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第48話「決闘」(挿し絵あり)

 俺はタングラル魔法学院の敷地内にある競技場に来ていた。

 ロベリアと決闘することになったのだが、さすがに街中で戦うわけにはいかないのでゴリラードさんの提案で競技場に行くことになったのだ。


「先生に許可は取ってきました、今は誰も使ってませんし邪魔も入らないはずです……それではついてきてください」


 ゴリラードさんに案内されて実技用スペースと書かれた場所に移動する。


「この実技用スペースではダメージ無効化の魔法が発動しているので怪我の心配はありません」


 どうやらアリアドリの学院の闘技場と同じ仕組みのようだ。


「ふん、ここなら貴様を叩き潰すのに何の遠慮もいらなそうだな」


 ロベリアはやる気満々のようだが、俺としては話し合いで解決したいのだが……。


「本当にやるのか?」

「あたりまえだ、貴様がリーダーだなんて僕は認めない」

「それじゃあゴリラードさんがリーダーっていうのは……」


 俺がリーダーになるのが嫌みたいなので、別の案を出してみる。


「はぁ?あんな汚いデブがリーダーだなんてありえないだろ」


 ゴリラードさんはデブどころか痩せているほうだと思う。

 肌だって白くて綺麗だし、顔も整っていてかなりの美人だ。


「ゴリラードさんのどこが汚いデブなんだよ?」

「ふん、見たままのことを言っただけだ」


 いや、どう見ても美人にしか見えないのだが……。

 もしかしてロベリアのこの態度……。


「なるほど、照れてるのか」

「はぁ?貴様は何を言って……」


 きっとロベリアはゴリラードさんが美人すぎて照れているのだ。

 小さい男の子が気になる女の子にわざとブスとか言っちゃうようなアレだ。


「恥ずかしいのかもしれないけど、そんな風に言ったら相手に嫌われるぞ」

「ちっ、話にならないな……」


 不機嫌そうに舌打ちすると、ロベリアは腰の鞘から剣を抜いた。

 その剣は綺麗な宝石が装飾されており、見るからに高価な感じがする。

 大きさとしては片手剣としても両手剣としても使えそうだ。


「へぇ、良さそうな剣だな」

「ふふん、当然だ……これは王都の武器屋で15万Gもした剣だからな!!」


 15万Gの剣なんて、とても学生が扱う武器の値段とは思えない。

 くっ、さすがはエリート校の生徒ってことか……。


「私にはシンク君の剣の質の方が良さそうに見えますけどね」


 ゴリラードさんは俺の腰のベルトにつけているマルチウェポン(片手剣)を見てそう言った。

 確かにこのマルチウェポンは、聖剣や魔剣の材料として使われるヒヒイロカネで作られている。

 武器としての質ならロベリアの剣を上回っているはずだ。


「むっ、確かにその剣の質は良さそうに見える……だが勝負は武器で決まるわけじゃない!!」


 ロベリアの言うとおり武器で勝敗が決まるわけじゃない。

 どんな武器だろうと結局は使う人間しだいだ。


「無駄話はこれくらいにして始めるぞ、剣を構えろ」


 できれば話し合いで解決したかったのだが仕方ない。

 俺は腰のベルトからマルチウェポンを取り外すと手に持って構える。


「シンクがんばるブヒ!!そんな奴こてんぱんにぶちのめしてやるブヒ!!」


 なんだか俺よりも、応援してるアーリアのほうが張り切ってる気がする。


「それでは私の掛け声で始めてください……勝負始め!!」


 ゴリラードさんの掛け声が聞こえた瞬間、俺は後ろに下がる。

 錬金術師の俺がロベリアに接近戦を仕掛けてもおそらく勝ち目はない。

 まずは距離をとらなければ……。


「ふん、やっぱり距離をとったか……だが逃がさない!!」


 剣を構えたままロベリアが俺に向かって突進してくる。

 その速度は思った以上に速く、一瞬で間合いを詰められそうになる。

 俺はポケットから煙玉を取り出すと、地面に投げつける。

