが集まってくれたんですよ。全員先輩のことをからかいたいだけかもしれないですけど、紗綾は心の底から祝っていますよ!」
「紗綾ちゃん、すまない僕にはこの状況が把握しきれていないんだけど」
「だからーっ! 先輩のバースデイパーティーを開くって言ってるんですよ!」
「僕の誕生日は来週なんだが」
「皆が都合つく日が今日だけだったんですよ。大丈夫です、先輩の本当の誕生日には私から別にプレゼントがありますから」
駿河は満天の夜の星たちを見上げた。美しく輝いていた。まあ、それはいい、とりあえず今の状況を整理しよう。
そして、ある重要な事に気づく。まさか……。
「黒澤、誕生日おめでとう」
「冴木。お前らいつから僕と紗綾ちゃんをいつから見ていた」
「ん、最初から。それと見てただけじゃなくて聞こえてたぜ、大体」
「今一番知りたくなかった情報をありがとう」
駿河は赤面した。そして先程の自分の言った言葉を思い出してみる。
「恥ずかし……何が企んでる? だよ。僕の馬鹿……」
「とにかく先輩! さあさ、飲みにいきません?」
「で、火の玉は結局なんだったんだ?」
「私の私物のランタンですよ。ちなみに封鎖の件は甘利ちゃんに聞きました」
紗綾ちゃんの部屋には何でもあるね、と言った駿河の一人言のような呟きはすぐに他の声にかき消された。
夜に人間たちの熱がこもりはじめる時間帯だった。




