第4話
「やっぱ貴博さんは面白いですね」
「え?」
「鉱山とか夜の相手とか全部嘘です。暇なのでからかってみました。」
「ふざけんなー‼︎俺がこの世界でどれだけ必死に仕事探してると思ってんだ‼︎」
「普通に考えて役所の人がそんなの紹介する訳ないじゃないですか」
お姉さんが最後に「はい論破」と付け加える。言われてみればそうだ。むしろそうでなければいけない。となると...
「マジで俺無職や...」
「ごめんなさい。今の嘘です。青い屋根の建物の厳つい男にこれ渡してください」
「嘘なんかーい!遊びに来たんじゃねんだよマジで」
「はいはいそれじゃ近くに青い屋根の建物があるので中の人にこれ渡してくださいね」
地図に従って歩くと青い屋根の建物があった。その中にいたのはスキンヘッドの男と体に傷跡がたくさんある男。しかも武器を持った用心棒までいる。とても表で生きている人とは思えない。貴博は恐る恐る声をかける。
「鉱山ではたR
「乗れ」
腕を掴まれて馬車に乗せられる。何の説明もないまま馬車に揺られること1時間。目の前にあったのは採掘中の鉱山。働いているのは人間・獣人両方だが、どれも訳ありな感じの人。これこそ今世間で流行っているブラックバイトと言えるだろう。給料以上の仕事をさせられそうだ。到着して30秒も経ってないが帰りたくなってきた。
「お前は力無さそうだから向こうで掘り出された石を磨け。磨くって言っても表面の砂とか石とかを落とすだけだ。金は終わったら全員まとめて払う」
「分かりました」
言われた通り採掘された石を磨く。ちなみにエルニウム鉱石とは現実世界の鉄で採掘権は王国府が持っている。採掘には王国府の許可がいるが、ここは恐らくと言うか絶対無許可だ。磨くの自体は楽だが、とにかく量が多い。貴博が磨く量より追加される量の方が多いため全然終わりが見えてこない。無心で磨き続けて1時間半くらい経った頃、鉱山の入り口のあたりが騒がしくなった。採掘されたエルニウム鉱石は貴博の所に持ってくるが、みんなそのまま馬車に乗せている。中には武器を用意している人もいる。どうしたんだろうと思って見ていたら獣人が貴博に向かって叫ぶ。
「おい新入り! そこにあるやつ全部持ってこい!」
「まだ磨いてないんですけど!」
「いいから全部だ!早くしねえと王国府の奴らが来るぞ!」
危険を感じた貴博は慌てて石を馬車に乗せる。するとそこに貴博を連れてきたスキンヘッドが来てみんなに言う。
「王国府の奴らに見つかった。恐らく10分ほどで警備団が来る。工作班は通り道にトラップを仕掛けろ、弓が使える奴はしんがりを頼む。その他はポケットに入るだけ石をつめこんでエリアCに行け。」
そう言ってスキンヘッドは用心棒を連れて馬車を出す。工作班は鉱山の入り口へ走っていく。指示が出たもののどうしていいかわからない貴博はその場に立ち尽くす。
「何してんだ。早くずらかるぞ」
そう言ったのはさっき貴博を呼んだ獣人だ。
「エリアCがどこか分かんないんですけど」
「ついて来い」
貴博は獣人に着いて行く。
「お前も大変だな。ここ来て早々こんな目に会うなんて。半年持ったから大丈夫だと思ったんだけど。んで、お前の名前は?」
「貴博です」
「貴博か。俺はベス、見ての通りエルフだ。また会うかどうかわからねえけどよろしくな」
「それでエリアCってどこですか?」
「このペースで走り続ければあと10分くらいだ。」
(マジで⁉︎ 絶対体力持たねえよ)
ベスはかなり足が速い。それに合わせている貴博は早くも限界を迎えていた。
「ベスさん...もう無理っす...」