 すると煙幕が広がり辺りを包み込む。


「ちっ、小賢しいことを!!」

「悪いな、俺は騎士じゃなくて錬金術師なんだ」


 道具や武器を上手く使って戦うのが、俺の錬金術師としての戦い方だ。

 煙幕でロベリアを足止めしてる間に俺は離れて距離をとる。


「よし、これだけ距離をとれば……」


 その時、煙幕の向こうから炎の矢が飛んできた。

 俺はとっさに横に飛んでそれを回避する。


「これは炎属性の魔法!?」


 自己紹介の時、ロベリアは上級の炎属性魔法を使えると言っていた。

 さっきのが下級魔法だとしたら……。


「距離をとればどうにかなると思ったら大間違いだ!!」


 ロベリアの声が聞こえた瞬間、煙幕の向こうから無数の炎の矢が飛んできた。

 この数はおそらく中級魔法……。

 炎の矢があまりに多く、とても回避できるような数じゃない。


「くっ!!」


 いくつかの炎の矢が俺の体に直撃して燃え上がる。


「ふん、僕が剣を振るうだけの騎士だと思っていたなら大間違いだ」


 近づけば剣で攻撃、離れれば魔法で攻撃というわけか……。

 剣術の方が得意だと判断して距離をとったが、これは魔法も侮れない。

 ……それにしても、炎の矢が直撃したはずなのにまったく熱くない。


「なっ……貴様どうして立っていられる!?」


 煙幕が消え、ロベリアの姿が露になると俺を見て驚いた顔をしていた。

 おそらく今の魔法で俺を仕留められたと思っていたのだろう。

 ちなみに炎の矢の直撃を受けた制服は焦げてボロボロになってしまっている。

 ダメージ無効化の魔法は生物にのみ効果があり、装備に関しては無効なのだ。


「まさか装備にアンチマジックシールドが付与されているのか?」


 アンチマジックシールドというのは、身に着けているだけで中級以下の魔法を無効化する特殊な装備効果だ。

 主に古代の防具に付与されているのだが、現代では一部の優秀な錬金術師のみが付与することが可能な技術となっている。

 もちろん、今の俺にはそんな技術はないし、装備も持っていない。

 だとしたら考えられるのは、炎の邪神であるクトゥグアの力……。

 

「ならば中級よりも、もっと上の魔法を使えばいいだけだ」


 ロベリアはそう言うと、剣を両手で持ち、集中するかのように目を閉じた。

 どうやら上級魔法を発動するつもりのようだ。

 これはチャンスだ。

 上級魔法の発動には超級魔法ほどではないが時間がかかる、発動する前に攻撃を当てることができれば俺にも勝機はある。


「よし、狙って……」


 俺はマルチウェポンをライフルへと変形させると、ロベリアに向かって狙いを定める。


「撃つ!!」


 ライフルから放たれた弾丸がロベリアに向かって飛んでいく……。

 ロベリアは俺の武器が変形する魔導機だと知らないはず、それなら意表をついて当てることもできるはずだ。

 そう思っていたのだが……ロベリアは目を閉じたまま、上半身を少しずらして飛んできた銃弾を回避した。


「なっ!?」

「正直、今のは少しだけ焦ったよ……でも僕なら避けることはできる」


 まさか魔法の発動準備中に目を閉じたまま銃弾を回避するなんて……。


「さあ今度はこちらから行くぞ!!」


 そう叫ぶとロベリアが持っていた剣から火が噴き出し、業火を纏った炎の剣へと変化する。


「見せてやる、これが僕の上級魔法……インフェルノブレイドだ!!」


 ロベリアはその場から駆け出すと、俺に向かって炎の剣を勢いよく振り下ろす。

 その素早い動きを見て、俺は回避するのは不可能だと判断する。


「それなら……」


 マルチウェポンをナックルに変形させる。


「迎え撃つだけだ!!」


 俺は全力でロベリアの剣に向かって拳を打ち込む。


「今度はナックルに……ふん、無駄なことを!!」


 ロベリアの炎の剣と俺の拳がぶつかりあう。

 そして……。


 パリン!!


