運命の出来事(1)
高橋が来てから数週間が経ちクラスに馴染んできたらしく、転校生のざわめきがあっという間にいつもの雰囲気に戻っていた。
気が付けば三年生になってから早くも三か月が過ぎようとしていた。
この時期になると三年生は自分の進路に向けて動き始める。
俺たちのクラスでも進路のために放課後まで残ってやる子もいた。
進路活動初日の今日は進路希望表を五時間目に書くことになっていたので、クラスでは一つのざわつきが起きていた。
俺も今日は進路のために放課後まで残ろうと決めていたからいつも一緒に帰る米山には先に帰っとくように伝えた。
そして五時間目になって俺たちは進路希望表を記入し始めた。
俺は特に就きたい、進学したいという希望がなかったためとりあえずは適当に就職の方を選択した。
俺はとりあえず今日は求人を見ることに決めた。
周りを見るとクラスみんな真剣な眼差しで希望表に記入をしていた。
五時間目の進路活動時間もあっという間に終わり、帰りのLHRも終わって放課後になった。
俺は放課後に入ってすぐ求人が置いてある図書室に向かった。
図書室に行くと図書室の中央にぽつんと女の子が一人座って一生懸命に青いファイルを見つめていた。
「一人で頑張ってんな。」
俺はついその女の子に感心してしまっていた。
そして俺も求人コーナーに置いてある求人ファイルを手に取って求人を探し始めた。
俺はとりあえず自分の好きな接客にチャレンジしようと考えてみた。
接客といってもジャンルはかなりある。
俺はその中からホテル業に絞って進路を進めることにした。
いつしか俺も夢中になって探していた。
しかし、なかなかいい求人が見つからずあっという間に図書室の閉室時間を迎えてしまった。
俺は今日は諦めて明日以降に再チャレンジしてみることにした。
俺は閉室時間が来たため自分の読んでいたファイルを片付けようと求人コーナーに向かった。
すると中央で求人を読んでいた女子生徒が背伸びをして自分の身長よりも高い位置にある求人棚にファイルを置こうと頑張っていた。
俺はそれを後ろから万が一のためにと後ろで待ち構えるようにして待っていた。
すると一瞬予言者にでもなったのかと疑ってしまう程に俺の万が一は見事に的中したのだ。
その女の子はなんとか自分の力でファイルをなおそうと少し背伸びをしたところ女の子を支えていた台がぐらついて台が倒れ始めたのだ。
その拍子で台に乗っていた女の子が俺のところに倒れてきたので俺はそのまま構えてその女の子をキャッチした。その衝撃で俺は腰を強打してしまった。
だが、なんといっても心配なのはその女の子だった。
「あの・・・大丈夫ですか?」
俺は咄嗟にその女の子に話しかけた。
「えぇ・・・大丈夫です・・・。」
その子は恥ずかしそうに静かに口を開いた。
そしてその子は立ち上がり、顔を見合わせた瞬間、俺とその子はお互いに驚いてしまった。
なぜなら、中央で求人を探していて俺のところに倒れてきたのが知らない女の子ではなく同じクラスの高橋だったからだ。
「おい、誰かと思ったら高橋かよ。」
俺は身体の調子の確認よりも思わず高橋であることを確認してしまった。
「あ・・・木下君・・・私は・・・大丈夫・・・。」
高橋も遠くで求人を読んでいたのが俺だとようやく気づき心配そうに俺に問いかけてきた。
「俺は大丈夫だ。」
女の子である高橋に気を遣わせないように腰の痛みを我慢して俺はわざと嘘をついた。
「大丈夫なら良かった。気を付けて帰れよ。」
これ以上高橋に心配させまいと俺はすぐに高橋と俺の求人ファイルを棚に置いて俺は早々と図書室を後にした。
図書室を後にして帰宅しようと自転車置き場に足を進めたが先ほどの衝撃で痛めた腰が急に痛み始めた。
俺はその痛みに耐えられず、自分の自転車の前で座り込んでしまった。
すると、その後を考え事をしているような感じで高橋がやってきた。
高橋は考えながらも俺を見るなりかなり驚いた顔でカバンを投げ捨てて俺のもとへと駆けつけてきた。
「木下君、大丈夫?」
「あ・・・高橋か。心配ない、俺は大丈夫だ。」
俺は大丈夫と合図しながら立ち上がろうとしたが痛みで立ち上がることができなかった。
「待って!そのままにしてて!」
突然、高橋が今まで聞いたことのない声で俺に話してきた。