未タイトル
君は、眼鏡をかけていた。そのレンズの奥ではキリッとした目が光っている。性格はキツそう、話も合わなそうな知的な感じ。
対する俺は子どもっぽくて、それを鼻で笑うように馬鹿にしてきそう。
そんな第一印象だった。
しかし、華奢で色白で聡明な女でもあり、触れたら壊れるんじゃないか。でも魅力的で美味しそうだった。
話せば、見せたその笑顔に一気に引き込まれた。
次に会う店は有名店だった。子どもっぽい俺には敷居が高い。けれど、君のためにはそこに挑むしかない。
待ち合わせ場所には、まだ君がいなかった。雨が降っている。傘にぶつかる雨粒が音を響かせ、電話の呼び出し音がイマイチ聞こえない。でも画面を見れば君が出ないことはわかる。メールを入れても返信は来ない。何故?
奇跡は起こらないのか?何故来ないのか?俺のちっぽけな心は待つことしか出来ない。
その夜、人はやっぱり見た目だと思った。鼻で笑うように馬鹿にしてくる君の仕草で拒否するべきだった。なんであんな奴に惹かれたんだ。
それでも、忘れようとすることが間違ってるんだ。忘れたい、忘れられない。寝ても覚めても、君を思い出す。
気弱な心を見せないように。俺は自分を変えて、レベル高い無理めな君にふさわしい俺になれるように、変わるんだ。
*
馬鹿みたいな君の約束をすっぽ抜かしたけど、今回は会ってあげるよ。無愛想な態度を君に向けるけど、優しいキスをしてあげる。君は、私に言い訳をする。迎えに行かなくてごめん、と。約束をすっぽ抜かしたのは私だけど、何か勘違いしてるみたい。私は君のペースメーカーになれた。月明かりが輝く夜に笑みを浮かべれば、君を翻弄出来るの。
お願い、壊れるほど抱きしめて、そう言って、君を誘惑すれば甘い香りに誘われたように、理性を失った君に身体を預けられるの。
行為のあと、指輪をはめられた。私はそんなモノは要らないのに。指輪を眺めてそれを弄んで眼鏡を外してキリッとした目を向ければ心を見透かされてると思ったのか、君は困った顔を向けた。
*
その目を向けられても、俺はわからない。指輪はいらなかったのか。それでも欲望の衝動は俺をかけ巡る。その吐息と眼差しをもう一度俺にくださいと言えない。欲しいけど言えない。俺には成す術もない、哀れだ。言葉はいらない。もう戻れなくてもいい。だから、もう一度だけ。
でも、君は言う。今は友達でいてと。身体の関係にいけば、君を追い詰めたと思っていたのに、追い詰められていたのか。関係を持った以上、私の言いなりよ、と。
それなら弄ばれてやろう。馬鹿は馬鹿なりに君を落とす。本気モードになろう。君を好きでいる限り、俺はずっと不利。
だって俺らは友達だけど、恋人のフリの行為はするから。それでも、本当の恋人にはならない。
いくら君に指輪をはめても、外されてしまう。やめようか?指輪が俺の首を絞めているから。指輪をはめることをやめれば、君は不思議に思うだろう?
*
私はまだ迷っている。何を信じればいいのか。優しい男も、金を持った男も、最後は私の身体を奪えば終わりだった。君は、私と関係を持っても指輪をくれたし、友達でいてといえば無理に押し倒さなかった。それがつまらないから私から関係を迫ったけれど、君は馬鹿だからペースメーカーの私についてきちゃうの。
迷ってるなら、俺の側にいて。初めて、君が私の心を見透かしたようなことを言った。初めてのことだった。身体目当てじゃなくて、側にいてと言われるのは。
心の中はいつも土砂降りで、自分を守る傘は小さくて身体を濡らし続けた。そこに、君が大きな傘で私と君を覆ってくれたようだった。
*
君がいればいい。何も要らない。君の纏う空気が変わったような気がした。指輪をあげるのも、身体の関係を迫るのもやめたら、君は俺に心を開いたようだった。真実は誰もわからない。けれど、俺と君の関係はまたゼロからスタートできるようだ。
嘘はつかないで、真実を全て受け止めるから。
*
数々の男に傷つけられた心を君が満たしてくれるようだった。土砂降りの中でも、手を離さないでくれた。
私は彼にそっとキスをする。
「付き合ってください」
彼の言葉に頷いた。