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第27話「実習開始」(挿し絵あり)

 昼食を食べて一時間くらいで、魔導列車はルクアーヌに到着した。

 列車を降り、駅から外に出ると、俺にとって見なれた街並みが広がっていた。


「シンク、ここからでも海が見えるブヒ!!」

「列車に乗ってる時も、何度も見えただろ」


 アーリアは列車の窓から海が見えるたびに「海ブヒ!!」と騒いでいた。


「ここがシンク様が育った街なんですね」


 ルクアーヌは、学院のあるアリアドリの街よりも小さいが、大きな港があり、それなりに人口は多い。

 今は海開きの季節なので、駅前は人通りが多く、観光客が結構来ているようだ。


「とりあえず、まずは予約してある宿に行こう」


 宿屋の場所は、昨日ビヒタス先生から貰った街の地図に書いてあるが、この街に住んでいた俺には地図を見なくても場所がわかる。


「場所は知ってるから、ついてきてくれ」


 俺は、アーリアとシオンとクリスの三人を連れて、予約してある宿へと向かう。

 しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。


「あれがオレ達が泊まる宿ブヒ?」

「ああ、確か温泉があって、ルクアーヌでもそこそこ有名な宿だったはずだ」


 宿屋に辿り着くと、入り口の前に特科クラスの担任教師であるマリリア先生が立っていた。


「あれ、マリリア先生もルクアーヌに来てたんですか」

「ええ、これでも特科クラスの担任だからね、本当は学院に残って、のんびりしたいんだけど」


 アーリアと同じ特科クラスの生徒もルクアーヌに来ているので、担任であるマリリア先生も来ないわけにはいかないのだろう。


「はい、これは部屋の番号が書かれた鍵と今日の実習内容が入った封筒ね」


 俺達は、それぞれマリリア先生から番号のついた鍵と封筒を受け取る。


「宿の方にはもう話してあるから、そのまま部屋に行っても大丈夫よ」


 どうやら受付に寄る必要は無いようだ。


「あっ、また他の生徒が来たみたい、それじゃあがんばってね」


 マリリア先生はそう言うと、別の生徒の所に行ってしまった。


「それじゃあ、部屋に荷物を置いたらロビーに集合しよう」


 俺は、宿に入るとみんなと一旦別れ、鍵に書かれた番号の部屋を探す事にする。

 ちなみに俺の鍵には『206』と書かれていたので、おそらく二階にある部屋だろう。

 階段から二階に上がり、扉のプレートに『206』と書かれた部屋を探す。


「あっ、ここみたいだな」


 部屋の鍵穴にマリリア先生から貰った鍵を差し込んで回すと、カチャリと音が鳴り、扉が開いた。

 部屋に入ると、ベットが三つならんでおり、窓からは海が見える。


「景色のいい部屋みたいですね、シンク様」

「そうだな……って、なんでシオンがここにいるんだよ!?」


 声がしたので隣を振り向くと、なぜかシオンがいた。


「ここが、わたくしの部屋ですから」


 シオンが見せてくれた鍵には『206』と書かれていた。


「お、同じ部屋なのか!?」

「はい」


 シオンは、特に気にした様子も無く、平然とそう答えた。


「男同士ですから、一緒の部屋でも問題ありませんよ」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 確かにシオンは男だが、元は女でもあるわけで……。

 制服を着ていたら女にしか見えないし、俺としては色々と複雑なのだ。


「大丈夫です、わたくしがんばりますから」


 大丈夫って、シオンはいったい何をがんばるつもりなんだ!?


「本当は夜にしようと思っていたんですが、シンク様がしたいなら、今からでも構いませんよ?」

「えっ!?」


 夜にするような事って……やっぱりアレか!?

