第3話
異世界に飛ばされて1日経った。 元の世界に戻っていた何てことはなかった。というより帰れるかどうかすらわからない。
(はぁ...今日からハンターか...。いや、武器が無いから薬草採取か...。働きたくないな...)
異世界でニートになるという選択肢もあるが、それは貴博のプライドが許さなかった。アンナは異世界から来た得体の知れない男を泊めてくれた。 そんなアンナのために、そして何より自分のためにお金を稼がないといけない。
朝食はパンとサラダ。 テーブルで向かい合って2人で食べる。
「貴博さんは今日はどうするんですか?」
「役所に行って仕事探して...って感じですね」
「危険なモンスターがたくさんいるので気をつけてくださいね。 薬草採取でも襲われることがあるので」
(いい人だ...。これぞ俺の憧れた異世界生活!)
食べ終わったらアンナは店の準備をして、貴博は出掛ける準備をする。準備と言っても着替えくらいしかないから五分も掛からない。
「それじゃ行ってきます。」
「ちょっと待ってください」
そう言ってアンナがサンドイッチを持ってくる。
「これ、お昼ごはんです。よかったら食べてください」
「ありがとうございます!」
嬉しい。めっちゃ嬉しい。女の子からのお昼ごはん。現実世界では絶対にもらえない物だ。 しかし、喜びも束の間。 役所に着いて掲示板を見る。 張り紙が何もない。目を擦ってもう一度見る。やはり何もない。
「貴博さんどうしましたか?」
振り向いたら奴がいた。 受付のお姉さんだ。
「今日は依頼何も来てないんですか?」
「たった今地上性ドラゴンの討伐依頼が入ったんですが」
「だからドラゴンを素手とか普通に考えて無理でしょ!」
「飛行性よりも弱いんですけど」
「魔法が使えたら別だけど、そう言えば魔法とかって無いんですか?」
「教会の魔術師狩りで300年くらい前に滅ぼされましたね。今は魔術師狩りは王国府が禁止してますけど魔法関連に手を出すのはあまりお勧めしませんね」
「何でですか?」
「教会騎士団や自警団に目をつけられるからです。特にこの地域は教会の権力が強いので気をつけてください」
「マジか...魔法使えないのか。それでもう依頼は無いんですか?」
「ちょっと待ってください。えーっとこれですね。役所からの正式なものでは無いので口外しないでください」
渡された紙を見る。そこに書いてあったのは...
エルニウム鉱石採掘
落盤の危険あり 労働者契約をしていない方歓迎 1日8000モネス
ファンタジーハーブ採取
王国府警備団の監視を避けるため未開エリアでの採取になります
1日6000モネス
夜の相手
条件:男性 10〜20代
男相手に貞操とプライドを捨てられる方
プロ・童貞は問いません
報酬は時間と内容によって異なります
「...これヤバイやつじゃないですか?」
「はい。なので掲示板に貼ることはできません。」
「何サラッと言ってんだよ!何だよ夜の相手とかファンタジーハーブとか」
「夜の相手はそのままの意味で、ファンタジーハーブは乾燥させて粉末を吸引することでしばらく空を飛んだ感じになるもので...あっ、これがあればドラゴンいけますね」
「要するに麻薬でしょ⁉︎ この世界では使ってもいいの⁉︎」
「王国府が取り締まってますよ。 使うときは見つからないようにして下さいね。」
「見つからないようにして下さいじゃねーよ! 俺は漫才しに来たんじゃなくて仕事探しに来たんだよ!ってかあんたマジで何者なの?」
「受付のお姉さんですが?」
「ですが?じゃねーよ!何で役所の受付のお姉さんがそんな事知ってんだよ!」
「細かい事は気にしないで下さい。しつこい男は嫌われますよ?」
「...それで結局仕事は?」
「貴博さんの求めているものはありません」
役所の外にあるベンチにうなだれて座る貴博。リストラされたがそれを家族に言えないサラリーマンの気持ちがよくわかる。
(どっかに時間潰せるところ無いかな...いや、昼ごはんまでもらって無収入は男としてダメだろ...)
ここはプライドを捨てて働くしかない。というか切ない思いをするよりリスクを負ってでも働いた方がマシな気がした。貴博はもう一度お姉さんのところへ行き仕事を申し込んだ。
「鉱山で働きます」
「本気で言ってますか?」
「こうでもしなきゃやってられないんですよ!」
半ばヤケになって叫ぶ。
「何があっても怒りませんか?」
「もう金になりゃなんだっていいんだよ!」
「それなら夜の相手の方が稼げますけど」
「さすがに尻は出せません」
「詳しいですね。もしかしてその世界の方ですか?」
「んな訳あるか‼︎ それで鉱山の仕事は?」
お姉さんはとても素敵な笑顔を見せていた。。
(なっ何だ? 何があるんだ...)