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魔女の気まぐれ


  奴隷オークションがあった夜から数ヶ月が経ちました。


  私は今もアルカさんの元で静かな暮らしを送り、王族だった時のように毎日魔法の勉強やら、いつ使うかもわからないような剣術の勉強をすることもなく、人生初のスローライフというものを送っていて、不満一つなくとっても幸せです!



  ーーーーそう言いたいだけの人生でした。



「いくぞリリスよ! 『イグニス・ファトス』!」


  そうアルカさんが唱えるやいなや真っ赤に染まった紅蓮の光球が私めがけて一直線に飛んでくる。


「いやあああ!   空を渡る天空への架け橋よ!  『ヘヴン・リード』!!」


  すると私を光の壁が周りを半球状におおい、光球の軌道をずらして天高く打ち飛ばす。


「おいリリスよ!   何故ゆえさっきから軌道を逸らす『逃げ』魔法を使っておる!  防御魔法を使わぬか!」


「私の得意魔法を『逃げ』魔法呼ばわりしないでください! ていうか私の防御魔法じゃ私はもろとも一瞬で消し炭になるわ!」


  さっきの光球により地面は深く抉れて周りの木はやき焦げている、いくら森の奥まで来て家から離れているとはいえ危険すぎる。


  ーー何でこんな王家直属騎士も真っ青な自体に陥っているかというと、それは少し前に遡る。



◆◇◆◇



「娘よ!   いるか!?」


  数ヶ月前とは打って変わって髪を整え、真っ白なワンピースを着て椅子に座り、ゆっくりと読書をしていた私に向かって慌しい様子で相変わらずの黒のドレスに身を包んだ(というかそれ以外見たことがない)アルカさんがある紙を持ちながら声をかけた。


  この家に住んでから気づいたのだが、アルカさんは常に落ち着いた大人な女性ーーという訳ではなくて、案外子供っぽくテンションを上げてしまう一面もあるらしい。


「どうしたんですか?   なにか嬉しいことでもありましたか?」


「ふふふ、これも見よ」


  そう言ってテーブルに置かれた紙には貴族の娘限定の魔法を一本勝負、と大きく見出しに書かれていた。


  あー、なんかそんなイベントあったなぁ、将来有望な貴族の子供を見るために年に一度開かれている大会だ。


  まぁ私は出たことないから少し耳にしたことある程度だ、男と女が別々でその年一番強い人物を決めるらしい。


「いや、私もうただの平民ですから。貴族じゃないですし、出れませんよ?」

「違う、ここだ」


  そう言ってアルカさんが指さした先には特別枠、というものがあった。


  それはどうやら貴族でなくても平民の中から代表で一人だけトーナメントに参加できる、というものらしい。


「いや、出ませんよ!   それに見てください、代表者はもう二日前に決まってますよ、この大会明日じゃないですか」


「ふむ、少し出遅れてしまったがぬしの実力があれば特別枠の奴も諦めるだろう」


  なんという暴論……


「それにその代表者は特別な国章を胸につけて会場に来るだけで、事前に誰が大会に出る等の申請は一切不要ときた。 その国章さへ手に入れれば余裕だな」


  あ、この人全然諦めてない。 期限なんてとっくに過ぎてんのに諦めるつもりなんて微塵もなさそう。


「だいたい、これに出て何になるっていうん……」


  チラシを改めてみると、優勝者には王家より賞金と書かれていた。


  そして目の前には目を輝かせて私を見つめるアルカさん。


「いや、アルカさん?  数ヶ月前は私にとって金なんてただの紙切れ同然、なんてかっこいいこと言ってたじゃないですか?  結局お金が欲しいんですか?」


「いや、最近ある物が欲しくてな……娘を買ったおかげでそれすら買えんのだ。 娘を買ったおかげでな」


 この人器ちっさ……確かにあのままあのじいさんに買われていたら私は今頃死んでいるのだがそんな言い方はないんじゃ?