 だけど俺とシオンは男同士だし、やっぱり問題が……。

 でもシオンは元は女の子なわけで……。


「あまり難しく考えないでください……わたくしが、シンク様の事を気持ちよくしてさしあげますから」


 シオンが俺に近づき、手を伸ばしてくる。

 そして……。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」


 部屋の扉が勢いよく開き、カティアさんが入ってくる。


「カティアさん、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも無いわよ!!今シンク君にナニするつもりだったの!?」


 カティアさんは、すごい勢いでシオンに近づいていく。


「何って、マッサージですけど?」

「えっ……マッサージ?」

「はい、魔導列車に長時間乗って、シンク様が疲れているのでは無いかと思いまして……」

「そ、そうなんだ……あはは、ちょっと勘違いしちゃったよ、てへぺろ♪」


 何と勘違いしていたかは、聞かないでおこう。

 俺も、勘違いしてたし……。


「えっと、もしかしてカティアさんも俺達と同じ部屋なのか?」

「ええ、アタシも同じ部屋よ」


 カティアさんの見せてくれた鍵にも『206』と書かれていた。


「カティアさんも一緒なのか……」


 ベットが三つあるから三人部屋だとは思っていたけど……まさか、この二人が一緒の部屋だとは思わなかった。


「むっ、何か不満なの?」

「いえ、別に何も不満はないです」


 不満は無いけど、二人とも元は女の子なので一緒の部屋というのは、なんというか……やっぱり色々と複雑なのだ。


「それより二人はいいのか、俺と一緒で?」


 もし二人が嫌なら、俺は別のところに泊まってもいいと思っている。


「わたくしは、シンク様とならどこでも構いませんよ」

「そうそう、友達なんだから、そんなの気にしてなくてもいいじゃん」


 二人とも、俺が一緒でも気にならないようだ。

 男として見られてないのか、友達だからなのか……。

 どちらにしろ、二人が気にしないと言うなら、俺も変に気にしない方がいいだろう。


「わかった、それじゃあ二人とも、しばらくよろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「ええ、こっちこそよろしくね♪」