 何かが割れるような音が聞こえてきた。


「えっ!?」


 それは業火を纏ったロベリアの剣が折れる音だった。

 すると噴き出していた炎が消えて、ロベリアに隙が生まれる。

 俺はチャンスとばかりに踏み込むと、ロベリアの顔面目掛けてそのまま拳を振りかざす。


「おんどりゃぁぁぁ!!」


 殴られたロベリアの体は後ろに吹き飛び、床へと落下する。


「はぁはぁ……どうだ!!」


 倒れたロベリアへと視線を向けると、さっきよりも体が小さくなっていた。


「あれ?」


 一瞬目の錯覚かと思ったが、どう見ても体が小さくなっている。

 それどころか髪が伸び、胸も大きく膨らんで、その姿はまるで女の子のように見えた。


「この娘って……」


 近づいて確認してみると、それはタングラルの街で男達にナンパされていたロリ巨乳……もとい小柄な少女だった


「ううっ、ひっく……こんなのありえない」


 少女は悔しそうな顔で目から涙を流していた。


「え、えーと、大丈夫か?」


 なんとなく罪悪感を感じて声をかける。


「うるさい!!男なんかに負けるなんて……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 少女は立ち上がると、子供のように泣きながら走って競技場を出て行ってしまった。


「ロベリアさんが逃亡したので、勝負はシンク君の勝ちですね」


 ゴリラードさんにそう告げられたが、なんだか素直に喜べない。


「シンク大勝利ブヒ!!」

「大勝利っていうか、なんていうか……」


 さっきの少女はやっぱりロベリアだったのだろうか?

 だとしたらどうして……。


「ちょっとロベリアを捜してくる」


 やっぱり気になるし、このままにはしておけない。


「あっ、シンク!!」


 俺はロベリアを追って、競技場を後にした。





「捜すって言ったものの……いったいどこにいるんだ?」


 勢いで捜すと言って出てきたが、特に当てもないのでとりあえず学院の周辺を捜してみる。

 すると、どこからか虹色に輝く不思議な蝶が飛んできた。


「なんだこの蝶?」


 それは今まで見たことのない種類の蝶だった。

 虹色の蝶は俺の周りを何度も飛び回る。


「あっ……」


 蝶は俺から離れると、どこかに向かって飛んでいく。

 気になって追いかけると公園があり、そこに生えている大きな木の下に小柄な少女がうずくまっていた。

 俺が少女の前に立つと……。


挿絵(By みてみん)


