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第4話「黒いナイフ」

 まずは、体を入れ替えられたという太った男に詳しい話を聞いてみた。

 それによると、入れ替えられる前の名前は『サラサ・ガーデ』、俺達と同じアリアドリ騎士魔法学院に通う魔法科の女子生徒だったらしい。

 そして、今サラサの体を使っている男の名前は『ボンデ・ゴーリン』、彼も俺達と同じ学院に通う魔法科の生徒だったが、最初の試験に落ちて退学させられたそうだ。


「ようするに、退学させられるのが嫌で合格したあんたと体を交換したって訳か」

「後は私の美しい体で、あんなことやこんなことをするためね……」


 そういうことをしている可能性は高いと思うが、口には出さないでおく。


「とりあえずボンデについて詳しく教えてくれ」

「詳しくって言われても私もあんまり知らないのよね……同じクラスだったけどたいして目立ってなかったし、まあ最初の試験で落ちるくらいだからたいした実力は無かったんじゃないかしら」


 最初の試験に落ちるような生徒に、精神交換の魔法が使えるとは思えない。

 やはりどこかで禁忌の錬金が付与されたナイフを手に入れたのだろう。


「他には何か知らないか?例えばボンデと親しいやつとか」

「そう言われてもね、彼のことなんて全然興味なかったから知らないわ……とりあえず彼が誰かと話してる所を教室で見た記憶がないし、親しい人とかはいなかったんじゃないかしら」