 カティアさんと別れ、シオンと一緒にロビーに向かうと、既にアーリアとクリスが待っていた。


「シンク達、遅いブヒ」」

「悪い、実はカティアさん達と同じ部屋になってさ、話してたら遅くなった」


 俺は、シオンとカティアさんが同じ部屋だった事を二人に説明する。


「オレもシンクと同じ部屋が良かったブヒ」

「でも、一緒の部屋の人がシオンとカティアさんなら、気軽に部屋を訪ねる事もできるね」


 アーリアなら誰が一緒でも関係なく部屋を訪ねてきそうだが、そう考えると知らない生徒と一緒の部屋になるよりかは良かったかもしれない。


「なら、今夜シンク達の部屋に遊びに行くブヒ」

「じゃあ僕も一緒に行こうかな、女の子と同じ部屋にずっといるのも気まずいし……」


 クリスは、シオン達とは逆に女子と一緒の部屋のようだ。


「遊びに来るのは構いませんが、まずは実習をこなしてからですね」

「じゃあ、封筒を開けてみるか」


 いったいどんな事が書かれているのか……。

 不安を感じながら、マリリア先生から貰った封筒を開けると、そこには……。


 『実習その1 海岸のゴミ拾い、詳しくは宿屋の受付で聞くこと』


 ……と書かれた紙が入っていた。


「ゴミ拾いって……」


 てっきりモンスターの討伐や、素材の採取をさせられると思っていた。


「海岸でゴミを拾うだけブヒ?」

「たぶんな、詳しい事は宿屋の受付に聞けって書いてるけど……シオン達はどうだったんだ?」

「わたくし達は、公園のゴミ拾いですね」


 場所は違うけど、シオン達もゴミ拾いなのか……。


「初日の実習は、みんなゴミ拾いなのかもね」

「まあ、モンスターと戦うよりは楽だからいいか」


 ゴミ拾いをしていて、死ぬような事は無いだろうし。


「では一旦別れて、また夜に会いましょう」

「おう、また後でな」


 シオン達と別れ、俺とアーリアは宿屋の受付から詳しい話を聞きにいく。

 それによると、海水浴場になっている海岸でゴミ拾いをするそうだ。

 受付からゴミを入れる袋を渡されるので、それを全部使い切るだけゴミを集めれれば、評価としては問題無いらしい。

 ちなみに拾ったゴミは、海水浴場のゴミ捨て場にいる係員に、学生証を見せてから渡せばいいと教えてもらった。


 今回の実習期間は、六日間。

 この実習は試験でもあるので、実習が終了した時に、ある程度の評価が無いと退学になる。

 そして、逆に評価が高いと学院から報酬が貰えるそうだ。


「報酬って何が貰えるブヒ?」

「さあな、俺にもわからない」


 試験の内容が発表された時に、ビヒタス先生に聞いてみたが教えてもらえなかった。

 学院が生徒に用意する物だし、きっとたいした物ではないだろう。


「貰えたらラッキー程度に思っておこう、それより実習をこなして無事に試験を合格する事の方が大事だ」

「そうブヒね」


 俺達は受付でゴミを入れる袋を受け取り、海水浴場になっている海岸へと向かう。

 宿屋からも近いので、すぐに辿り着く事ができた。


「おおぉ!!これが海ブヒか!!」


 海岸には水着を着た人が大勢おり、目の前には綺麗な青い海が広がっていた。

 だが、砂浜に目を向けると、あちこちにゴミが落ちているのが目につく。


「人も多いけど、やっぱりゴミも多いな」


 おかげでゴミがすぐに集まりそうだけど、地元の人間としては、やはり気持ちのいいものではない。


「それじゃあ、さっそくゴミを集めるブヒ!!」


 そう言って、アーリアは突然制服を脱ぎだす。


「お、おい!!何やってるんだ!!」


 すると下着……ではなく白いビキニが現れた。


挿絵(By みてみん)


「こんな事もあろうかと水着を着ておいたブヒ!!」


 宿屋で、部屋に荷物を置きに行った時に着替えたのだろう。

 だけど、まさかアーリアが水着を持ってるなんて思わなかった。


「その水着いったいどうしたんだ?」

「休みの日にミースと一緒に買いに行ったブヒ」


 ミースって、特科クラスにいるアーリアの友達だよな……。

 一緒に水着を買いに行くなんて、アーリアとは本当に仲がいいようだ。


「この水着、変じゃないブヒ?」


 俺は、水着姿のアーリアに視線を向ける。


「こ、これは……」


 制服を着ていた時から、大きいと思っていたアーリアの胸が、いつも以上に大きく感じる。

 その大きさはメロン……いや、人によってはスイカと答えるかもしれない。

 アーリアが少し動くだけでタプンと揺れて、白いビキニからこぼれてしまいそうだ。


「ごくり……」


 もし、アーリアが自分の彼女なら、その場で押し倒して、胸を揉んでいただろう。

 いや、むしろ彼女にしたい、そして今すぐあの大きな胸を揉みたい!!

 ……って俺は何を考えているんだ!?

 アーリアの水着姿を見たせいで、少し興奮しすぎてしまったようだ。


「シンクは、やっぱり大きい胸は好きじゃないブヒ?」


 アーリアは、何を勘違いしたのか、そんな事を聞いてくる。


「そんなわけないだろ、大好物だ!!」


 思わず本音が出てしまった。

 ここまで大きくて、形の整った胸は、初めて見たかもしれない。


「ほ、本当ブヒ?」

「ああ、その水着もすごく似合ってるし、一瞬彼女にしたいって思ったくらいだ」

「か、彼女ブヒ!?」


 アーリアが驚いたような声を上げる。


「さすがに彼女ってのは、気持ち悪かったな……ごめん」


 中身がオークのアーリアからしてみたら、人間の男にこんなこと言われたら嫌に決まっている。


「そ、そんなことないブヒ……ただなんだか胸がドキドキして変な感じブヒ」


 よく見ると顔が赤いし、もしかしたら、アーリアは体調が良くないのかもしれない。

 昨日は楽しみで眠れなかったって言ってたし、寝不足が原因だろうか?