「よし、そうと決まれば今から少しでも実戦練習をするぞ!  少しでも魔法対決に慣れておこうではないか!」


「え!?  ちょっと!?  私まだ出るなんて一言も」


  そう言って私の手を引っ張り森の奥へと連れてこられて、


  そして今に至るというわけ


「娘も攻撃してこい!   案ずるな、破壊した森は後で私が直しておく!  どんとくるがよい!」


  さすがにいかに寛容な私と言えど少しばかりカチンときた。静かに森の鳥のさえずりを聴きながらゆっくりと読書をしていた所、いきなり連れてこられてからのこれだ。


 もう容赦はしない、少し遅めの反抗期と行こうではないか!


「怪我しても知りませんからね!」


 私は心を穏やかにし、両手を重ねて力を集める。

今からするやつは最上級魔法の一つだけど死にはしないでしょ!  多分!


「大精霊アダムよ、その力を現し世まで轟かーー」

「『イグニス・ファトス』!!!」

「空を渡る天空への架け橋よおおおお!!」


  攻撃魔法の詠唱を急遽中止して、容赦なく飛んでくる光球を『ヘヴン・リード』で寸前に上に逸らして回避する。


  あっぶな!   あと少し遅かったら絶対死んでた!


  私の詠唱が終わるよりも早く先程の、最上級魔法を遠慮なしにぶっぱなしてくるあたり本当に容赦がない。


「いやせめて打たせてよ! 詠唱途中にぶっ込んでこないでよ!」


「詠唱なんぞしてては遅いわ!  そんなんじゃ私に追いつかんぞ!」


「いや普通詠唱しますから!   無詠唱で最上級魔法ポンポン打つアルカさんがおかしいですから!」


 無詠唱で出来るのは付加系魔法や幻惑系魔法などの比較的少ない魔力で済む魔法だけだ。しかしどういうわけかアルカさんはお構い無しに最上級魔法を無詠唱で打ちまくっている。


「なに、何年にも渡る訓練の賜物だよ。まだまだいくぞ!」


 そしてそのまま私はずっと逃げていたわけだが、途中で魔力が尽き、最後は半ばヤケになってずっと森の中を走り回っていた。


  うん、正直死ぬかと思った。


  まぁアルカさんも私に当てないように気を使ってくれたらしく、死ぬ思いをするだけですんだ。

いいのやら悪いのやら……


  そして私たちは実戦練習と銘打った命懸けの鬼ごっこも終わり、荒らしまくった森の修復作業へと入っていた。


「これ、本当に元に戻るんですか?」


 辺りの地面は抉れて木々は焼け落ち、周りはほとんどの焼け野原となっている。


「私を誰だと思っているんだ、余裕だ、こんなの」


  そう大きく出たアルカさんは両手を大きく掲げて相変わらずの無詠唱で魔法を唱えた


「『リバース・ギフト』」


  すると森は淡い光に包まれて、まるで早送りされているかのような光景で圧倒的スピードで元の森の形へと戻っていく。


「すごい……」


  森を再生させるなんて魔法を私は初めてみた、常軌を逸しているとしか言えない。


「言っただろ?  余裕だと」


  そうニヤリと笑い、誇らしそうに胸を張りこちらを見た。


  というかこの人の魔力は無尽蔵なのだろうか、あんなにポンポン魔法打っておいてこんな魔法を使えるとなると本当に魔力の底がないように思えてしまう。


「さてと、明日はまず特別枠の奴をハッ倒すところからだな。何としても特別枠を確保、次に優勝者だ」


 自信しかない様子でそう話しかけられると、なんだかこっちまでやる気が出てしまう。

  こうしてのせられていくのだなぁ……と私は思った。まぁ私に五億使わせてしまったという少しばかりの罪悪感もあるが。


「はぁ……少しは私にも分けて下さいよ?」


  明日は随分と忙しくなりそうだ。






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