無駄話.1
バキューーン!!
響き渡る銃撃音。
チャリンチャリーン。
落下するコインの音。
「ああ、くそ!もう一回だもう一回!」
頭を掻き回しながら、目の前の画面に必死にしがみつきボタンを押す輩。
本当に喧しい。雑多な音があちこちで無秩序に響き渡る。まるで指揮を失ったオーケストラ。音痴だけでのカラオケパーティー。妙にリズムをとって煩い上層階のステップ音。
それにニオイも酷い。汗と金属と人の脂汗のニオイが混ざって、むせ返る。目の前で息を吐きかけられているようで、生暖かくて不快だ。それを想像しただけで鳥肌が立つ。
嗅覚と聴覚で俺の吐き気を誘ってくる。なんという地獄。こんなところにわざわざ行きたがるような人間の感性が知れない。絶対家に芳香剤がないぞ。10円玉も少ないに違いない。もっと消臭成分を携えるべきだ。
「友達が出来たら行ってみたいと思ってたのよねーー。夢が叶った。」
俺の前にいる樟葉さんは、周りを見て目を輝かせていた。
俺達は今ゲームセンターに来ていた。と言っても中規模で、格ゲーとかシューティングゲームとかのやり込み要素ありのゲームばっかりしかないようなところ。正直こんな所に女性が来たとしても楽しむ事は出来ないとおもうんだけどなぁ………
「夢って……こんな、金を無心されそうな危険地帯へ行く事に抱くべきものではないですよ。」
こういうところにはゲーマーか、学校をサボって粋がってる狡い奴らしか集まらん。ゲーマーなら自分のお金の範囲でやるが、狡い奴らは人から金を巻き上げるのを平然とやる。
「自分弱いですので、変な連中に絡まれでもしたら貴女を置いて走って逃げますからね。自分のお金と命が大事ですから。」
「え、えぇぇ………なんていうクズ発言。そこは頑張って体張って守ってよ。」
「他人を守ることができるのは力のある人間の特権ですよ。それ以外の人間がするとただのカッコつけになる。」
俺はバッグから自分の財布を取り出す。黒色のシンプルな財布だ。中学生の頃からずっと使っていて所々色がハゲている。
「そして、僕みたいな人間が[絶対に助けてやる]なんてことを言うのは無責任甚だしい。絶対に守れませんからね。そんな奴に安心を一任させるのは貴女からすれば実に酷だ。人を騙すようなことはしたくないんですよ。……でもそうですね、僕も男です。一応何かしらはしてあげなきゃいけない。」
俺は財布から千円を取り出し樟葉さんに手渡す。
「これで好きなゲームをやってきなさい。一時間後、ここの入り口で集合ね。僕はその間隣のショッピングセンターで買い物してるから。」
「あんた私のお母さん!?っていらないわよ!自分のお金でやるに決まってるでしょ!私を小学生と勘違いしているんじゃないの!」
そう言うと樟葉さんは俺に、渡した千円札を押し返してきた。
「そもそも一緒に遊ぶのよ!その為に来たんだから!」
「一緒にって………ここで一緒に遊べるものなんて格ゲーとかシューティングだけですよ?初心者には厳しいんじゃないですかねぇ。」
「………なによ、その、まるで自分は初心者じゃないみたいな発言。気に入らないわ。」
わぁお、闘争心がむき出しダァ!
まさかこの人、ゲームに対しても熱い思いがあるのか?
「一緒に来い!私のゲームセンスによってあんたをボコボコにしてやるんだから!私を侮ったこと、そしてちょっと齧った程度で上から目線であることを悔やませてあげるわ!!」
というわけで格ゲーの台に連れてこられ、互いに背を向ける形で席に座り対戦となった。
1戦目
K,O!!
俺と樟葉さんの台から景気のいい音が響く。
「ふ、ふん!初めてだから負けるのは仕方ないわ!でも操作の仕方は分かったし大まかなコツも掴んだ!ここから巻き返していくわ!」
2戦目
K,O!!
俺と樟葉さんの台から景気のいい音が響く。
「……ま、まぁ?二回目だからね。仕方ないわよそれは。」
3戦目
K,O!!
俺と樟葉さんの台から景気のいい音が響く。
「……やっとエンジンがかかってきたかな?私はスロウスターターだからね」
K,O!!K,O!!K,O!!K,O!!You are defeated!!