「体調が悪いなら部屋で休んでろよ、ゴミ拾いくらいなら俺一人でもできるからさ」

「大丈夫ブヒ、そういうのじゃないブヒ……なんていうか嫌な感じじゃなくて、キュンとする感じブヒ」


 よくわからないが、体調が悪いわけではないみたいだ。


「わかった、でも無理はするなよ?」

「わかってるブヒ、それよりも早くゴミを集めるブヒ、そして海に入るブヒ!!」


 なんで突然水着になったのかと思ったら、海に入りたかったのか……。

 きっと海に入る事が楽しみで、昨日眠れなかったのだろう。


「じゃあ、ゴミを拾って余裕があったら海に入るか」

「よーし、がんばるブヒ!!早く終わらせてシンクと一緒に海で遊ぶブヒ!!」


 俺は、水着を持ってきて無いんだが……まあその辺の売店で買えばいいか。

 男性用の水着なら穿くだけだし、着替えもすぐできる。


「それじゃあオレは、あっちのゴミを拾ってくるブヒ」

「わかった、ならアーリアにゴミを入れる袋を半分渡しておくよ」





 ゴミ拾いを開始すると、あっという間に袋のゴミがいっぱいになってしまう。

 だけど、まだ砂浜にはゴミがたくさん残っている。


「よし、次の袋だ」


 俺は、次々にゴミを袋に詰めていく……。

 そして、気が付くとゴミが詰まった袋が十個以上並んでいた。


「もう袋が無いな……」


 宿の受付から貰った袋は、すべて使い切ってしまったようだ。

 周囲の砂浜は綺麗になったが、これだけのゴミが捨てられていたと考えると複雑な気がする。


「さて、アーリアの方はどうなったかな?」


 アーリアを探しながら歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。


「おまえら邪魔ブヒ!!」


 声のした方を見ると、ゴミ袋を持ったアーリアが、三人組みの男に囲まれていた。


「あれって……」

「へいへい、姉ちゃん俺達と遊ぼうぜぇ!!」


 思ったとおり、アーリアはナンパされていた。


「うるさいブヒ、ゴミ拾いの邪魔ブヒ」


 アーリアは、男達を無視してゴミを拾おうとするが、男の一人がアーリアの拾おうとしたゴミを蹴り飛ばす。


「ゴミ拾いなんかしたって、どうせすぐ散らかるんだから無駄だって」

「そうそう、俺達と気持ちいい……じゃなくて楽しいことしようぜ♪」

「オレは、ゴミを拾いを早く終わらせてシンクと海で遊ぶブヒ……それを邪魔するなら容赦しないブヒ!!」


 アーリアの右手に魔力が集まるのを感じる。

 シオンとの特訓で、覚えたばかりの魔法を男達に使うつもりのようだ。

 俺は、慌ててアーリアの元に駆けつける。


「すみません、その娘、俺の彼女なんで遠慮してもらえませんか?」

「あっ、シンク!!」


 アーリアは俺に気づくと、集中力が途切れたのか魔法の発動が中断される。


「はぁ!?テメェがこの娘の彼氏だとぉ?鏡見てから出直してこいやぁ!!」


 一番背の高い金髪の男が、叫びながら俺に顔を近づけてくる。

 その言葉、自分の顔を見てから言って欲しい。


「あぁん!!やんのかごらぁ!!」

「あんだぁ!!ぼけがぁ!!くそがぁ!!」


 残りの二人も、大声で俺を威嚇してくる。

 大声で叫べば、相手が怯えるとでも思っているのだろう。


「アーリア行くぞ」

「わかったブヒ」


 話しても無駄なようなので、男達を無視して、アーリアを連れて行くことにする。


「待てや、おらぁ!!」


 金髪の男が、アーリアの肩を掴もうと手を伸ばしてくる。

 俺は、アーリアに触れる前にその手を掴み、金髪の男を睨みつける。


「アーリアに触れるな……殺すぞ」


 自分でも、驚くくらい冷たい声だった。

 もし、これで相手が引かなかったら、その時は……。


「ちっ、わかったよ……離せ!!」


 掴んだ手を離すと、金髪の男は後ろに下がって俺から距離をとる。


「おい、いいのかよ?」

