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第33話「真実と覚醒」

 今から100年前に起きた戦争は『魔王戦争』と呼ばれている。

 魔族による支配を行うために『魔国アビスフレイム』の魔王が人間達に対して、戦争を起こしたのだ。

 そんな魔王の野望を止めるために『グラーネ聖王国』『アルキメス王国』『マリネイル王国』そして、今は無き『フリスティア王国』が協力して、魔王軍と戦った。

 その結果、魔王は姫騎士マリヴェール達によって倒され、戦争は終結した。


 ……というのが、一般的に知られている魔王戦争の簡単な内容だ。


「ソフィーの知っている魔王戦争と俺達が知っている魔王戦争は、やっぱり違うんだな」

「そうだ、100年前の戦争が起きた原因は魔王でも、ましてや人間でもない……『邪神』だ」


 『邪神』……それは、このアルクラン大陸で禁忌とされている存在だ。


「邪神って何ブヒ?」

「邪神と言うのは、異世界に住む邪悪な神のことです」


 アーリアの質問に、シオンがそう答える。


「異世界の神って……女神とか竜神とは違うブヒ?」

「はい、この大陸で崇拝されている女神様達とは違う、正反対の邪悪な存在らしいです……その存在は禁忌とされ、この大陸で邪神を知っている者は限られています」


 邪神は、一般人の多くには存在自体が知られていない。

 シオンが知っていたのは、女神教団の巫女だったからだろう。

 ちなみに俺が知っているのは、親父から聞いた事があったからだ。

 親父の話によると、大昔に『賢者の巨塔』が邪神に関する書物をすべて焼き払い、その知識を封印したのが理由らしい。


「それと、邪神の名を口に出せば、聖王騎士団に捕まって処刑されるので、人前で話す時は気をつけてくださいね」


 シオンがさらっと恐ろしい事を言う。

 そういえば、俺も人前では口に出すなと、親父に言われた気がする。


「わ、わかったブヒ」


 アーリアは素直に頷いた。


「それで、邪神が原因ってどういうことなんだ?」

「始まりは、大陸会議に参加した元魔王……オレ様の父親が人間に殺された事がきっかけだった」


 大陸会議というのは、三年に一度開かれる各国の代表が集まる会議の事だ。

 100年前までは『魔国アビスフレイム』や『フリスティア王国』を含む五つの国が参加していたが、今は三つの国だけになっている。


「元魔王って……ソフィーは魔王の子供だったのか?」

「そうだ、オレ様は死んだ父の跡を継ぎ、魔王となった」


 てっきり、もっと前から魔王だと思っていた。


「だが、元魔王が殺された事で怒り狂った一部の魔族の戦士達は、オレ様の命令を聞かず、人間達に対して進攻を開始してしまったのだ」


 その魔族達の進攻が、戦争の始まりだったのだろう。

 しかし、それだと戦争の原因は、元魔王を殺した人間にあるような気がする。


「元魔王を殺した人間っていうのは、邪神と何か関係があったのか?」

「ああ、その人間は邪神に体を乗っ取られていたのだ……それがフリスティア王国の姫だったとは、オレ様も父が殺されるまで気づかなかった」


 フリスティア王国の姫って、もしかして……。


「それって、姫騎士マリヴェールの事じゃないのか?」

「マリヴェールにはルリヴェールという双子の妹がいたのだ」


 マリヴェールに双子の妹がいたなんて、初耳だ。


「姫騎士マリヴェールに妹がいたなんて、わたくしも知りませんでした」

「邪神の件で、ルリヴェールは歴史から存在自体が抹消されているからな」


 邪神は禁忌の存在であるため、ルリヴェールの存在は隠されて、無かった事にされているようだ。


「ルリヴェールは、争いが広まるように戦争の裏で行動し、魔族と人間だけでなく、人間同士の争いまで各地で起こしていたそうだ」


 ルリヴェールの目的は、大陸で争いを広める事だったのだろうか?