「なんの用よ」


 不機嫌そうな声でそう言った。


「最初に確認しておくけど、おまえがロベリアで間違いないか?」


 この少女がロベリアになりすましていた可能性もあるので、念のため確認しておく。


「……そうよ」

「それにしてはその……小さいな?」


 目の前の少女は顔や身長だけ見れば、12、3歳くらいにしか見えない。

 年齢的には俺と同い年か一つ下のはずなのだが……。


「小さくて悪かったわね……この体は生まれつきよ!!だから魔法を使って体系を変化させてたんじゃない」

「体系を変化って……そんな魔法が使えたのか!?」

「自己紹介の時は言わなかったけど、あたしは身体強化の魔法が使えるの……さっきまでの姿はその魔法の応用ね」


 肉体を変化させて強化する魔法は知っていたが、あそこまで別人のように変化させることができるなんて知らなかった。


「そういや話し方が変わってないか?」

「あれは演技よ、自分を男に見せるためのね」


 確かにさっきまで俺もロベリアが男だと思っていた。

 まさかロベリアがロリ巨乳……もとい女の子だったなんて驚きだ。


「なんでそんなことしてたんだ?」

「決まってるでしょ、この姿だと舐められるからよ!!」

「そういうものか?」


 そこまでする必要があるのか、いまいち俺にはわからない。


「アンタだって最初に会った時に、あたしを子供だと思ったくせに」

「うっ、それは……すみません」


 事実なので、素直に謝っておく。


「それにこの姿だと、変な男達に絡まれたりするし……」


 ロベリアをナンパしてきた男達のことを言っているようだ。


「大きな胸が好きだったり、小さな女の子が好きだったり、男って本当バカよね」

「いや、小さい胸が好きな男や年上が好きな男もいるだろ?」


 性癖なんて人それぞれだし、すべての男が同じものを好きなわけではない。


「そういうことを言ってるんじゃないの……本当バカね!!」

「じゃあどういうことなんだよ?」

「うるさいバカ……バカ!!バカ!!バカ!!」


 するとロベリアは突然叫ぶのをやめ、今度は気落ちしたように下を向いた。


「ううっ、なんであたしはこんなバカに負けちゃったのよ……」


 俺に負けたことがよっぽどショックだったようだ。


「えっと、俺が勝てたのは武器の性能のおかげっていうか、運が良かっただけで……」


 ロベリアとの決闘に勝てたのは俺自身の力というより、武器の性能とおそらくクトゥグアの力によるところが大きい。

 ロベリアの剣が折れたのだって、俺のマルチウェポンがヒヒイロカネで作られていたからだ。


「何よそれ、バカにしてんの!?」

「別にそういうわけじゃ……」

「言ったでしょ、勝負は武器で決まるわけじゃない……アンタが勝ったのは武器の性能や運だけじゃない、それぐらいあたしにだってわかってるんだから!!」


 確かに今の言い方はロベリアに対して失礼だった。


「すまない、今のは俺が悪かった」

「なんで謝るのよ……勝ったならもっと堂々としなさい!!そしてあたしを見下しなさいよ!!」

「いや、見下しはしないけど」


 なぜ見下す必要があるのか……。


「ふん、そう言って心の中では見下してるんでしょ?」

「なんでだよ、俺はロベリアのことすごいと思ってるんだぞ」


 剣術だけでなく、上級の炎属性魔法の他に身体強化魔法まで使えるなんて、本当にすごいと思う。


「じゃあ、あたしに勝ったアンタはもっとすごいってことね」

「変な深読みするなよ……俺には特別な剣の才能もないし、錬金術以外の魔法は使えないから、素直にすごいと思ったんだ」


 これは俺の素直な感想だ。


「……アンタ、もしかしてあたしと仲良くしたいとでも思ってる?」

「これからパーティーを組む仲間なんだから当然だろ」


 パーティーにとって大事なのは連携だ、そのためには仲間との信頼も重要になる。

 試験期間中だけのパーティーとはいえ、俺は少しでもロベリアを理解したい。


「何よそれ、勝負に勝ったからって早くもリーダー気取り?」

「そのことだけど、リーダーに関してはもう一度みんなで話し合って決めないか?」


 俺がそう言うと、なぜかロベリアは目を丸くして驚いた顔をした。


「アンタそれ本気で言ってるの?」

「そうだけど」


 このまま俺がリーダーになっても、ロベリアは納得できない気がする。

 それならもう一度話しあって全員が納得できるか、もしくは妥協できる答えを出したほうがいい。


「自分が決闘に勝ったのにそれを無しにするつもりなの?」

「俺は決闘で決めるよりも、ちゃんと話し合ってリーダーを決めたほうがいいと思うんだ」

「なんなのよアンタ、信じられない……」


 そんなに驚くようなことだろうか?


「はぁ……」


 ロベリアはあきれた顔でため息をつくと、その場から立ち上がった。


「わかったわ、アンタがリーダーだって認めてあげる」

「えっ!?」

「アンタと話してたらリーダーに拘るのが馬鹿馬鹿しくなってきたわ」


 さっきまで俺のことをバカバカ言ってたのに、いったいどういう心境の変化だろう?


「言っておくけど、他の二人よりマシだって判断しただけよ……アンタがリーダーだって認めてあげるのは試験の間だけなんだからね!!」

「ロベリアさんが認めたならシンク君がリーダーで問題ないですね」


 声のした方を振り向くと、ゴリラードさんとアーリアが立っていた。


「あれ、二人ともなんでここに!?」

「急に出て行くから、シンクを追いかけてきたブヒ」


 二人揃って俺を追いかけてきてくれたようだ。


「無事に追いつけて良かったです、シンク君はロベリアさんと仲直りできたようですね」


 別に喧嘩していたわけではないのだが……。


「それとリーダーの件ですけど……」

「そのことですけど、やっぱりみんなで話し合って決めませんか?」


 ロベリアは俺を認めてくれたみたいだけど、やっぱり全員で話し合って決めたい。


「いいですよ、それではシンク君がリーダーでいい人は手を上げてください」


 ゴリラードさんがそう言うと、俺以外の全員が手をあげた。


「はい、多数決の結果、シンク君がリーダーに決定しました」

「これでシンクがリーダーブヒ」

「えっ!?ちょっと待ってくださいよ!!」


 こんな決め方ってありなのか?

 もっとちゃんと話あって決めるべきなんじゃ……。


「それではリーダーも決まりましたし、昼食に行きましょう」

「腹減ったし、オレも行くブヒ」


 二人は俺を無視して歩いて行ってしまう。


「あっ、ちょっと……」

「アンタの望み通り、話し合いで決まって良かったわね」

「いや、これは話し合いじゃなくて、ただの数の暴力だから!!」


 こうして俺は試験中のパーティーのリーダーとなった。

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