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そして彼らは歩き出す

「どうすっかなぁ、小説の方。」


生徒会室を抜け出し、教室で白紙を前に腕を組みながら俺は唸っていた。


「…………そんなに書かなきゃいけないのその小説。」


そして一緒にいる樟葉(くすのは)さんは机上でフィギュア同士を遊ばせている。一応この人に挿絵を担当してもらっているから、小説作りの時は同席してもらうことになっていた。趣味が高じて絵が描けるようになったらしい。正直めちゃくちゃ上手い。俺の500倍は上手い。


「まぁねぇ………なんていうか義務感なんだよね。これを書かないとお前に未来はない!って感じの、よくわからない義務感。」

「自分でよくわからなかったら私は尚更よく分からないんだけどね。」

「だからどう書くか困ってんだよなぁ!」


俺は大きく背伸びをすると天井を見上げた。白と黒のマダラ模様。ロールシャッハテストになるほどの複雑さはない。ただの白と黒の小さな模様だ。

正直な話、現実で起こったことをそのまま書くかアレンジを加えるかを悩んでいるのだが、表面世界のことを樟葉さんに知られたくない俺は誤魔化しているのだ。アレンジを加えるとなると表面世界とこの現実をリンクさせたものになるから、遥かに難しいんだよなぁ。伏線も張りたいから、そうなると複雑すぎて書き切れなくなる気がする。かといってそのまま書くとなると俺が面白くないっていうか、途中で飽きちゃう気がして………どうしたもんかなぁ。


「…………なんかよく分からないけれどさ、その……[Face of the Surface]では何を伝えたいわけ?」


何を伝えたいか…………難しいな。俺はあの経験を通して一体何を伝えたいのだろうか。唸りながら考える。メチャクチャ考えるが気恥ずかしいセリフしかでてこなくて恥ずかしくなった俺は、耳に手を当て冷ましながら天井を見上げた。

伝えたいことが多すぎる。俺にとってあの経験は人生観を大きく変えてくれた。苦い経験、感謝、認められるということ…………あまりにも複雑だ。「人生を伝えたい。」といえば良い感じなのだろうが、それだとあまりにも大きすぎる。核心を考えなければ…………


「…………奇跡なんて起きないってことかな。」

「ええ…………ちょっと暗くない?」


樟葉さんが両手に持っていたフィギュアがバタリと倒れた。


「階級制の世界だから努力なんかしてもどうしようもないからって、奇跡なんて願っても仕方がない。現実と同じで、奇跡を願っている暇があったら、現状を打破するための努力をし続けた方がいい。その先に未踏の領域があるってだけで………奇跡なんて言葉は、結局、弱者の言葉でしかないんだ。」


俺があの世界を経験して思ったのはそんな所か。


「そして諦めないこと。……………希望や輝かしい未来ってのは奇跡じゃなくて諦めない先にあるってことさ。俺は全然暗くないと思うよ。むしろとても明るいとすら思う。戦わない人間が望んだ未来を得られるなんて方がおかしい。」

「…………なんていうか、な○う小説の逆って感じだね。」

「しょうがないよ、俺あれ嫌いだもん。努力を神格化するつもりはないけれど、あれ見るぐらいならギャグマンガを見るね。そっちの方が上質な笑いをくれる。」


さてと、今最高にまずいことを言った気がするが、まぁいいや。こんな小説、ネットの有象無象の中に溶けて消えるんだ。好きなだけ言ってやれ。


「あとは………そうだな、自分の思う正義を貫くこと。根幹はその3つかな。」

「ふーーん…………じゃあそれをしっかり伝えられる小説にすればいいだけじゃん。設定とか舞台とかはそれに合わせて作ればいいだけだし。」

「おお、天才かよ樟葉さん。」

「当たり前じゃないの。どんだけマンガとかアニメ見てきたと思ってるの。」


やはり1人で何かをするには限界があるな。複数人でやると自分が思い付かないようなアイデアがポンポンとでてくる。だからブレインストーミングが大好きなのだ俺は。え、知らない?確かに初めて出した知識かもしれない。


「んじゃあ次はイリナや宏美達に聞いてみるか。」

「えぇえ!?い、イリナちゃんといつ親密になったのよ!今すぐここに呼びなさい!そして私を親友だと太鼓判押しなさい!」

「…………俺の親友はやめた方がいいですよ。評価が下がる。」

「じゃあなんでもいいからとにかく今すぐここに呼んで!仲良くなりたいのぉおお!」

「はいはい…………。」


俺は電話をイリナにかけた。

カイを殺してから止まり続けた俺の1年間は、イリナと出会ってからの数ヶ月間によって動き始めた。もしまた俺の何かが止まるようなことがあったとしても、今度は俺の周りの人間がサポートをしてくれるだろう。それは俺の友達が同じような状況になっても同じだ。俺達は互いに支え合い進むことの出来る仲間を見つけたのだから。

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