無駄話.2
忘れてたわけじゃないんです。タイミングを計っていただけなんです!本当です!本当なんです!信じてくださいお願いしますからぁ!!
「さて、僕のことを知りたいなんていう酔狂な御人、樟葉優里香さんの為に改めて自己紹介をしましょう。」
ゲームセンターの一角で、俺と樟葉さんの対話が始まった。
「僕の名前は飯田狩虎。炒飯の[飯]に田んぼの[田]、狩人の[狩]に虎の巻の[虎]という農業者なのか狩人なのか分からない名前をしています。」
「……改めて思うけど狩虎って名前珍しいわね。」
ですよねー。俺もそう思う。
「そして生年月日は1999年の3月27日。今年で15歳ですね。あ、そうそう、僕は卯年の牡羊座です。」
「え、ええ!?虎を狩るような名前をしていて兎で牡羊なの!?なおさら名前変じゃない!?」
「時代の潮流とやらの影響ですね……今はまさに草食系男子が肉食系を狩りとり、世の中に跋扈する草食一強の時代なんですよ。[世界で一番優しい虎]……そう、僕の虎は兎どもに狩られたんです。」
「えぇぇ………なんか、ご愁傷様。」
樟葉さんは俺を労ってか頭を下げた。
「さて、名前も言えたことですし、次は好物を言いましょうか。ぼくの好きなものはラーメン、コーヒー牛乳、卵料理、照り焼きマックバーガー、その他諸々です。嫌いな食べ物は海鮮系と椎茸。特にイカタコ椎茸は無理です。不味すぎて本当に食べれません。」
「………海鮮系嫌いってどう言うこと?」
「まんまですよ。海の幸が嫌いなんです。あ、でも火が通ってれば好きですよ。生ものが苦手なんです。」
「はぁぁあああ!?狩虎って本当に北海道人!?じゃ、じゃあまさか寿司とかも嫌いなの!?」
「そうですね、嫌いです。食べれはしますが美味しさを感じることができません。回転寿司に行ったらいつも僕はうずら納豆かハンバーグ、おいなりさん、マヨコーン、フライドポテト、唐揚げ、納豆巻き、卵、あさりの味噌汁しか頼みません。」
本当いつも思う。北海道人だからって生ものを嫌ったって良いじゃないか!!てか火を使えよ火をよぉ〜!!生で魚食うなんてな、400万年前からできてんだよ!!焦がさないように中まで火を通して最高の焼き加減で物を食えるようになった人類の進化を、発展を、英知を食らいやがれって話だ!!
「………人生半分ぐらい損してるよね、そう思うよ。」
樟葉さんから憐れみの視線を送られる。目を見てないからなんともいえないけれど、確実に[可哀想だなぁ、こいつ]みたいな意志を送られている。
「大丈夫ですよ、寿司以外で人生楽しんでますから。他の大半の人生の半分が寿司で埋まっている中、僕は寿司以外の色々なもので自分を埋めている。僕の人間味の奥深さは凄いですよ。」
他の人の人間味をチラッと覗けば、確実に寿司しか見えない。お前の体は寿司オンリーなのかって言いたくなるぐらい寿司ばっかりだ。もういっそ体が寿司になればいいのに………
「………まぁ、人間味の奥深さって言うのだけは共感できそうね。奥深さというか複雑怪奇ね。なんかもう狩虎が分からなくなったわ。」
「………自己紹介成功ですね。」
「どこがよ。」
樟葉さんはお茶を一気に飲み干すと、再度口を開いた。
「なんか、あれね。自分のこと漢字2語で表すとしたらどんなかんじ?」
「[普通]です。」
「分かったわ、自分のことを普通だと言っている変人を探せばいいのね。そういう奴が私の友達になってくれるわけか。」
えぇ……変人呼ばわりはちょっと…………
「やっぱり話してて思ったけれど、狩虎ってなんか変な人間ね。いつも無口なくせにちゃんと面白いこと言えるし、友達作ろうと思えばいくらでも作れるんじゃないの?」
友達を作れる……か………
「…………それはないですよ。」
俺はそれを、少し間を開けてからきっぱりと否定した。
「僕なんかに友達は出来ないですよ。常に表面を飾って、他人には心の底を見せないですからね。うっすぺらで、ちっぽけで………それだけならまだしも、他人を傷つける。」
今だって俺は樟葉さんに本性は見せてないし、いや、宏美と遼鋭以外のクラスの連中にすら見せていない。こんな隠してばっかりの人間と仲良くなりたいなんて奴は、それこそあのパーフェクトな2人だけだ。
「人を傷つける偽善者まがいの悪党………そんな奴に友達ができるわけないですよ。」
「……………」
樟葉さんは押し黙った。多分、俺みたいな人間を理解できなかったからだ。
「そう、僕なんて理解されないんで」
「そ、そうじゃない。」
樟葉さんは身を乗り出して俺の言葉を遮った。
「私が黙ったのはそういう意味じゃない。………私ってバカだからさ、よく分からないけれど、でも、狩虎がそんなダメな人間だなんて思えないな。自分を貶せる人間が、他人を傷つけるなんてそんな………」
………優しいお方だ。だからこそ俺なんかに近づけちゃいけない。
「………人殺しをした人間に言う言葉じゃないですよ。」
「…………え?」
俺の言葉に樟葉さんは一瞬フリーズした。俺の言葉を、今度こそ理解できなかったから。彼女の目のピントが合っていない。どこを見ればいいのか、俺なんかを見ていいのか、そんな感情が読み取れる。
「………トイレ行ってきますね。コーヒー牛乳を飲みすぎてお腹が一杯なんですよ。」
俺はトイレへと駆け込んだ。
………これで、縁は切れるだろうなきっと。
便座に座りながら、俺は今後の展開を考えていた。
俺はあれで確実に嫌われたはずだ……確実に。俺の言葉を信じてもらえるとは思えないが、もし信じてもらえたら確実に俺には近づこうと思えなくなるし、信じてもらえなかったとしても「人を殺したとか頭おかしい妄想してるよ。」となって俺に近寄らなくなる。あとはここで幾分か時間を潰して戻れば、彼女はいなくなる………完璧だ。
俺は天井を見上げだ。寂れて、廃れて、油染みのような黄色いシミをところどころに散りばめた汚らしい天井だ。……まるで俺の心みたいだ。
そんなクソどうでもいいことを考えながら、俺は休憩室へと戻った。
そこには予想通りに樟葉さんはいなかった。
やはり俺を避けて帰ったな……さて、それじゃあ家に帰って卵料理でも極めるか。今日の料理はザラメつきのプディングだ。固めを目指すぜ。
「は、離してよ!!」
椅子の上に置いておいたバッグを背負い、出口へと向かっていると外から聞き慣れた人の声がした。聞き慣れたと言うかさっきまで聞いていたと言うか………
嫌な予感がして外に出て、声がする方へと向かった。
そこはゲームセンター横の細い路地。5人ぶんぐらいの幅しかない小さなものだ。
そこには嫌がって身をよじる樟葉さんと、彼女の腕を掴んでいる男とその取り巻き6人がいた。
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