「オレ様も人間達と和平を結ぼうとしたが、ルリヴェールに何度も邪魔をされて失敗した」


 その時の事を思い出しているのか、ソフィーは悔しそうな顔をしていた。


「ルリヴェールを止めない限り、この戦争は終わらないと感じたオレ様は、一人でルリヴェールがいるフリスティア王国へと向かうことにした」

「えっ、わざわざ自分で向かったのか!?」


 戦争の最中に、王が単身で敵国に行くなんて普通はありえない。


「あの時は、こちらもかなり消耗していたからな、他に任せられる者がいなかったのだ」


 魔族側も戦争で、かなりの犠牲が出ていたのだろう。


「フリスティア王国に向かう途中、同じようにルリヴェールを追っていたマリヴェールやゼノバルト、そして他の国の戦士達と出会い、オレ様は一緒に行動する事になった」

「他の国の戦士達って……その人達も魔王を倒したと言われている英雄なのか?」

「そうだ、アルキメス王国の竜騎士イルシャード、マリネイル王国の聖戦士アスティアと言えば、貴様も知っているだろう?」


 竜騎士イルシャードと聖戦士アスティアは、姫騎士マリヴェールと同じくらい有名な英雄だ。

 この三人は、国に関係無く名が知れ渡っている。

 もちろん、他の英雄達も有名だが、やはりこの三人には及ばない。


「イルシャードやアスティアまで一緒だったなんて、今考えるとすごいな」

「奴らの強さは常識を超えていたからな」


 そういうソフィーも常識を超えた力を持っている気がする。


「奴らの事はさておき……オレ様達はルリヴェールを追ううちに、その目的に気づいた」


 きっとその目的が、魔王戦争を起こした理由なのだろう。


「それは、邪神の召喚だ……そのために戦争を起こして、生贄となる大量の魂を集めていたのだ」

「邪神の召喚って……ルリヴェールの体を乗っ取っていた邪神とは違うのか?」

「ああ、あんなのとは比べ物にならない化け物だ、あれはこの大陸だけでなく、この世界そのものを破壊しかねない……」


 この大陸だけでも相当広いのに、世界そのものを破壊するなんて、いったいどんな邪神だというのか?