 ボンデも俺と同じぼっちだったのか……まあ、だからといってどうも思わないが。


「それじゃあ、ボンデは試験どうしてたんだ?」


 パートナーがいないと試験は受けられないはずだ。


「確か試験ではクラスで余った他の生徒とコンビを組んでたと思うわ、その生徒も退学になったから、この街にはもういないかもしれないわね」


 要するに余り物同士でコンビを組まされたわけか……俺やアーリアと同じだな。


「そうなると……」


 情報が少ないし、ここは学院に戻って聞き込みをするべきかもしれない。

 だが、それだとボンデに俺達がサラサの仲間だとバレてしまうリスクがある。


「難しい事はわからないけど、とりあえず本人を捕まえて吐かせればいいブヒ」


 アーリアが脳筋みたいな事を言い出す。

 でも、それが一番手っ取り早い方法かもしれない。

 相手には俺達の情報を一切与えずに仕掛ける方向でいこう。

 ただ相手は、禁忌の錬金が付与されたナイフを持ってるようなやつだ……油断はできない。


「わかった、だけどその前にサラサの事をもっと教えてくれ」

「私に興味があるの?うふふ、仕方ないわね……どうしてもっていうなら教えてあげてもいいわよ?」


 うざいけどここは我慢だ。


「それじゃあ、アンタの得意魔法や戦い方を教えてくれ」




 俺は学院に戻ると、一旦アーリアと別れて錬金工房に向かう。

 そして武器屋で買った錆びた剣を釜に入れると、錬金術をかける。

 すると釜が光だし、錆一つ無い綺麗な剣が姿を現した。

 武器屋の店員が言っていた聖剣ではないが、これはなかなかいい剣かもしれない。

 曲がった槍の方は、時間がある時にでも直しておこう。

 錬金した剣を鞘に入れ、必要な道具を鞄につめてからアーリアと合流する。


「おおぉ!!これがあの錆びた剣……すごく綺麗になったブヒ、さすがシンクブヒ!!」


 アーリアに錬金した剣を渡すと思った以上に喜んでくれた。


「せっかく錬金したんだから、すぐに折るなよ」

「大丈夫ブヒ、ちゃんと部屋に飾っておくブヒ」

「いや、使えよ!!」


 思わず突っ込んでしまう。


「冗談ブヒ♪」

「あのなぁ……とにかく作戦通り頼んだぞ」

「わかってるブヒ……シンクこそ気をつけるブヒ」


 アーリアと再び別れた俺は、学院の裏山にある林を抜けて月明かりに照らされた草原にやってくる。

 すると、そこには昼間に出会った金髪の女子生徒『サラサ・ガーデ』が立っていた。


「ちゃんと来てくれたみたいだな」

「あなたは確か昼間にあった……私の部屋のドアに手紙を差し込んだのはあなたね?もしかしてあのデブ男の妄言を信じてしまったのかしら?」


 サラサの部屋のドアに手紙を差し込んだのはアーリアなのだが、今は黙っておく。

 ちなみに手紙には『おまえの秘密を知っている、黒いナイフを持って学院の裏山の林の先の草原に来い』みたいな事を時間を指定して書いておいた。


「俺にはさ、人の魂を見る力があるんだ……おまえの魂は汚いデブ男の姿をしてるぜ?」


 もちろん、俺にそんな力は無い。


「まさか、魔眼の持ち主だとでも言うつもり?」

「おいおい、ここをどこだと思ってるんだ?ここは実力のある者が集まるアリアドリ騎士魔法学院だぞ……まあ一回戦で敗退するようなやつにはわからなくても仕方ないか、なあ才能無しのボンデ君?」


 わざと見下すように言ってやる。

 これで本当にサラサの中身がボンデじゃなかったら、恥ずかしすぎる。


「ふ……ふざけるなぁ!!今の俺はもう才能無しじゃない!!サラサ・ガーデとして生まれ変わったんだ!!この体はもう俺のモノなんだ!!」


 サラサは、さっきまでとはまるで別人のように怒りを露にする。

 どうやらサラサの中身は、ボンデで間違いないようだ。


「ふーん、本当に中身が入れ替わっていたみたいだな」

「お、おまえ騙したのか!?」

「さあな……それより黒いナイフを渡してくれ、あれは危険なモノだ」


 素直に渡してもらえるとは思えないが、一応そう言っておく。


「嫌だ!!俺はもう元の体になんて戻りたくない、この体で勝ち組の人生を送るんだ!!」

「他人の体で、勝ち組になっておまえは満足なのか?」

「当たり前だろ、俺の体じゃ何をやってもダメなんだよ!!せっかくこの学院に入学したのに最初の試験で脱落しちまうんだぜ……俺はもう才能無しのデブ男のボンデなんかに戻りたくないんだ!!」


 よほど自分が嫌いらしく、元の体には戻りたくないようだ。


「それにこの体はすごくいい匂いがするんだ……ほら、見ろよ胸だってこんなに大きいんだぜ」


 サラサは自分の大きな胸を、俺に見せつけきた。


「そうだ、あんたが俺を見逃してくれるなら、この体で気持ちいいことしてやってもいいんだぜ?」


 下品な笑みを浮かべながら、サラサは大きな胸を揺らして俺を誘惑してくる。


「悪いが、俺はその体よりもいい女を知ってるんで、結構だ」


 まあ中身はブヒブヒ言ってる変な奴だけど。


「なるほど、昼間に一緒にいたあの女はおまえの彼女ってわけか……ちっ、これだからリア充は」

「いや彼女ではないんだが……」

「うるさい!!おまえのようなリア充がいるから俺が幸せになれなかったんだ!!」


 それはどう考えても言いがかりだ。

 それに俺は、ぼっちであってリア充じゃない。


「こうなったらおまえを消して証拠隠滅だ!!」


 サラサはそう叫ぶと、杖を構えて呪文を発動する。

 すると地面に魔方陣が現れ、そこから大きな剣と盾を持った顔の無い騎士が現れる。


「召喚魔法か……」

「行け『デュラハーン』その男を殺せ!!」


 サラサがそう命令すると、デュラハーンと呼ばれた鎧の騎士は俺に向かって大きな剣を振りかざしてくる。

 俺はその攻撃を後ろに下がって避ける。

 あの大きな剣の直撃をくらったら、ただじゃすみそうにない。


「それがサラサの力って訳か」

「そうだ、これはサラサの得意な召喚魔法だ……この体になったことで俺はサラサの力を思いのままに使えるのさ」


 サラサから召喚魔法の事は聞いていたが、思った以上にやっかいそうだ。


「ならこれならどうだ?」


 鞄から錬金した小型爆弾を取り出し、デュラハーンに投げつける。


 ドカーン!!


