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第34話「初恋の正体」(挿し絵あり)

 気がつくと、俺は神殿のような場所にいた。


「あれっ、なんでこんな所にいるんだ?」


 確か、俺はリューゲやガタノソアと戦って……。


「シンク、やっと会えましたね」


 後ろを振り返ると、銀色の長い髪をした美しい女性が立っていた。

 純白のドレスを着ており、スタイルも抜群で、胸はアーリアよりも大きいかもしれない。

 年齢は俺より上で、二十歳くらいに見える。


「えっと、誰ですか?」


 俺がそう言うと、女性はなぜか悲しそうな顔をした。

 もしかして、どこかで会ったことがあるのだろうか?


「……私は、あなた達が『女神』と呼ぶ者です」


 この人は、突然何を言い出すのだろう。


「女神って、女神教団が崇拝してる女神ですか?」

「はい、そうです」


 その顔は嘘をついてるようには見えないが、簡単に信用することはできない。


「じゃあ女神だっていう証拠はあるんですか?」

「あります、見てください」


 自称女神がそう言うと、その体が輝き出した。


「こ、これは……」

「どうですかこの輝き、いかにも女神って感じがしませんか?」


 言われてみるとそんな気がしてくる。


「それっぽくは見えますけど、その光には何か力があるんですか?」

「無いですよ、だた光ってるだけです」

「光ってるだけって……」


 光っただけで女神とか言われても困る。

 まあ普通の人間は光らないし、女神ではなくても、なんらかの力を持った存在なのかもしれない。


「今の私は力を失っているので、これくらいしかできないんです」

「しょぼい女神ですね」


 何か事情があるのかもしれないが、個人的に女神にはいい感情を持っていないので、ついそんな事を言ってしまう。


「うぐぅ……い、今は時間が無いので手短に話しますね」


 どうやら無理矢理話を進めるようだ。


「あなたがここに来る事ができたのは『創造』したからです」

「創造?」

「あなたの場合は『創造錬金』とでも言った方がいいでしょうね」


 『創造錬金』……つまりあれも錬金術ということなんだろうか?


「あなたは自分の血から異世界の神を創造することができるのです」

「異世界の神って、それじゃあ、あの炎は……」

「あれは『クトゥグア』と呼ばれる異世界の神……邪神です」


 俺の血から邪神が創られたっていうのか……。


「神を創造した事で繋がりができ、私のような存在と交信できるようになったのです」

「それって教団の巫女みたいなものですか?」


 シオンも言っていたけど、巫女は神の声が聞くことができる。


「それよりも上位の交信ですね、いくら巫女でもこんなにはっきりと私達の存在を感じ取る事はできません」


 巫女の交信がどういったモノかはわからないが、今の俺は現実と変わらないように話せている。


「大抵は巫女の方から呼びかけるんですけど、今回は私の方から呼びかけちゃいました」


 つまり俺がここにいるのは、この自称女神に呼ばれたのが原因のようだ。


「そんな簡単に呼びかけられるんですか?」

「普通は条件があるんですけど、私とシンクは特別な絆で繋がってますから」


 何それ怖い……。


「交信に関しては置いておくとして……俺の創った炎は、本当に邪神なんですか?」


 納得したわけではないが、今は俺の創造した邪神の方が気になる。


「あなたの創造した邪神は本物ではありません、力と姿が同じだけの中身の無い人形です」

「ホムンクルスと同じようなモノってことか……」

「そうですね……ですが、数分で消滅する脆い存在です」


 俺が創造できるのは本物の邪神ではなく、制限時間付きの模造品ということらしい。


「でも、なんで俺がそんなモノを……」


 模造品とはいえ、人間が神を創造するなんてありえない。

 もし、それが本当なら俺はいったい何者なんだ?