樟葉さんの台から絶え間なく「You are defeated!!」という音が聞こえてくる。
俺もさすがに申し訳なくなって後ろを振り返ると、樟葉さんが肩を震わして自分の台を睨みつけていた。
13、12、11……と、再戦を促すカウントダウンが刻まれている。
「………なんなのこれ。一勝もできなかったんだけど。」
「一勝も出来なかったと言ってますけど、凄いと思いますよ?僕のことを結構追い詰めてたじゃないですか。毎回毎回接戦で………いやーー才能ありますよ。」
先に二勝したら勝ちなのだが、全試合樟葉さんは粘って一対一まで持ち込むんでくるのだ。まぁ、最後の試合で俺がギリギリで勝っていたので、樟葉さんには惜しくも栄光は輝かなかったけどね。
「接戦って全部遊んでたじゃない!いつもいいところまで追い詰めた途端コンボ繋いで私一回も攻撃できてないんだけど!?何、まさかこのゲーム極めちゃってるの!?」
「何これーー!!」と言いながら身を揺らす樟葉さん。
相当ゲームに対して自信があったのだろう。だがしかし、そもそも俺は小学生の頃から格ゲーをまぁまぁ嗜んでいたからな。初心者よりもできて当たり前だ。
「極めてるって……僕はこれに全ての時間を注ぐほどのマニアじゃないですよ。趣味程度です趣味程度。趣味で写真を撮ってるっていう人の写真を見てみたら結構ブレてたりするじゃないですか。あれと同レベルです。」
「そんなはずはないわ!この私が1度も勝てないんだから!!絶対プロよ!!」
うわーーゲームに関しては凄い自信を持っているな。……結構大会とかに出て表彰されてるのかな?まぁ俺はそういうのに出たことがないから詳しいことはわからない。
けれどまぁ、ゲームを通して樟葉さんが初心者にしてはアホみたいに上手いってことは感じた。初めてのはずなのにコンボとか決めてくるからね。コマンドを覚えるのも早いし………うん、やっぱりゲームが好きなんだね。
「負けっぱなしは気に入らない!!今度はシューティングよシューティング!!」
「シューティングですか……なんか勝算とかあるんですか?てかやったことがあるんですか?」
「ないわよそんなの!でも格ゲーじゃあと1年ぐらいやりこまないと勝てそうにないから、まだ未知の領域に入った方が勝てそうだと思ったの!………まさか、狩虎はやったことがあるの?」
なるほどね………
「いや、やったことはないですよ。僕すっとろいのでシューティングみたいに体を動かすゲームは苦手なんですよ。」
「ふっふっ、それならば勝てそうね!!」
というわけで今度はシューティングゲームのコーナーにきた。銃を持って画面の敵を撃つやつだ。荒廃したビル群が舞台で、謎の組織によって生み出されたゾンビを駆除するというシンプルなストーリー。
協力プレイで遊ぶとゲームの最後にスコアが出るのだが、どうやら今回はこのスコアで勝敗を競うようだ。誰が1番を多く点を取れるか。それはつまり敵の撃退数を競うということで、言ってしまえばどれだけ早撃ちができるかの競争。
俺の身体能力は中の下。いい方ではない。とどのつまりこういうゲーム、特に早撃ちは苦手だということだ。
「1ステージが終わった時のスコアで勝負よ!さぁ、やるわよぉぉお!!」
チャリンチャリン!
ゲーム台に200円が投入されゲームが開始した!!
……
………
………………
「なんでぇ!?なんで勝てないの!?」
樟葉さんは、目の前に映し出された画面を見て驚いていた。
スコアを見ると、微妙に、敵1体分ぐらいのスコア、俺が勝っていた。ほとんど同じと言ってもいい。それぐらいの僅差だ。
「このスコア差ならべつに負けとか考えない方がいいと思いますよ。」
「………ダメよ。ダメダメダメ!たとえ敵1体分の差だろうと負けは負けよ!」
ムキーーッと言った後、樟葉さんは俺に銃を向ける。
「でもやられっぱなしは嫌いなの。次のステージも勝負よ。」
「………仕方なしにやってあげますよ。」
俺は笑いながら答えた。
なんだかんだで30分ぐらいシューティングのゲームをやっていた。ステージも最後の一つ前まで行った。腕がだるくなって続行不能になったので切り上げた。俺の勝率は6割。樟葉さんと俺は結構いい勝負をしていたようだ。
「勝ち越されたわ………悔しいなぁ。」
樟葉さんは笑いながら天井を見ていた。
俺と樟葉さんはベンチに腰掛け休憩していた。
俺はコーヒー牛乳を手に持ちながら、樟葉さんはお茶を持ちながら。
「悔しい。」と言っている樟葉さんではあるが、顔は笑っている。どこか清々しい。まったく、悔しがっているような雰囲気はない。
「まぁいいじゃないですか。ゲームは所詮ゲーム。楽しむのが目的ですよ。……見るからに楽しんでましたからね優里香さんは。目的達成ですよ。」
ゲーム中に樟葉さんの顔をチラッと見てみたら、これもまた笑っていた。真剣ではあるのだけれど、どことなく笑っていたのだ。
「へぇ、私笑ってたのね………驚きだな。だって私負けず嫌いだからね。負けているときに笑うなんて、自分のことなのに想像つかないもの。」
お茶をほんの少しだけ口に含む樟葉さん。
負けず嫌い………まぁ、言われなくても分かるよな。樟葉さんはどう考えても負けず嫌いだ。だってゲームでボコボコに負けたら、別のゲームに標的を移して勝とうとするんだからな。勝ちへの執念が強い。………きっと、自分の好きなことに対してへの思い入れが強いのだろう。