 俺の投げた小型爆弾がデュラハーンに直撃する。

 しかしデュラハーンの鎧は無傷で、こちらに向かってくる。


「無駄だっての!!デュラハーンは試験のゴーレムの装甲とは比べ物にならないほど硬いんだ、そんなしょぼい爆弾なんか効くかよ!!」

「こいつはまいったな……」


 錬金術師の俺が、一人で戦って勝てる相手ではなさそうだ。

 こういうタイプの魔物は魔法攻撃が有効なんだが、俺の錬金術は物を作ったり、能力を付与することしかできない。

 上位の錬金術師ならゴーレムを作り出して対抗する事もできるだろうが、今の俺では無理だ。


「さっさとあきらめて死ねよ!!」


 デュラハーンの攻撃をなんとか回避して、俺は逃げ続ける。

 そしてデュラハーンは、俺を追ってサラサからどんどん離れていく。


「これくらい離れればいいか……」


 俺は、上空に向かって閃光弾を投げる。

 すると少しの間、まばゆい光が辺りに広がる。


「なんの真似だ……そいつに目くらましなんて効かないぞ?」

「まあそういう目的じゃないしな」

「何!?」


 その時、剣を持ったアーリアがサラサの後ろの林から走って向かってくる。


「シンクの合図バッチリブヒ!!今ならあの鎧人形もすぐにはこっちに向かって来れないブヒね」

「あれはあの時の女……そうか最初から自分を囮にして俺からデュラハーンを引き離すつもりだったんだな!!」


 俺が召喚獣を引きつけて、隠れていたアーリアが術者を倒す……そういう作戦だ。

 どんな強力な召喚獣でも、術者が意識を失えば魔力の供給を失って消滅する。

 それが召喚魔法の弱点だ。


「俺を守れ、デュラハーン!!」


 デュラハーンは俺への攻撃をやめて、サラサのいる方に戻ろうとする。


「すぐには戻らせないぜ」


 俺が逃げながら設置しておいたホールドトラップが発動し、デュラハーンの体に魔力の鎖が絡みつく。

 たぶん数秒しか、もたないだろうが今はそれで十分だ。


「この小細工しやがって!!」

「おまえの相手はオレブヒ!!くらえ、聖剣アリスキャリバー!!」


 サラサに接近したアーリアは、鞘に入ったまま剣で殴りつける。


「ぐはっ!!」


 アーリアの自称聖剣が腹部に直撃したサラサは、その場に膝をつき地面に倒れる。

 するとデュラハーンも動きを止める。


「これが聖剣の力ブヒ!!」


 勝ち誇った顔でアーリアがそう叫ぶ。


「それ元は武器屋で投げ売りされてた、ただの錆びた剣だからな」


 アーリアは俺の言葉を無視して、鞘から剣を抜くとサラサに突きつける。


「さあ、とっととその体を元の人間に返すブヒ」

「い、嫌だ!!この体ならみんなが俺を認めてくれるんだ!!ただ生きてるだけで見下されるデブ男になんてもう戻りたくない!!」


 サラサは涙を流しながらそう叫ぶと、懐から黒いナイフを取り出す。


「この体はもう俺のモノだ絶対誰にも渡さない……俺がサラサ・ガーデなんだ!!」


 そして自分の腹に黒いナイフを突き立てる。

 すると黒いナイフは、サラサの体の中へと飲み込まれていく。


「お、おまえ何やってるブヒ!?」

「危険だ、アーリア下がれ!!」


 アーリアが離れた瞬間、アーリアのいた場所に黒い炎が燃え上がる。


「ぐはは、これはすごい!!体中から力が溢れてくるぞ!!」


 そう叫びながらサラサが立ち上がると、黒い炎が体から噴き出してくる。


「こいついったいどうしたんだブヒ?」

「逃げろアーリア、そいつは普通じゃない!!」


 その時、動きを止めていたデュラハーンの体からも黒い炎が噴き出す。


「さあやれデュラハーン!!この力でそいつらを皆殺しにするんだ!!」