「ソフィーは、実際にその邪神を見たのか?」

「ああ、オレ様達は邪神の召喚を阻止できず、戦う事になったからな……その結果、一緒に戦った奴らは、ほとんど死んでしまった」


 英雄達は魔王との戦いの後、どこかに姿を消したことになっているが、本当は邪神との戦いで死んでいたようだ。


「邪神を倒した後、オレ様も力尽きてしまった……その時、転生魔法を使ったのだが、まさか人間の女として生まれてくるとは思わなかったぞ」


 それが、今目の前にいるソフィーということらしい。

 おそらく発動した転生魔法が不完全だったのだろう。


「だが、シンクと会えた事を考えれば、それも悪くなかったかもしれんな」

「えっ!?」

「くっくっく、冗談だ……本気にするな」


 一瞬驚いたが、よく考えたら魔王だったソフィーがそんな事を言うわけがない


「シオン、ソフィーの話を簡単にまとめるとどうなるブヒ?」

「戦争の原因は邪神で、姫騎士マリヴェール達は魔王を倒した英雄ではなく、魔王と共に邪神を倒した英雄だったということです」


 付け加えるとすれば、マリヴェールに双子の妹がいて、邪神に体を乗っ取られていた事だ。


「ソフィーの話を聞くと、俺の知っている魔王戦争とは全然違ったな」


 邪神が原因なら魔王戦争じゃなくて、邪神戦争でも良かった気がする。

 まあ、邪神の存在は一般人には隠されているので、無理だけど。


「邪神の事もそうだが、今の歴史は人間達の都合のいいように改変されているからな」


 そのせいで、邪神と戦ったのに魔王だけが悪者扱いされているのは、なんだか理不尽に感じる。

 せめて俺だけでも、魔王も英雄の一人だって認めてやりたい。


「魔王はマリヴェール達と同じ、邪神と戦った英雄だったんだな」

「それは違うぞ……邪神を倒す事はできたが、魔王が死んだ事でアビスフレイムは戦争に負けたのだ」


 魔王の死が、魔族達の敗北に繋がったのだろう


「そのせいで、魔族達はアビスフレイムに閉じ込められる事になった」


 アビスフレイムへの道は『死の森』によって閉ざされているため、今は地下道を通るしかない。

 その地下道も聖王国に管理され、今は自由に出入りできなくなっている。


「今アビスフレイムがどうなっているかは、オレ様にもわからん……だが、きっと魔族達は今も死んだ魔王の事を恨んでいるはずだ」


 魔族達は戦争に敗れ、今はアビスフレイムでひっそりと暮らしていると言われているが、それが本当なのかは正直わからない。


「オレ様は、父から受け継いだアビスフレイムを救えなかったのだ……」

「ソフィー……」


 どうする事もできない後悔を、ソフィーは転生してからも、ずっと背負ってきたんだと思う。


「さて、オレ様の話はこのぐらいにして、ここでゼノバルトが何をしていたのか調べ……っ!?」


 話を途中で止めると、ソフィーが急に険しい表情になる。


「シンク、何かよくない感じがするブヒ」


 続いて、アーリアがそんな事を言い出す。


「屋敷の外から強い魔力を感じます……」

「私も殺気めいたモノを感じます、何者かが私達を挑発しているのかもしれません」


 シオンとカリンまでそんな事を言い出した。

 いったい屋敷の外に何がいるというのか?


