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ゴウカイギャーによるプロローグ



「だから、うちのラー研が隣のラー研と会合するの」

「へぇ、向こうにもあったんだ……」

「ふうん、いんじゃない」


 そう言って別の日にその話が正式に具体化することになり、二校のラー研が無事そこに集い、少し驚くことがあった。





 貝民かいみん高校のラー研は全て男子だったのだ。図らずも三対三の合コンのような状態になってしまった。

 我が幕翠ばくすい高校は女子校で、我々は普段イケメンについて語り合うこともまるでなく、メンといったら太麺か細麺についてばかり話しているような駄麺女子なので、男子にはまったく免疫がないのだ。


 とは言ってもラーメン研究会。

 やることと言えばやはりラーメンを食べるしかない。


 今回の合同研究の会場である近所のお店にゾロゾロと向かう。


 我々はラー研といえどもしょせん高校生。なので有名店などはせいぜい月イチで遠出していく程度の金と足しかない。なので普段放課後の部活動は高校から行ける三店舗をぐるぐるとローテーションしていることがほとんどだ。しかも毎日は活動できない。お金もないし母親に怒られる。なので実食は週一、普段はネットでお店をチェックしたりといった細々とした活動内容だ。もとよりそこまでやる気のある部活でもない。暇な時に友達と好きなラーメンが食べれればいい。その程度の緩い活動だ。


 中に入って食券を買う。ここ『希麺屋』は家系っぽい作りと味の店だ。


「麺かため 味うすめ 油少なめ 」

「全部普通で」

「全部普通味玉追加で」

「普通普通、油少なめで」

「かため濃いめ多め」

「やわらかめ後普通」


 それぞれ食券を出してから思い思いの注文をつける。

 ニンニクを入れようとする者は誰もいなかった。


「うぅ……男子と一緒なんて……かんすいの味がしないよ……」


 緊張しいの志乃がごちる。


 だけど私も同じ気持ちだった。普段濃いくらいじゃないかと思うスープの味がろくにしない。カウンターだけのお店だったので私達は男子三人女子三人で並んで座っていたが、私はちょうど男子と女子の境目の席にいたので、隣が男子だった。研究どころじゃないというのが正直な気持ちだった。


 ラーメンは同級生の男の子と食べるものじゃないと実感した。

 これは気の知れた、だらしない女友達とだけで、共に食するものだ。

 できれば周りには新聞を読んでるくたびれたおっさんしかいないのが好ましい。餃子の皿を半分こにしたりしながら時にスープを美味いと豪快に飲み干したり、コショウをかけすぎて水を飲みすぎたり、体重を気にしながらも炒飯セットにしてしまったり、そういった笑いあり涙ありの女の子だけの実に女らしい時間と空間であるべきなのだ。


 しかも、さっきちょっと見たら、私の今まさに隣にいる男子の顔が、誠にもってドストライクときている。


 髪の毛の色素がちょっとだけ薄くて、少し童顔。どちらかと言うと可愛いほうに属する、まだこれから大人になる部分を残している男子だった。


 勘弁してほしい。こんな男の子の前で麺をいつものようにすすりたくない。

 教室ではティッシュで鼻を勢いよくかみ、扉近くのゴミ箱にそれを自慢の強肩で投げ入れている私であったが、これには困った。

 一時期クラスであだ名がゴウカイギャーだったこともあるが今だけは他の二人にそれで呼ばれたくない。私には永原桜子という性格に似合わない名前があるのだから、ぜひ、今だけは桜子さんと呼んでもらいたい。


 肩が凝りそうな淑やかな動きで麺を食べていたら20分経ったのにまだ半分も食べれてなかった。隣を見ると志乃と弥生も似たようなものだった。


 貝民高校の男子生徒のほうはさすがにもう完食し終わって、妙に大人しく水を何杯も飲んだり、もの静かにティッシュで丼の周りを小さく拭いていたりする。


 他のお客さんが入ってきた。

 狭い店なので、いつまでも席を占領していてはまずい。


「あの、先に出てていいよ」


 そう言うと三人立ち上がって、ちょっと先の公園に居るからと言って小さく頭を下げて出ていく。


 男子が出て行って私達は顔を見合わせてほーっと息を吐いた。


 それから目の前の丼に向かい合う。


 一時期早食いも研究の一環として行っていたので、皆それなりのタイムを持っている。大量の麺を箸で持ち上げて勢いよく麺を啜り、頬いっぱいにチャーシューとメンマをつめてムシャムシャ、ズルズル、ガブガブ、ゴクン。


 男子生徒が出ていってからものの二分で残っていた半分の量を完食した。


「はぁ……」


 全員同時に溜め息を漏らし、丼をカウンターの上に置いた。


 ティッシュで油の付いた唇を拭い、店を出る。


 貝民ラー研男子が少し先の公園にいるのが見えた。合流前に発案者の弥生に確かめる。


「弥生、なんでこんな話が来たの?」

「あの、赤田君と塾で知り合ったのよ……話したら彼もラー研だって言うから……」


 弥生が頬を赤らめながら言う。

 彼女はクラスでは一番の秀才で有名進学塾に通っている。一時期委員長でもないのにクラスであだ名が委員長だった。普段はお堅い感じなのにこれは……、もしかして弥生はもうその赤田とやらといい感じなんじゃないのか。


「赤田ってどれ?」

「一番ゴツい人」


 私のドストライクとは明らかに違う。ほっと胸を撫で下ろす。なぜか隣で志乃まで息を吐いた。


「志乃、私、大丈夫かな? 髪に麺とかメンマとか付いてない?」

「大丈夫……。わたしも……チャーシューとか制服に付いてないかな」


「二人とも馬鹿じゃないの?」


 後ろから冷静なツッコミが入って弥生を見ると、眼鏡のつるに麺が一本ぴょろんと引っかかっていた。


「やよい〜!」

「麺! 麺!」

「え? えぇ〜?」

「どんだけ慌てて食べてんだよ!」




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