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第25話「素顔の告白」(挿し絵あり)

 傭兵団に襲われてから三日が過ぎた。

 冒険者ギルドには、とりあえず山道で起きたことを報告しておいた。

 最初は信じてもらえなかったが、女になったクリスの話と山道から死体が見つかった事で信じてもらうことができた。


 その後、念のためと衛兵から取調べを受け、結局、寮に帰ってきたのは日付が変わった深夜だった。

 シオンには自分の考えが甘かったと何度も謝られ、しばらく俺が街の外で特訓するのは禁止になった。

 なので、ここ数日は錬金工房に篭って、ひたすら調合を繰り返している。


「やった……ついに完成したぞ!!」


 ソフィーに頼まれていた薬がついに完成した。

 実際に使用していないので、まだ安心はできないが、おそらく大丈夫だろう。


「それじゃあソフィーに報告して……」

「シンク君、ちょっといいかな?」


 声のした方を振り向くと、大きな胸をしたクリスが立っていた。

 男子の制服を着ているが、その姿はどう見ても女の子にしか見えない。

 街に戻った俺達は、冒険者ギルドに行く前にクリスを魔法病院に連れて行き、怪我の治療をしてもらった。

 その時に元の体に戻れるかも調べてもらったが、やはりシオン達と同じく無理だと言われた。


「クリス、俺に何か用か?」


 もしかして、シオンと何かあったのだろうか?


「うん、シンク君にはちゃんとお礼を言っておこうと思って……助けてくれてありがとう」


 クリスは、俺に向かって頭を下げる。


「僕が今ここにいるのは、シンク君のおかげだよ」

「そんなおおげさな……」

「そんなことないよ、シンク君が守ってくれなかったら、きっと僕は死んでいたと思う」

「だったら俺の方こそ、あの時クリスがナイフを防いでくれなかったら危なかったよ」


 隠れていたマリーナの投げたナイフから守ってくれたのはクリスだ。

 それに他の傭兵団の連中を倒したのだってクリスだし、マリーナに勝てたのはカリンのおかげだ。


「そうだ、礼を言うならカリンに言ってやれよ、カリンがいなかったらマリーナにも勝てなかっただろうしな」

「そうだね……彼女がいなかったら、たぶん僕達は負けていただろうし、女子寮に行ったら部屋を訪ねてみるよ」

「えっ、女子寮?」


 女子寮は男子禁制のはずだけど……。


「うん、学院の指示で男子寮を追い出されることになってさ、今日から女子寮で暮らさなくちゃいけないんだ……はぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろうね」


 クリスが深刻そうな顔でため息をつく。


「そうか、それは辛いな……」


 女子寮で暮らせるなんて最高じゃん!!とか思う男子もいるだろうが、実際はすごく気まずいと思う。

 いくら見た目がかわいい女の子になったといってもクリスは男だったのだ、それを受け入れられない女子生徒だっているだろうし、大勢の女子の中に男子が一人だけというのは立場的にも辛いはずだ。