「外に出てみよう」


 そう言って、俺が部屋から出ようとすると、ソフィーに制服の袖を掴まれる。


「ソフィー?」

「気をつけろ……この感じ、邪神に似ている」





 俺達が屋敷の外に出ると、そこには意外な人物が立っていた。


「やあシンク君、久しぶりだね♪」


 そう親しげに話しかけてきたのは、仮面を着けた道化師……リューゲだった。


「あの時の変態仮面野郎ブヒ!!」

「シンク様、すぐに殺しましょう」


 シオンはそう言って、大きなハンマーを構える。


「挨拶も無しに、いきなり殺し合いかい?ボクに聞きたい事とかあるんじゃないの?」


 確かに、イビルレイスの事など聞きたい事はある。

 だが、この道化師に話をさせると、ろくな事にならない気がするので、聞くのは一つだけにしておく。


「屋敷の地下にある扉を開けようとしたのは、おまえか?」

「あっ、それは女神教会の人間だよ」


 リューゲは、あっさりとそう答えた。

 それが本当だとしたら、女神教会はいったい何のために……。


「オレ様からも質問させてもらうぞ」

「魔王様からも質問か……いいよ、特別になんでも答えてあげちゃう♪」


 予想はしていたが、リューゲはソフィーが魔王の生まれ変わりだと知っていたようだ。


「なら聞くが、貴様は邪神か?」

「うーん、それはね……ひ・み・ちゅ♪」

「なんでも答えるんじゃないのかよ!!」


 言い方がむかついて、思わずつっこんでしまった。


「だってー、それ教えちゃったらネタバレになっちゃうしー、そしたらおもしろくないでしょ?」


 やっぱりコイツは信用ならない……。


「それより今日は特別ゲストがいるんだ、ヘイカモン!!」


 リューゲの楽しげな声と共に地面が割れ、そこから巨大な何かが這い出てくる。

 それは無数の触手と口があり、鼻が長くて、タコのような目をした、形のはっきりしない巨大なモンスターだった。

 今まで見たどんなモンスターよりも恐ろしい姿をしており、見ているだけで異様な不快感を感じる。

 このモンスターを一言で表すなら『邪悪』……そう表現するのが、一番正しい気がする。


「なっ、なんですかあれ!?」

「これは……邪神かっ!?」


 邪神……確かにそう呼んでも違和感が無い姿をしている。


「うひひ、それより体の方は大丈夫かな?」

「何を言ってるんだ?」


 俺の体には特に異常は感じられない。


「シ、シンク様、体が動きません」

「な、なんですかこれはっ!?」

「くっ、これがその邪神の力か……」


 シオンとカリン、そしてソフィーまでもが動けなくなっているようだ。


「みんなどうしたブヒ!?」


 他の三人とは違い、アーリアは普通に動いていた。

 おそらく姫騎士の力が関係しているのだろう。


「『姫騎士の器』の方はともかく、シンク君は邪神の呪いすら効かないんだね……ちょっとびっくり」

「呪いって……ソフィー達が動けないのは、その邪神のせいなのか?」

「そうだよ、『ガタノソア』の呪いは姿を見ただけで発動するんだ」


 『ガタノソア』……それが目の前の邪神の名前らしい。


「早くなんとかしないと三人とも石になっちゃうよ~♪」


 石化の呪いだから、体が動かなくなったのか……。

 姿を見ただけで呪いが発動するなんて、反則すぎる。


「まあ、その前に殺しちゃうけどね♪」


 リューゲがそう言うと、ガタノソアが大きな触手を振り上げる。

 狙いは、動けなくなっている三人みたいだ。


「シンク様、私達には構わず、アーリアさんと逃げてください!!」


 確かに、俺とアーリアだけなら逃げる事はできる。


「シンクさん、今なら二人で逃げられるはずです」


 だけど……。


「シンク行け……生き残るチャンスを無駄にするな」


 それでも……。


「そんなこと、できるはずがない!!」


 自分でも信じられない早さでマルチウェポンを弓に変形させると、ガタノソアのタコのような目に向かって矢を放つ。

 こんな巨大な邪神を倒せるとは思えないが、目に当たれば怯ませることくらいはできるかもしれない。


「当たれ!!」


 しかし、その矢は別の触手によって、簡単に弾かれてしまった。


「くっ、そんな……」


 そして、大きな触手が振り下ろされる……事はなく地面へと切り落とされた。


「えっ!?」

「シンクは……みんなはワタシが守る!!」


 斬り落とされた触手の側に立っていたのは、白銀の髪をしたアーリアだった。

 その手には、白く輝く剣が握られている。


「へぇ、やっと姫騎士の力に覚醒したんだ」


 リューゲは、特に驚いた様子も無くそう言った。

 やはりアーリアは、姫騎士の力を使っているようだ。


「アーリア大丈夫なのか!?」


 前にサラサと戦った時にも、姫騎士の力を使っていたが、あの時は無意識で動いていた。


「ええ、シンクこそ怪我は無い?」


 今回はちゃんと意識があるようだが、見た目だけでなく、なんだか雰囲気まで、いつものアーリアと違う感じがする。


「大丈夫だけど……おまえ、本当にアーリアか?」

「そうよ、姫騎士の力の影響で、口調が少し変わってしまったみたいね」


 そういえばブヒブヒ言ってないし、普通の女の子みたいな口調になっている。


「たぶん、姫騎士の力を使うのをやめたら元に戻ると思うわ」


 姫騎士の力を使っている時だけの一時的な変化らしい。


「この邪神は、ワタシがなんとかするわ!!だからシンクは……」