ベスは情けねえなと言いながらも貴博を担いで変わらないペースで走る。エリアCは大きな洞窟だった。近道でもしたのか、すでにたくさんの労働者がいた。ちなみに馬車は1番奥にある。それから30分たち、用心棒が人数を数えてスキンヘッドに報告する。スキンヘッドは頷いてからみんなに言う。
「しんがりは全員捕まり、工作班も何人か捕まったらしい。よって現時刻を持って解散とする。金はみんなで山分けしろ。あと捕まった奴らが口を割るかもしれないから捕まらないように気をつけろ。以上、解散だ」
そう言ってお金の入った箱を置き、用心棒を連れて馬車を出す。 ちゃんとお金を出すから思ったよりブラックじゃなかったが、そのあとのリスクを考えたらやはりブラックだ。まさか自分が異世界でブラックバイトをする事になるとは思っていなかった。残った人で山分けしたら1人10800モネスになった。
「町への帰り方わかるか?」
「分かんないです」
「だろうな。俺について来い。多分歩いても大丈夫だ」
その後3時間かけて町へ行き、ベスと別れて役所の労働者窓口へ行く。
「無事だったんですね」
「無事だったんですねじゃねーよ‼︎働いて1時間ちょっとで捕まりそうになるってなんつー職場紹介してんだよ‼︎」
「最初に言ったはずですよ。役所として紹介できないって。」
確かに言われた。確かに言われたが...
「いくらなんでもこれは酷すぎだろ!」
「ちなみにいくら稼いだんですか?」
「1万ちょっとです」
「1時間で1万は大きいですよ」
「そりゃそうだよ!むしろ少なすぎるくらいだよな⁉︎」
「まあまあ落ち着いて。とにかく捕まったら終わりなんですから逃げ切れてよかったじゃないですか。それで次はどうしますか?新しく大型ゴブリン討伐の依頼が来たんですが」
「だから素手でも行けるやつ紹介してくれませんか⁉︎」
「ですからその気になれば
「もういいです。言った俺がバカでした。」
「そうですね。やっとわかりましたか。依頼はこっちからも探しておくのでまた明日来てください。」
役所を出てから(アンナの)家に帰る途中武器屋に寄った。一応収入があったからそれで武器を買い、モンスター討伐が出来るようにしておきたい。
「いらっしゃい」
「すいません。初心者にも扱いやすい武器ないですか?」
「それならこの短剣だな。リーチは短いが軽くて扱いやすいぞ」
「分かりました。これにします。いくらですか?」
「15000モネスだ」
「...少しやすくしてもらえませんか?」
「いくらなら出せる?」
「10800です」
「全然少しじゃねえよ。舐めてんかお前。まあでもしょうがねえ。最近ハンターが減ったからな。1万でいい。持ってけ」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「その代わりうちの常連になれ」
「任せて下さい!」
貴博は武器を手に入れた。 レベルは上がらなかった。 そもそもこの世界はレベル制ではない。死んだらそこで人生終了だ。 だが、男の子の憧れとも言える武器を手に入れた貴博はご機嫌だった。これでモンスター討伐に行ける。そうすれば今日ほどではないにしろ収入を得られる。 家に向かう途中役所のお姉さんに会った。
「貴博さん探しましたよ!今緊急で大型バジリスクの討伐依頼が入ったんですが」
「だから無理でしょ!武器持ってるけど全然役に立たないよね⁉︎」
「大丈夫です!みんなの盾や囮になってくれれば」
「死ぬじゃん!」
「やっぱダメですか...。初心者でも役に立てる仕事なのに...。それじゃあまた明日まってますよ。」
「俺でも出来そうなので頼みますよ」
今日の成果は短剣と違法労働で捕まるリスクだ。
(また明日も働くんか...)
家に帰る足取りは重かったが、待っててくれる人がいる。しかも女の子。それだけで貴博は頑張って働く気になるのだった。