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チャイルド  作者: ポン汰
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正志の想い

大学の掲示板

ずらりと並ぶプリントの中からある一枚のプリントに目がとまる。



《茶道サークル新入生大歓迎!!》


《今なら特典が付いてくる!!何が付いてくるかはお楽しみだゾ☆》


《茶道サークルのみんな★》



ゆっくり目で文字を追っていく。




水原みずはら なき


俺の好きな子の名前。


彼女は大学に入るまで彼女は俺のこと知らなかったと思うけど、俺は知ってた。

ずっとずっと前から―




10年前の夏―


「よーし、正志今日は隣町までいって蝉取りするか!」


「やったー!!父さんたまにはやるじゃん、雪も行こうぜ」


「やだー、雪の自慢の白い肌がやけちゃうでしょ、馬鹿正志」


「・・・・」


「・・・・」


いつからこんなませた子になったんだよ、無言の中に父のそんな思いが隠されていた。


というわけで、その日俺は隣町まで行くことになった。

車の中から見る、見慣れない風景。

徐々に町から畑が広がるような場所に入って行った。


「着いたぞ」


(うわ・・・ぁ、キレイ・・・)


父が車を止めたその場所にはひまわりが広がっていた。

その光景は幼い俺を感動させた。


「すげー!!すげー!!」


「こらこら」


俺はとにかく走りまわった。

我も忘れて入りまわっているうちに、父の声が聞こえなくなった。


「父さん・・・??」



「父さん!!」


心細くなり、必死で父を捜した。

すると、不意に視界が開けた。ひまわり畑を抜けたのだ。

その時


グギッ


(なんだ?!)

俺の視界には

空。地面。空。地面


バサッ


転がりながら何かの上に落ちた。

柔らかい。。多分草とかだな・・・・そんなことを考えながら意識が遠のいていった。




何時間、何十分、何分・・・いや、何秒かもしれない。


「だいじょうぶですか??」


白い帽子をかぶった女の子。

年は同じくらい。


「あたし、なき。水原 なきってゆうの。ヨロシクね」


そのこはにっこりとほほ笑む。


「・・・・」


カワイイ・・・

でも



とりあえず俺の身体を起こしてくれ!!


きずいたのか何なのかわからないが、その子は俺のからだを起してくれた。

「うわぁ!!」

足首から大量の血が流れていた。

情けないことに血が全く駄目だった俺はカワイイその子の前で泣き出してしまった。

(こんなとこで死にたくねぇよぉ〜こんなことならガンデシャスのフィギア全部集めたかった・・・あと、ホワイトガンデシャスだけだったのに。。。)


ガンデシャスとはその時はやっていた、まあ、戦隊ものみたいなやつだ。


「はい、これでだいじょうぶ。」


足にひんやりとした感覚が伝わった。

その子がはんかちをぬらして足に当ててくれたのである。


「あ、ありがとう。」


恥ずかしいのと照れ臭いのでどうしたらいいかわからなくてぶっきらぼうに言った。


「ふふ。」


その子が笑った。


やべーやっぱあらためてみるとめっちゃカワイイ!!


「ここに住んでる子…?」

「そうだよ」


「正志ー!!」

そこで父さんがきた。

ちっ。邪魔者め!!

幼いながらに俺はそう思った。

「心配したんだゾーーーーーー!!」

来るなり俺をだきしめてほおずりする。

髭がいてーよ。


あ、あのこは。。。。



いなくなってた。



俺はずっとその子のことが気になってた。

水原 なき・・・・

もう会えないと思ってた

でも・・・



中2の夏―

「まじあちー!!!」


俺は電車の中で周りの目を気にするでもなくそう叫んだ。

一瞬、何人かの視線が俺に向いたがすぐに気にするまでもなく元の位置に視線を戻す。

他人なんて自分が思っているほど自分のことを気にしていないものだ。


プシュー


電車が開く音がする。

結構な大人数がどかどかっと流れ込むように入ってくる。

その中にはお年寄りや妊婦さん、子ずれの主婦・・・


(仕方ない、立つか)


そう思って腰をあげる。


「・・・・・・」


言葉を失った。

目の前にいるおなじ歳くらいの女の子に目を奪われる。

髪は肩くらい。長い前髪ときれいに長さが揃っている。

彼女は本を読んでいてこちらの様子など全く気にしていない。

あの夏の記憶がよみがえる。


間違いない



彼女は全く変わっていなかった。

ちょうど思春期真っ盛り

声なんて掛けられるはずがなかった


彼女はますますかわいくなっていた。

きれい、というよりはカワイイがぴったりだ。

俺は自分の気持ちの大きさに驚いた。



それからは彼女が乗ってくる時間に電車に乗るようにした。

今思えばストーカーのようだけど、そのころの俺は必死だった。

見ているだけで幸せだった。


でも・・・ある時から彼女は元気がなくなった。

なんだかすごく痩せて、キラキラしていた瞳もどんよりもやがかかったようになっていた。

おれは心配になったが結局何もできなかった。



高校に上がってもおれの気持ちは全然変わらなかった。

けど、高校にあがったことであの電車にのることはなくなった。

彼女の元気ない病人のような姿が気にかかっていた。


今度こそ本当にダメかと思った

でも奇跡が起きた。




大学入学式―


「人が倒れたぞ」

周りがざわついた

(なんだなんだ・・・)

やじ馬で見に行った俺は自分の目を疑った。

次の瞬間


「おれが運びます!!」


気づいたら体が勝手に動いていた。





なき、俺ね、10年前のあの頃からずっとお前だけを見てたんだよ。

はずかしくて言えなかったけど

いったら「ストーカー」っつって笑うかな。


何回も告白するのは今までのあふれだしそうだった気持ちを伝えてるだけ。

君が気持ちを受け入れてくれなくても。



ただ・・・ひとつきになることがあるんだ。

君はたまに影を見せる。

その一部が対人恐怖のことで、それは話してくれたね。

でも、それより重大な君を苦しめている大きな原因が

きっと中学生だったあの時あったんだろう。

聞いちゃいけないってわかってる。

話してくれるまで待つ。

でもさ、じれったい、切ないいろんな気持ちが混じって時々すごく苦しくなるんだよ。



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