「それは、あなたの……ごめんなさい、もう時間が無いみたいです」


 すると、急に辺りが暗くなり、自称女神の姿が見えなくなっていく。


「えっ、まだ聞きたいことが!?」

「シンク、女神教団を信用してはいけません……今の教団は……」


 話している途中で自称女神の声は途切れ、辺りは暗闇に包まれた。





 目を開けると、そこはベットの上だった。


「今のは夢だったのか?」


 それにしては、随分とはっきりした夢に感じたけど……。


「シンク君、目を覚ましたのね」


 話しかけてきたのは、カティアさんだった。

 どうやら俺は、宿屋の部屋に戻ってきたらしい。


「俺は、どうしてここに」

「シオンさんが運んできたのよ」


 気絶した俺をシオンが宿まで運んでくれたようだ。


「気分はどう?痛い所はない?」

「大丈夫だけど……シオン達は?」

「隣のベットで寝てるわよ、さっきまでずっと起きてたんだけどね」


 隣のベットを見ると、シオンとアーリアが一緒のベットで眠っていた。

 アーリアの髪は、元の綺麗な黒髪に戻っている。


「なんでアーリアまでいるんだ?」

「シンク君が心配だから一緒にいるって言ってきかなかったのよ……疲れてたみたいで寝ちゃったけど」


 アーリアとシオンには心配をかけてしまったようだ。


「そういえば、ソフィーさんが右腕は治しておいたから、数日は無理に動かすなって言ってたわよ」


 確認するとリューゲに切断されたはずの右腕が生えていた。

 こんなことができるのは、超級の治癒魔法が使えそうなソフィーくらいだろう。


「それでソフィーはどうしたんだ?」

「具合が悪そうだったから、カリンさんが部屋に連れて戻ったわ」


 おそらく、俺の腕を治すために大量の魔力を消費したんだと思う。


「錬金術の素材を集めてて森の火事に巻き込まれたってシオンさんから聞いたけど……とりあえず無事で良かったわ」


 俺達は、錬金術の素材を集めに森に行った事になってるようだ。


「街からも見えるくらい、すごい火事だったのよ……誰かが超級の火属性魔法を使ったんじゃないかって噂されてるわ」

「そ、そうなのか……」


 俺が創造した炎が原因です……とはさすがに言うわけにはいかない。


「まあ、あの森は普段から誰も近づかないみたいだし、街の人に被害は無かったみたいよ」


 それを聞いて、ちょっと安心する。

 森を燃やしてしまった事は申し訳ないと思っているが、あの炎を創造しなければ、全員殺されていたと思う。


「ふぁ~、シンク君も大丈夫みたいだし、アタシは少しだけ寝ようかな」


 カティアさんが大きな欠伸をしながらそう言う。

 窓の外は薄っすらと明るくなっており、時計を確認すると午前4時だった。

 カティアさんは、ずっと起きて俺の様子を見ていてくれたのだろう。


「カティアさん、ありがとう」

「お礼を言うなら、そこで寝てる子達に言いなさい、かなり心配してたわよ」


 みんなにも、後でお礼を言っておこう。


「それじゃあアタシは寝るけど、シンク君はどうするの?」

「俺は汗をかいたから、温泉に入ってくるよ」





 男湯の入り口に行くと清掃中と書かれた看板が立っていた。

 仕方なく部屋に戻ろうとした時、混浴と書かれた別の入り口が目に入る。


「この時間なら誰もいないだろうし、こっちでもいいか」


 混浴湯の扉を開けて中に入ると、脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと向かう。

 浴場は露天風呂になっており、人の姿は見当たらなかった。


「やっぱり誰もいないみたいだな」


 体を洗い、温泉につかると、手足を伸ばして楽にする。

 暖かいお湯に包まれて、とても心地いい……。


「ふぅ……」


 温泉につかりながら、昨日起こった事を振り返る。

 俺の父親が大賢者ゼノバルトだった事がわかり、魔王戦争の原因が邪神だと知った。

 それからリューゲと邪神ガタノソアと戦い、俺の創造した炎でなんとか勝つことができた。

 そして、女神と名乗る女性が出てきた夢……あれは本当に夢だったのだろうか?