「気持ち悪いフィギュアをコレクションするような変人で、それでいて負けず嫌いで面倒くさいんだから人が寄り付かないのよねぇ。まぁ、分かるわ。もしこんな奴に話しかけられたら私だってひくもの。」
「………そうですかね。僕は好感もてますけどね。」
寂しそうに自分の話を鼻で笑う樟葉さんを傍目に、コーヒー牛乳を飲む。
「負けず嫌いなんて最高の性格じゃないですか。勝ち負けにこだわらないでノラリクラリしている僕のようなクズよりもよっぽど向上心がありますからね。」
負けず嫌いって人類で最も重宝されるべき性格だと思う。それによって人はどんどん成長するからだ。
「で、でもそれで人から嫌われたら意味ないじゃない………」
顔を伏せる樟葉さん。
………この年の子はデリケートだなぁ。俺早生まれだからそこらへんよくわからないわ。
「………僕思うんですよ。この世から差別が消えることはないって。」
「な、なにさ急に」
俺が突然話を変えたせいで少し困惑する樟葉さん。
「いや、話を聞いているとふと思っただけです。………[差別をする人間は最低!そんな奴とは口も聞いてやらない!][差別は是が非でもなくさなくちゃいけない!その為なら差別をする奴を攻撃することも厭わない!]そんなことを平等主義の名の下で叫んだり行動している奴がいるじゃないですか。………どう思います?こういう輩。」
「どう思いますって言われても………良いことなんじゃないの?差別は良くないことだものね。」
「そうですね、悪いことです。差別をすることは悪いことです。それじゃあ[差別をしている人間を差別する]こともダメなことなんじゃないですか?」
「う、うーん?………いや、良いんじゃないの?それで差別が消えるんなら………うん?消えてない?え?えーっと?」
樟葉さんは眉間にしわを寄せて考え始める。
「差別の定義は[特定の集団に属する個人を排除もしくは拒否すること]です。どうです?差別消えてます?」
「………消えてない。消えてないね。だって差別を消すために別の差別が出来てるんだもん。」
そう、差別を消すと言うことはまた差別を生み出すことだ。螺旋である。不況も復習も、どんなものにも螺旋はある。この世が循環しているのだから、諸事象にも循環があるのは考えなくても感じ取れることであるがな。
「でも、新しく出来た差別が悪いものじゃないかもしれないじゃん。公民権運動のお陰で黒人への差別が消えた時、新しく生まれた差別なんてなかったと思うし。」
「黒人差別をしていた人間に、差別の対象が移ったんですよ。ほら、いじめっ子がいじめられたりする時あるじゃないですか。あれと同じですよ。」
いじめっ子の犯行が先生にバレて、みんなの前で怒られると、今度はいじめっ子がいじめられっ子になる。そりゃそうだ。イジメられてたやつはそいつに対しての恨みが凄まじいからな。それに、周りの人間は「こいつをイジメるのは当然のこと」とか思っちゃっていじめに加担するんだよ。
「差別は消えない。いじめは消えない。それをなくそうと思うから。………皮肉ですねぇ本当。」
「ええぇ………それじゃあイジメとか差別をなくすにはどうすれば………」
「どうもするも何もどうも出来ませんよ。強いて言うなら全てを受け入れる。ですかね。寛容であるべきなんですよ何事にも。」
「…………えぇぇ」
俺の言葉に唖然とし、何も言う言葉を思いつかず口を開きっぱなしにしている樟葉さん。
「それと優里香さんの現状も同じです。貴方も今この現状に寛容であるべきなんですよ。[友達ができないのはしゃあない。いずれ出来るだろ]ぐらいな考え方でね。」
「………そこに繋げるの?」
「ええ、繋げます。貴方が行動を起こしたら、またどこか別のところでイジメや差別が生まれるわけですよ。自然に流れるままに行動することで、差別やイジメは消えていくのです。」
ああ、うさんくせ。まるでどっかのインチキ宗教だ。
「そ、それじゃあ私の高校生活が………」
すっかりと落ち込んでしまい、樟葉さんはおでこを机に擦り付けてウーウーと唸る。
ワァオ。今の信じたのかよ。……面白い人だなぁ。
「まっ、僕みたいに[めんどくさい人間が好きな奴]を探すことですね。遠回りに見えますが、1番正しいことですよ。無理に作るよりもね。」
話がひと段落ついたので、俺はコーヒー牛乳に口をつける。
はぁ、無駄話みたいに身のない話って楽しいなぁ。考えないで済む。
「………そ、それじゃあ今後の参考に聞くわ。」
コーヒー牛乳を飲みながら他の人のプレイをぼーっと見ていると、伏せていた、いや、今も伏せているけれど、樟葉さんが尋ねてきた。
「狩虎は一体何が好きで何が嫌いなの?そもそもどんな性格なの?教えてくれない?今後私に会った友達を探すために必要になると思うのよ。」
………なるほどねぇ。
「良いですよ。僕でよければ幾らでも話しますよ。」
てなわけで、次は俺の人間性を自分で語ると言うよくわからない回だ。これほど意味のない回もないだろう。
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