第2話「最初の試験」(挿し絵あり)
試験当日、俺とアーリアは試験会場である学院の闘技場に来ていた。
アーリアと出会ってから3日、正直時間が足りなくてあまり試験対策を練ることはできなかった。
アーリアは職業で言えば前衛の戦士だが、はっきり言って棍棒を使うには腕力が足りていないし、見た目も打たれ弱そうだ。
それに動きもどこかぎこちなく感じる。
なんというか……体と動きがあっていないような、そんな感じがするのだ。
装備でその辺りを補いたかったのだが、時間も素材も足りないので、結局そのままの状態で試験に挑むことになってしまった。
「ちゃんと準備は、してきたんだろうな?」
俺は、持てるだけの道具を鞄に詰め込んできた。
「大丈夫ブヒ、ちゃんと朝飯は食ってきたブヒ」
「そうじゃなくて、試験の準備はしてきたのかってことだよ!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ、よゆーブヒ」
なんだろう、すごく不安だ。
ちなみに当日渡された試験内容を知らせる紙には
『試験用ゴーレム1体の活動停止』
……と書いてあった。
「この試験用ゴーレムっていうのは、どんなのブヒ?」
「学院が試験で運用してる機械人形らしいけど……ほら、アレだ」
闘技場のゲートから、身長4メートルはある大きな人型の機械人形が現れる。
「なんか思ったより大きいブヒ」
見た目もかなり硬そうだし、あれだけ大きいと攻撃力もかなりありそうだ。
どの程度の強さなのかは戦ってみないとわからないが、少なくとも弱くはないだろう。
「おお、おまえ達来たか」
担任のビヒタス先生が俺達に話しかけてくる。
「アレと戦うんですよね?最初の試験にしては、強すぎるんじゃ……」
最初の試験だし、もっと弱そうなのが相手でもいい気がする。
「確かにそうじゃな……だが、この試験に合格できないようでは、この先この学院でやっていくのは厳しいぞ」
「でも、試験に失敗したら退学って、ちょっと厳しくないですか」
一度の失敗で退学っていうのは、他の学院ではありえないことだ。
「ここはそういう場所だ、おまえもそれを理解したうえで、この学院に来たのだろ?」
「それはそうですけど……」
この厳しい試験があるからこそ、学院の卒業生は本物の実力を持っていると言われている。
実力のある生徒だけが、アリアドリ騎士魔法学院は卒業することができるのだ。
「難しいことはわからないけど、とりあえず勝てばいいブヒ」
そう言って、アーリアは自信ありげに大きな胸を揺らす。
どうやらまったく不安を感じていないようだ。
「確かに、アーリアの言うとおりだな」
どちらにしろ最初の試験で脱落する訳にはいかない。
俺は、この学院を卒業して、錬金術師として独り立ちするのだ。
「うむ、その息だ……当たって砕けて来い!!」
「いや、砕けたらダメだろ!!」
しばらくして、試験の開始時間になる。
俺達の目の前には、試験用のゴーレムが佇んでいる。
「さて、それではそろそろ試験を始めるぞ、二人とも準備はいいか?」
「はい!!」
「大丈夫ブヒ!!」
前衛のアーリアが棍棒を構える。
「シンク・ストレイア、アーリア・セルティンの試験を開始する……それでは、はじめっ!!」
ビヒタス先生の掛け声と共に、目の前のゴーレムが起動して動き出す。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
このゴーレムがどんな攻撃をしてくるのかわからない、まずは相手の出方を見るべきか……。
そう思っていると、いきなりアーリアが棍棒を振りかざしゴーレムに向かって突進する。
「これでもくらうブヒィ!!」
するとゴーレムの拳が、突然体から分離してアーリアに向かって飛んでいく。
「アーリア避けろ!!」
アーリアは、体勢を変えて避けようとするが間に合わない。
「ブヒィィィィィィィィ!!」
ゴーレムの拳が直撃したアーリアは、豚のような鳴き声と共に吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突する。
ブバァ!!