「考える事は色々ありそうだな」


 その時、浴場の入り口の方に人影が見えた。

 どうやら誰かが入ってきたみたいだが……。


「えっ……シンク君!?」


 それは青くて長い髪をした美少女……クリスだった。


「お、おはよう、クリス」


 クリスは、服を着ていなかった……つまり裸だ。

 温泉なので当然なのだが、俺は突然の事に理解が追いつかず、なぜか挨拶してしまった。


「う、うん、おはよう」


 クリスの大きな胸がたぷんと揺れ、思わず見てしまう。

 服を着ていた時から大きいと思っていたが、こうして直接見ると、さらに大きく感じる。


「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいかも……」


 クリスは恥ずかしそうに手で胸を隠すが、大きすぎて正直隠しきれていない。


挿絵(By みてみん)


「ご、ごめん……」


 そう言うと、俺は慌てて後ろを向く。

 下半身も見てしまったが、やはり今のクリスには男にあるべきモノが付いていなかった。


「別に後ろを向かなくても……本来は男同士なんだから、普通にしてくれればいいよ」


 クリスの言うとおり本来は男同士だし、気にする必要は無いのかもしれない。

 だが、今のクリスの体は女性として魅力的過ぎて、どうしても意識してしまうのだ。


「お、おう……でも、なんでクリスが混浴の方にいるんだ?」


 混浴だから別に問題無いのだが、普通なら女湯に入ると思う。


「僕が女湯に入ると気にする娘もいると思うから……ここの宿は学院の生徒も泊まっているからね」


 クリスが男だと知っているなら、そういう生徒がいてもおかしくはない。

 女子寮で暮らすためにクリスも色々と気を使っているのだろう。


「混浴なら気にする娘はいないと思うし、この時間なら誰もいないと思ったんだけど……」


 そしたら俺がいたわけか……。


「そういえばシンク君達は出かけてたみたいだけど、街から少し離れた森ですごい火事があったんだよ」


 屋敷に行く事はクリスには話してないので、俺達が森にいたことは知らないようだ。


「ああ、知ってるけど……邪魔になりそうだし、俺はそろそろ上がるよ」


 剣聖と俺の関係を知られたくないし、余計な事は話さない方がいいだろう。

 それにクリスも一人の方が入りやすいと思うし、俺は上がったほうがいい気がする。


「シンク君なら別に問題ないよ、話したい事もあるし、そっちに行ってもいいかな?」

「えっ……」


 クリスは返答も聞かず、湯船の中に入ると俺の隣に座った。

 近くで見ると、やっぱり大きい……。


「えーと……」


 クリスが困った顔で俺を見ていた。

 じっくりと胸を見すぎてしまったようだ。


「その……あんまり大きいからつい見てしまって」

「僕も男だったから気持ちはわかるけどね……でも、ちょっと大きすぎないかな?」


 正確なサイズはわからないが、クリスの胸は三桁近くあるのは間違いない。

 水着姿のアーリアの胸も大きかったが、クリスも大きさでは負けていない気がする。


「むしろ、それぐらいがいいだろ」


 大きすぎると言う人もいるだろうが、俺としては全然問題無い。


「シンク君は大きい胸の娘が好きなの?」

「好きだ」


 自分でも驚くくらい即答していた。


「そ、即答だね……」

「俺の持ってる写真集は爆乳揃いだからな」

「そ、それってエッチな本だよね?」


 クリスが顔を赤くして、そんな事を聞いてくる。


「そうだけど、クリスだって写真集くらい持ってるだろ?」

「実はそういう本は持ってなくて……」

「マジか!?」


 クラスの男子がそういう話をしてるのを聞いた事があるし、男ならみんな持っているものかと思っていた。


「興味が無いわけじゃないけど……王都では剣聖の息子として知られてたからね、そういうのを買ったらすぐにバレちゃうし」


 剣聖の息子という立場のせいで、クリスは自由にエロ本を買う事さえできなかったのか……。

 だとしたら、そんなのはあまりにも悲しすぎる。


「なるほどな……だったら俺の持ってる写真集を貸してやるよ」

「えっ、別にそこまで見たいわけじゃ……あっ、やっぱり見てみたいかな!!」


 最初は遠慮しようと思ったようだが、剣聖の息子といえど、やはり性欲には勝てなかったみたいだ。


「それじゃあ、今度シンク君の部屋に行ってもいい?」

「ああ、別にいいぞ……ただし、来る時は一人で来いよ」


 さすがに他の人がいる前でエロ本を渡す勇気は無い。


「わかってるよ……えへへ、学院に帰るのが楽しみだな♪」


 クリスは、よっぽどエロ本を見るのが楽しみなようだ。

 俺も最初に写真集を買った時は、見るのがすごく楽しみだったし、その気持ちはよくわかる。


「そういえば、俺に話したい事があるって言ってたよな?」

「うん、実は初恋の女の子の事なんだけど……」


 もしかして、手がかりでも見つかったのだろうか?