 黒い炎を身にまとったデュラハーンは、剣と盾を投げ捨てると、俺の方に向かってくる。

 その速度は、さっきまでとは比べ物にならないほど速い。


「くっ、速い!!」


 デュラハーンの硬い拳が俺の腹部に直撃して、体が吹き飛ばされる。


「ぐはっ!!」


 あまりの衝撃に一瞬意識を失いかけたが、なんとか堪える。


「か、回復薬を使わないと……」


 鞄から回復薬を取り出そうとするが、体が痛くて動かない。

 もしかしたら、どこかの骨が折れてしまったのかもしれない。


「シンク!!」


 アーリアが俺に向かって走ってくる。


「逃げろアーリア、作戦失敗だ」


 黒いナイフにまさかこんな力があったなんて、禁忌の錬金がどれだけ危険なモノか俺は知っていたはずなのに……。

 これは完全に俺のミスだ、せめてアーリアだけでも助けなければ。


「オレは逃げないブヒ……」

「何言ってるんだ、あんなやつに一人で勝てる訳がないだろ!!」

「試験の時、シンクはオレが倒れても一人で戦ってくれたブヒ、だからオレも戦うブヒ!!」


 そう言ってアーリアは剣を構え、守るようにして俺の前に立つ。


「デュラハーン、その女をぶっ殺せ!!」


 アーリアに向かって、デュラハーンの黒い炎をまとった拳が振り下ろされる。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 その時、信じられない事が起こった。

 アーリアの剣がデュラハーンの腕を切り落としたのだ。


「ア、アーリア?」


 アーリアの剣は、まるで本当の聖剣のように白く輝いていた。

 さらにアーリアの髪の色は美しい黒から神秘的な白銀へと変化していた。


「なっ……いったい何が起こってるんだ!?」


 アーリアの輝く剣が、デュラハーンの硬い鎧の胸部を貫く。

 するとそこから黒い炎が溢れ出し、デュラハーンの全身を包み込んでいく。

 そして、黒い炎と一緒にデュラハーンの体は消滅した。


「そ、そんなバカな!?」


 デュラハーンを倒したアーリアは、剣を持ったまま無言でサラサの方に歩いていく。


「待て、アーリア!!」


 今のアーリアはどう見ても普通じゃない、もしかしたらサラサを殺すつもりなのかもしれない。

 俺は、なんとかしてアーリアの側まで行こうとするが体が思うように動いてくれない。

 

「やめろ!!来るな!!来るな!!」


 サラサは黒い炎をアーリアに向かって飛ばすが、すべて輝く剣によって防がれてしまう。

 アーリアはサラサの前に辿りつくと、輝く剣を振りかざす。


「ひぃ!!」

「アーリア!!」


 サラサが斬られる、そう思ったその時……。


「私の美しい体に何してんのぉぉぉぉ!!」


 太った男が突然現れ、アーリアに向かって体当たりをした。

 よく見るとそれはボンデだった。

 ボンデの体当たりをくらったアーリアは体制を崩し、剣を落としてしまう。

 アーリアの輝く剣が地面に突き刺さると、そこから白い光が広がっていく。

 すると近くにいたサラサの体から黒い炎が消えていく。


「お、俺の体から力が抜けていく……なんだこの温かい光は?」

「い、いったいどうなってるのこれ?」


 ボンデにそう聞かれたが、正直何が起こっているのか俺にもわからない。

 アーリアの方を見ると地面に倒れ、髪は元の綺麗な黒髪に戻っていた。

 どうやら気絶しているようだ。

 その状況を見て、まずどうするべきなのか俺は判断する。


「とりあえず、回復をたの……む……」


 そこで俺の意識は途絶えた。


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