 話しの途中で、アーリアの背後から無数の触手が襲い掛かってくる。


「アーリア危ない!!」

「大丈夫よ」


 アーリアは飛び上がると回転しながら、白く輝く剣でガタノソアの触手を次々と切り落とした。

 その動きは、普段のアーリアとは比べ物にならないほど素早く、さらに綺麗だった。


「ふーん、覚醒したばかりにしてはやるね……でも、その程度じゃガタノソアは倒せないよ」


 すると、切り落とされたはずの触手が次々と再生していく。

 黒いキラービーやイビルレイスのマリーナもそうだったが、ガタノソアにも強力な再生能力があるようだ。


「それなら……再生が追いつかないくらいの勢いで攻撃するだけよ!!」


 アーリアは、剣を輝かせるとガタノソアの巨大な体を、何度も切り裂いていく。

 だが、ガタノソアの動きが止まる気配は無い。

 やはり、アーリア一人の力では、再生するガタノソアを止める事は無理みたいだ。


「はぁはぁ……この化け物はどれだけ再生するのよ」


 アーリアの息が荒くなっている。

 もしかしたら、姫騎士の力を発動すると、かなりの体力を消費するのかもしれない。

 だとしたら、ガタノソアを倒す前に、アーリア自身の体力が先に尽きてしまう。


「こうなったら、俺も!!」


 俺はマルチウェポンをハンマーに変形させると、ガタノソアの歪んだ体に叩きつける。


「か、硬い!?」


 その体は思った以上に硬く、へこんだ部分がすぐに再生して元通りになった。

 どうやら普通の武器では、まともに傷つけることさえ難しいみたいだ。

 せめて錬金術以外の魔法が使えれば……。


『ソウゾウシロ』


 突然頭の中に声が響いてくる。


「この声は……」

「きゃあぁ!!」


 その時、アーリアが触手に吹き飛ばされて、俺の目の前に落ちてきた。


「アーリア!?」

「まだ……まだ倒れるわけにはいかない、シンクを守らないと……」


 アーリアは額から血を流し、ふらつきながら立ち上がる。


「まったく見苦しいね」


 リューゲの声が聞こえたと思ったら、いつの間にか俺の隣に立っていた。

 その手には、異様な光を放つ黒い剣が握られている。


「キミには、何も守れないって教えてあげるよ」


 そう言って、目の前からリューゲが消えた瞬間、マルチウェポンが地面に落ちた……俺の右腕と一緒に。


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 驚きと痛みで、大声をあげてしまう。


「シ、シンク!?」


 俺に駆け寄ろうとしたアーリアを、リューゲが横から蹴り飛ばす。


「ぐはっ!!」

「キミは、そこで黙って見てなよ……大切な人が殺されるところをね」


 リューゲは、黒い剣を持ったまま俺に近づいてくる。

 俺は左手でマルチウェポンを拾い上げると、槍に変形させる。


「へぇ、この状況でまだがんばるんだ、ボクそういう人……大嫌いだな」


 冷たい声でそう言うと、リューゲの姿が消える。

 すると突然目の前に現れ、剣を振り下ろしてきた。

 俺は、咄嗟にマルチウェポンで受け止めるが……。


「人間が作ったにしては、おもしろい武器だけど……ボクの前ではガラクタかな」


 リューゲの剣から黒い炎が噴き出すと、マルチウェポンが砕けてバラバラになった。


「なっ……」

「残念だけど、彼女が覚醒した今、シンク君はもう用済みなんだよね」


 殺される……。

 そう思った瞬間、頭の中に声が響いてきた。


『ソウゾウシロ』

 何を?


「安心してよ、キミを殺した後にあの三人も殺してあげるからさ♪」


『ソウゾウシロ』

 決まっている、この状況を変える力だ。


「姫騎士の器は貰っていくよ、まあ中身はどうなるかわからないけどね~♪」


『ソウゾウシロ』

 その力を俺は知っている。


「さっきから黙ってどうしたの?もう絶望しちゃったのかな?」


 頭の中に浮かんだのは、あの時見た、巨大な炎の塊だった。

 俺はそれを……。


「……創造する」


 すると、切断された右腕の部分が燃えるように熱くなり、そこから噴き出していた血が炎となって燃え上がった。


「なっ!?」


 噴き出した炎は、意志を持っているかのように動き、腕の形に変化する。


「おんどりゃぁぁぁぁ!!」


 俺は燃え盛る炎の右腕で、驚いているリューゲの顔面を殴り飛ばした。


「ぐわぁぁぁ!!」


 リューゲの体が吹き飛び、ガタノソアの巨体に激突する。


「燃やしてやるよ、絶望も邪神も……俺の創造した『炎』で!!」


 俺の右腕となった炎は燃え上がり、ガタノソアと同じ大きさまで膨れ上がる。

 その炎は、俺が本に意識を取り込まれた時に見た巨大な炎の塊と同じ姿をしていた。


「まさか、これは……この炎は……」


 巨大な炎の塊は、触手のような炎の偽足を作り出し、リューゲごとガタノソアに体に巻きつける。

 さらに、炎の塊から大量の炎が噴射され、ガタノソアの体が燃え上がった。


「クトゥグワァァァァァァ!!」


 そう叫びながら、リューゲは炎に包まれて消滅した。

 すると、燃えていたガタノソアの体が薄くなっていき、何も無かったように消えてしまった。


「はぁはぁ、勝った……のか?」


 そして、俺が創り出した炎の塊も消えて無くなる。

 残ったのは、俺達と……焼き尽くされた大地だけだった。


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