そして最後にオナラをしてその場で力尽きた。
「ブ、ブヒィ……」
「アーリアァァァ!!」
『アーリアは戦闘不能になった』
そんなメッセージが俺の頭の中を過ぎる。
死んではいないと思うが、この戦闘で復帰するのはもう無理だろう。
まさか戦闘開始して、1分も経たずにアーリアが戦闘不能になるなんて思わなかった。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
分離した拳が、ゴーレムの腕へと戻っていく。
「マジかよ……俺一人でコイツを倒せっていうのか!?」
だがそれしかない、ここで負ければ俺もアーリアも揃って退学だ。
「……やってやる!!」
俺は鞄の中から錬金した小型爆弾を取り出し、ゴーレムへと戦いを挑む。
――そして……三十分後。
「はぁはぁ、勝った……」
俺の目の前には、活動を停止したゴーレムが倒れている。
爆弾、ホールドトラップ、回復薬等あらゆる物を使いまくって、なんとか勝つことができた。
鞄の中は空っぽになっており、もう道具は何一つ残っていない。
体力も限界で、立っているのがやっとだ。
「これにて試験を終了する……結果は合格だ!!」
ビヒタス先生のその言葉を聞いて安心したせいか、体の力が抜けて倒れてしまう。
こんなに全力を出したのはいつ以来だろう……。
そんなことを考えてるうちに、俺の意識はどんどん遠のいていった。
目を覚ますと、俺はベットの上にいた。
どうやら気を失った後、保健室まで運ばれたようだ。
視線を動かすと、アーリアが俺の事を心配そうな顔で見ていた。
その表情だけ見れば、本当にお淑やかなお嬢様にしか見えない。
「シンク、気がついたブヒ?」
やっぱり口を開けばブヒブヒ言ってしまうようだ。
「ああ、ちょっと気を失ってたみたいだな……アーリアの方はもう大丈夫なのか?」
あんな風に吹き飛ばされたら、大怪我をしていてもおかしくない。
「試合が終わってすぐに治癒魔法をかけてもらったから大丈夫ブヒ」
「そうか、なら良かった」
「良くないブヒ!!オレがすぐにやられたせいでシンク一人で戦わせてしまったブヒ」
アーリアは、自分がすぐやられた事を気にしているようだ。
普段はブヒブヒ言ってる変なやつだが、意外に優しいのかもしれない。
「まあな……でも今回は勝てたから良しとしようぜ」
そう言って、俺はベットから起き上がる。
正直、俺は最初の試験だから簡単だろうと甘くみていた。
次からはもっと念入りに準備して、戦闘前にきちんとアーリアに作戦を伝えることにしよう。
「でも、オレは何もできなかった事がくやしいブヒ……前みたいに思うように体が動かなくて、この体がこんなにひ弱だったなんて思わなかったブヒ」
試験前はあんなに余裕そうな顔をしていたのに、今のアーリアはとても暗い顔をしていた。
「そんな顔するなよ、それならまた次の試験でがんばればいいんだ」
俺は、アーリアの頭に手を乗せると優しく撫でる。
「あっ……」
世の中には一度の失敗で終わってしまうこともあるけれど、次のチャンスがあるのならまたがんばればいい。
「……次ってことは、また一緒にコンビを組んでくれるブヒ?」
「まあ、他に組むやつもいないしな」
次の試験でパートナーを変える事は可能だが、ぼっちの俺に他のパートナーなんか作れるはずもないので、アーリアと組む以外に選択肢はないのだ。
「シンク……ありがとブヒ♪」
その時、アーリアの下品なはずの笑顔が、俺にはなぜかかわいく見えた。
試験休みの次の日、教室に入るといつもより生徒が少ない事に気づく。
俺のクラスにも試験で不合格になった生徒が何人かいたようだ。
ぼっちの俺には、特に親しいやつもいなかったので関係ないけど……。
そして、いつものように誰にも話しかけられることなく、放課後になる。
試験の戦闘で道具を使い切ってしまったし、今日は錬金用の素材でも買いに行くか。
そう思って席を立つと、教室のドアからアーリアが入ってきた。
「シンク特訓するブヒ!!」
アーリアは、俺に向かって大きな声で叫ぶ。
「あの娘誰だよ?めちゃくちゃかわいいじゃん!!しかもおっぱい大きいし!!」
「もしかして、アイツの彼女なのか?それにしても、なんて大きなおっぱいなんだ!?」
「おっぱいだ、おっぱいが来たぞー!!」
そんな生徒達の声が聞こえてくる。
とりあえず、おっぱい言いすぎだ。
まあ、あの胸の大きさは三桁超えてそうだけど……。
「まずは外に出よう」
アーリアの中身はともかく、見た目はスタイル抜群の美少女なので、完全に目立ってしまっている。
ぼっちの俺に、この空気は耐えられない。
「ブヒ?」
よくわかってないアーリアの手を引っ張って、校舎の外に出る。
「それで俺に何のようだ?」
「オレ、もっと強くなるために特訓することにしたブヒ!!」
自分から特訓しようなんて、アーリアは思ったよりも真面目なのかもしれない。
「そうか、がんばれよ……それじゃあ俺は素材を買いに」
行こうとしたら制服の袖を掴まれる。
「でも何をしたらいいかわからないから、シンクに聞きに来たブヒ」
「あのなぁ……」
それくらい自分で考えろ……とも思ったが、次の試験も一緒にコンビを組むならちゃんと考えておいた方がいい気がする。
「最初に確認しておくけど、アーリアは、このまま棍棒を武器として使い続けていくのか?」
正直、アーリアには棍棒という武器自体があっていないと思う。
武器を変えるなら慣れるまで時間がかかるし、早い方がいいだろう。
「実は、オレの担任の教師にも『おまえみたいな非力な豚野郎に棍棒なんて扱うのは無理だ』って言われたブヒ」
「そ、そうだったのか……」
教師とはいえ、女の子に豚野郎は酷い気がする。
「オレは昔の自分に拘るばかりに、棍棒を武器に選んでシンクに迷惑をかけてしまったブヒ……だからオレにあってる武器をシンクに決めて欲しいブヒ」
試験での失敗は武器だけの問題ではないと思うが、今はそれは置いておくことにする。
「うーん、そうだなぁ……それじゃあこれから一緒に武器屋に行ってみるか?」
こういうのはやっぱり、本人が直接武器を見てから決めたほうがいい気がする。
ついでに街で錬金用の素材も買うことができるし。
「行くブヒ!!行くブヒ!!」
「よし、それじゃあ行ってみるか」
こうして俺はアーリアと一緒に武器屋に行くことになった。