「あんなおっぱい滅多に会えないぜ?」

「うるせぇ!!さっさと行くぞ!!」


 金髪の男が歩き出すと、残りの二人は不満そうな顔をしながら一緒に去っていった。


「ふぅ、なんとかなったな……」


 俺の脅しが効いたのか、喧嘩にならなくて良かった。


「あんな奴等、オレの魔法でどうにかできたブヒ」

「あのなぁ……こんな所で魔法を使って騒ぎを起こしたら、衛兵に捕まって、下手をしたら退学だぞ」


 こんな人がたくさんいる場所で、攻撃魔法なんて使ったら、確実に衛兵に捕まる。

 正直、退学になるかはわからないが、アーリアには厳しく言っておいた方がいいだろう。


「た、退学は困るブヒ!!」

「わかったら、街中で人間相手に無闇に魔法を使おうとするな」


 まだ魔法に慣れていないアーリアでは、威力を加減できずに相手を殺してしまう可能性だってある。


「……ごめんブヒ」


 俺に怒られたのがショックだったのか、アーリアは俯いてしょんぼりしてしまった。


「まあ、今回は俺にも責任はあるし、そんなに落ち込むな」


 アーリアがあんな格好で一人でいれば、ナンパされるなんてすぐに気づけたはずなのに……これは別行動をさせた俺のミスだ。


「シンクは何も悪くないブヒ」

「いや、アーリアが水着姿で一人でいれば声をかけられて当然なのに、俺はそれに気づかなかった」

「オレが水着になったくらいで、なんで声をかけられるブヒ?」


 オークだったせいなのか、アーリアは自分の姿が女として魅力的な事に気づいていないようだ。


「それは、アーリアの姿が男にとって魅力的だからだ」


 本人は気づいてないみたいだが、さっきから海岸にいる男達がアーリアの事を見ている。

 俺が近くにいなかったら、きっとさっきみたいに声をかけてくる男もいるはずだ。


「オレが魅力的って……シンクもそう思ってるブヒ?」

「ま、まあ、それなりには思ってるかもな……」

「じゃあオレのこと、彼女にしてみるブヒ?」

「えっ!?」


 まさかアーリアは俺の事を……。


「シンクが彼氏として一緒にいてくれれば、きっとさっきみたいな奴等は絡んで来ないはずブヒ」

「そ、そういうことか……ちょっと驚いたぞ」


 ようするに、ゴミ拾いをしている間、俺に彼氏役をしろって事のようだ。

 冷静に考えたら、中身がオークのアーリアが俺の事を好きになるなんて、ありえない。


「わかった、それじゃあ今だけ俺はアーリアの彼氏だ」

「じゃあ、オレはシンクの彼女ブヒ」


 偽物とはいえ、アーリアみたいな美少女に彼女と言ってもらえるのは、ちょっと嬉しい。


「それじゃあ、二人でゴミ拾いするか」

「わかったブヒ、ダーリン♪」

「ダーリンはやめてくれ……」


 それから二人でゴミ拾いをすると、あっという間にゴミが集まり、アーリアの持っていた袋はすべて使い切る事ができた。

 その後、ゴミ捨て場に向かったのだが、俺達のいた場所とゴミ捨て場の距離が離れており、運ぶのに時間がかかってしまった。

 そして、ゴミをすべて運び終わった頃には、空は赤くなり、夕方になっていた。


「せっかく海でシンクと遊ぼうと思ったのに、もう夕方ブヒ……」


 昼間は海岸にたくさん人がいたのに、今はかなり少なくなっている。


「今からでも海に入ってみるか?」


 完全に暗くなるまで、まだ時間はあるし、少しくらいなら大丈夫だろう。


「シンクも一緒に、入ってくれるブヒ?」

「当然だろ、今の俺はアーリアの彼氏だぞ」


 水着は、ゴミ捨て場に行く途中にあった売店で買っておいた。

 もちろん、ズボンの下に装備済みだ。


「彼女っていうのも結構悪くないブヒね……」


 アーリアは、夕日を背にして俺の方を向くと、嬉しそうな顔でにっこりと笑った。


「シンク、ありがとブヒ♪」


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