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「全くチュパカブラの次は火の玉か。仲諒大学も随分魑魅魍魎が練り歩く魔境になったものだね。やれやれ、今回は何が待っててくれているのか」
「ドキドキワクワク」
「してないよ」
口ぶりに合わせて、に紗綾が笑う。
「それで結局、紗綾ちゃん。どういう話なんだよ?」
「火の玉ですか? それとも私について?」
とぼける紗綾に駿河は一寸考えてから。
「紗綾ちゃんのことかな」
頭上のオリオン座を見ながらそんな事を言った。そして視線を紗綾に移すと紗綾は、目を細めて、こくりと頷いていた。長い黒髪を風に靡かせて一回転。スカートがフワリと風に煽られる。そして満面の笑顔で駿河を見てきた。何がそんなにも楽しいのか駿河にはいつも、分からない。
「ああ、なるほど! 火の玉についてですね! ……良いですか先輩、紗綾が聞いた話はこうです!」
紗綾が人指し指をピンと立てる。
「……天の邪鬼だねえ、紗綾ちゃん?」
「鬼……? なるほど鬼火と言う言葉があります!」
「流暢に話題を逸らしながら自分への皮肉を受け流すのはやめてくれるかな」
「分かりました、仕方ありませんねえ。先輩、この大学に昔オリンピックまで出たトップアスリートの話は聞いたことがありますよね?」
「……すまない、僕はそういうのには疎いんだ」
「なるほど、御存じではない? まあ、いいです、そこの所は割りとどうでも。重要なのは影なのですから」
「影?」
「そうです! 光があれば影があるのがこの世界の理です。オリピックに出場出来るほどの華々しい活躍をする人間が居ればそうでない人間もいる。いいや、そう言ってしまうと幾分の語弊がありますねえ。むしろ、そうでない人間の方が多い。スポットライトに当たる舞台の上の役者よりも、スポットライトを当てていたり、当たらなかった人間の方がよほど多いのです。舞台作家という最大の黒幕さえスポットライトは当たらないですからね」
「話が見えてこないんだけど」
「おっと、ここまで話をしても先輩とあろうものがお気づきになりませんか?」
「推察するに、今紗綾ちゃんはオリンピックに出た選手の事を光と例えていてそして影。つまり、紗綾ちゃんはスポットライトを浴びたくても浴びることの出来なかった哀れな選手、だかなんだかが自殺でもして、その霊が出てるとでも言いたいのか。いかにも紗綾ちゃんが好きそうな話で」
「御明察ですねえ、相変わらず流石と言っても差し支えありません。その通りです」
「何だろう、この気持ち」
「勿論その噂を私が聞いたのであって、私が言っている訳ではありませんが……。私の友達の話では大学で彼氏と宵闇の中待ち合わせをしていた所、ふわっ、と暗闇の中に明かりが灯されて不思議だな、と思った瞬間に消えていたそうなんですよ。ここで紗綾はビビッと来ましてね、この大学に何か関連しそうな事件は無いかと調べた結果の結論です。ほら、そこの林で見たらしいです」
紗綾の話を聞いてみれば、紗綾の友達が夜にこの大学構内で火の玉を見た、という話だった。
ただ、友達が火の玉らしきものを見て不思議に思って紗綾に話した、というまでは駿河も了承せざるを得ない所だったが、その後のオリンピックがどうとか、自殺だとかは、信憑性はともかくとして紗綾が適当に調べてこじつけたようにしか駿河には聞こえなかった。
B級ホラー映画でももう少し説得力のある論理を持ち出してくるだろうとしか思えなかった。駿河は表情に落胆の色を混ぜながら、肩を落とした。
「相変わらず紗綾ちゃん。本当に一人でやってればいいんだろうになんでいちいち僕を呼ぶのかな……それに、素晴らしい洞察力とお話作りの能力だね。文学部らしい良い頭をしてる。その二つは恐らく何の関係もないだろうよ」
「とはいえ、先輩。私の頼みを聞いてくれると言いましたから、付き合っては貰いますよ?」
「あー、やれやれ。いいかい紗綾ちゃん。その話には幾つかのおかしい点があると思うんだけど気づかないかな?」
「ふぇ? なんです? 私何かおかしいこと言いました?」
「____色々とね」