「錬金工房で見せてもらったアルバムの写真に写ってたんだ、女の子っていうか男の子だったんだけどね……」

「えっと、それって……」

「初恋の女の子はシンク君だったみたい」


 まさかクリスの初恋の女の子が自分だったなんて、予想外過ぎる。

 確かに子供の頃の俺はよく女の子に間違われていたけど、まさかクリスにまで間違われているなんて……。


「えーと……つまり、俺が灯台で出会った男の子がクリスだったわけか」

「うん、そういうことだね」


 正直、何て言ったらいいかわからない。


「なんかごめんな」


 とりあえず謝っておく。


「えっ、なんでシンク君が謝るの?」

「せっかくの綺麗な初恋の思い出を汚してしまったような気がして……」


 初恋の女の子が実は男友達でしたとか、人によってはトラウマになりかねない。


「そんなことないよ、最初は驚いたけど、僕はシンク君で良かったって思ってる……きっとシンク君じゃなかったら、こんな気持ちにならなかったと思うし」

「どういう意味だ?」

「僕にとってシンク君は、特別ってことだよ」


 温泉につかってるせいだと思うけど、真っ赤な顔でそんな事を言われると勘違いしそうになる。


「シンク君、ありがとう」

「急にどうしたんだ?」


 別にお礼を言われるような事をした憶えはない。


「あの娘に会ったらお礼を言いたいって、ずっと思ってたから」

「お礼って……ただカードゲームで遊んだだけだろ?」


 一緒に遊んだのはほんの数時間だし、特別な事はしていないはずだ。


「カードゲームの事もそうなんだけど、泣いてる僕の頭を撫でてくれたでしょ?」


 そういえば、そんな事もした気がする。


「泣いてる子供の頭を撫でるなんて、別に普通の事だろ」


 俺が泣き出すと母さんや師匠は、よく頭を撫でてくれた。


「あの時、頭を撫でてくれたのはシンク君が初めてだったんだ」

「初めてって……両親はどうしたんだ?」

「僕が生まれてすぐに母さんは死んでしまったし……父さんは厳しい人で、僕の頭を撫でてくれた事なんて一度もなかったよ」


 クリスの家庭も色々と複雑な事情があるのかもしれない。


「僕が剣聖の息子ってだけで周りの人達は特別扱いするし、普通の子供として接してくれる人なんて、ほとんどいなかったから……だから、あの時はすごく嬉しかったんだ」

「クリス……」


 もしかしたら、クリスもシオンと同じように子供の頃に温もりを与えられずに育ったのだろうか?


「でもね、シンク君と出会ってからは、カードゲームを通じて知り合いがたくさんできたんだ」

「カードゲーム?」

「うん、お店とか大会とかで知り合ったんだ、みんな剣聖の息子なんて関係無しに接してくれる人達ばかりで、こんな人達もいるんだってわかった時は嬉しかったな……」


 そう言ったクリスの顔は本当に嬉しそうだった。

 カードゲームと出会ったことで、クリスは剣聖の息子ではなく、ただのクリスとして接してもらえる場所を見つける事ができたのかもしれない。


「だからシンク君には感謝してるんだ」

「えっ?」

「シンク君がカードゲームを教えてくれたから、今の僕があるんだと思う」


 あの時の俺は、ただクリスに泣き止んで欲しかっただけで、難しい事なんて何も考えていなかった。

 だけど、クリスにとっては頭を撫でた事も、カードゲームで遊んだ事も、特別な事だったのだろう。


「俺としては感謝されるような事をした実感なんて無いんだけど……」

「いいんだよ、僕が勝手に感謝してるだけだから」


 クリスはそう言うと俺に近づき、自分の肩を俺の肩にくっつけてきた。

 その柔らかい肌の感触に思わずドキドキしてしまう。


「僕、もっとシンク君と仲良くなってもいいかな?」

「えっ……別にいいんじゃないか?」


 俺だってクリスともっと仲良くなりたいと思っているし、断る理由は無い。


「うん、ありがとう……じゃあそうするね♪」


 そう言って、嬉しそうに笑うクリスの顔は女の子にしか見えなかった。

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