「俺にはどうすることもできないけど、何かあったら愚痴くらいなら聞いてやるぞ」

「うん、その時はお願いするよ」


 そう言って、クリスは力なく笑った。

 なんとかしてやりたいが、学院側が決めたことなら俺にはどうすることもできない。


「あっ、そうだ……女神教団の使者と接触したけど、今回の件は関係ないって言ってたよ、まあ嘘の可能性もあるけどね」


 今回の件にはリューゲが関わっている、だとしたら奴が個人的に俺を狙った可能性も否定できない。

 だが、女神教団とリューゲが繋がっているという考え方もできる。


「そうか……まあ証拠も無いし、今はなんとも言えないな」


 とりあえず、今後も警戒だけはしておこう。


「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ」

「おう、じゃあな」

「えっと……また話に来てもいいかな?」

「ああ、別にいいぞ」


 さっき愚痴くらいなら聞いてやるって言ったし、断る理由は無い。


「ありがとう、それじゃあまた来るね」


 クリスは、さっきよりも嬉しそうな顔をして工房を出て行った。


「さて、それじゃあ俺はソフィーの所に……ってアイツ今どこにいるんだ?」

「オレ様なら、ここにいるぞ」


 後ろを振り返ると、黒いマントを着けたソフィーが立っていた。


「ソフィーいつの間に!?」


 ソフィーが工房に入って来た事に全然気づかなかった。


「さっき来たところだ、それより今のが剣聖の息子……いや娘か?」

「そうだけど、もしかしてカリンから聞いたのか?」

「それもあるが、剣聖の息子が女になったというのは、学院でも話題になっているからな」


 そういえば、クラスでもそんな話をしてる生徒がいた気がする。


「奴も災難だな、女にならなければ父親を超える可能性もあったというのに……」

「確かにクリスの剣技はすごかったけど……」


 俺の目では、追う事ができないほどの早さだった。


「さらに聖剣まで使えるというのだから、戦闘力だけなら学院最強、Sランクの冒険者にも匹敵していたかもしれんな」


 Sランクの冒険者か……国に関わるような大きな事件を解決した冒険者にのみ与えられる最高のランク。

 実際に会ったことはないが、大型モンスターやドラゴンを一人で倒せるくらい強いらしい。


「だが、女になった今の奴は聖剣を使えず、戦闘力も大幅に下がっている……このままでは、聖王騎士団に入団するのも難しいかもしれんな」

「そうだったのか……」


 クリスの父親は聖王騎士団の団長だし、クリスもきっと聖王騎士団に入ることを目指しているはずだ。

 だとしたら力を失った事は、俺が思っている以上に、クリスにとってショックな事だったのかもしれない。


「まあオレ様には関係の無い話だがな、カリンがそう言っていただけだ」


 ソフィーの話を聞いていたら、なんだかクリスの事が心配になってきた……。


「クリスは今日から女子寮で暮らすらしいから、良かったらソフィーも仲良くしてやってくれ」


 誰か一人でも仲良くしてくる生徒が寮にいれば、クリスも少しは楽になるはずだ。


「ふむ……まあカリンも世話になったようだし、気がむいたら声ぐらいはかけてやろう」

「ああ、頼むよ」


 後でアーリアやミントさんにもクリスの事を頼んでおこう。


「それで、秘薬の方はどうなんだ?」

「ああ、完成したぞ」


 俺は、薬の入ったビンをソフィーに見せる。


「本当か!?」

「ああ、でもまだ実際に試してないから、もしかしたら失敗の可能性も……」

「いや、貴様が作ったのなら大丈夫だろう、自信を持て」


 ソフィーは俺の錬金術師としての腕を信じてくれてるんだ……だったら自分でも大丈夫だって信じよう。


「しかし、本当に作ってしまうとは、貴様はいい錬金術師になりそうだな」

「でも、その薬は限定的な効果しかないから、普通の薬としてはまったく役に立たないぞ?」


 この薬は、ソフィーから貰ったレシピで作れる秘薬の一部の効果しかない、


「目的さえ果たせれば、それで構わん……後はこの薬を使うだけだが、その前に貴様に褒美を与えないとな」


 そう言うと、ソフィーの頬がなぜか赤くなる。


「さあ、今度はどんな辱めをオレ様に受けさせるつもりだ?」


 すると工房にいた他の生徒達の視線が一斉に俺に集まる。


「お、おい、変なこと言うなよ!!ここには他の生徒もいるんだぞ!!」

「だが、またオレ様にあんな恥ずかしい事をさせるつもりなのだろう?まさか今度はオレ様の口に入れるつもりか!?」


 工房にいる生徒達の俺を見る視線が、厳しくなるのを感じる。


「いや、違うから!!今回は別にいらないから!!そもそもこれは、カリンのために作ったんだから、ソフィーが何かする必要はないだろ!?」

「なるほど、カリンにしてもらいたいわけか……わかった、ならばオレ様にいい考えがある」


 絶対わかってないし、絶対いい考えじゃない気がする。


「いや、何もいらないから、普通でお願いします」


 思わず敬語になってしまった。


「くっくっく、そう遠慮するな……今夜カリンを貴様の部屋に向かわせる、薬を使った後は貴様の好きにするがいい」

「いや、だからそういうのは……」

「カリンには女として幸せになってもらいたいからな……では、さらばだ!!」


 ソフィーは俺の話を聞かず、マントを翻しながら工房から出ていってしまった。


「まあカリンのことだから、変なことにはならないだろうし大丈夫だろう」





 その日の夜。

 寮の部屋で小説を読んでいると、コンコンと窓を叩く音が聞こえてきた。


「もしかしてカリンかな?」


 窓に近づくと、制服を着て、仮面を着けたカリンが窓にぶら下がっていた。

 俺が窓を開けると、カリンが部屋の中に入ってくる。


「こ、こんばんは……シンクさん」

「おう、こんばんは、まあその辺に座って……いや、ベットにでも座ってくれ」


 床には本が散らばっていて座るところが無かったので、とりあえずベットに座ってもらう事にする。

 薬も完成したし、後で片付けておかないと……。


「ベ、ベットですか、まあいいですけど……」


 カリンはベットに腰を下ろすと、首や手を動かしてそわそわし始める。


「どうかしたのか?」


 あきらかに、いつものカリンと様子が違う気がする。


「い、いえ、なんでもありません!!それより早く用件を済ませてもらってもいいですか?」


 カリンが部屋に来ていることが、他の生徒にバレたら色々と問題になるし、早く済ませてしまおう。


「わかった、それじゃあ仮面を外してくれ」

「ええっ!!な、なんでですか!?」


 なぜかカリンが、驚いた声を上げる。


「いや、そうしないとできないだろ?」

「それって、やっぱりアレをするんですよね?」

「不安かもしれないけど、俺を信じて欲しい」


 俺はカリンの顔を真っ直ぐ見つめる。


「わ、わかりました……シンクさんがそこまで言うなら私も覚悟を決めます」


 カリンが仮面を外し、素顔が露になる。

 両目には剣で斬られた傷痕があり、その瞳には相変わらず光が感じられなかった。

 だけど、それも今日までだ……。


「それじゃあ目を瞑ってくれ」

「初めてだから優しくしてくださいね……」


 そう言って、カリンは目を瞑る。

 緊張しているのか、体が小さく震えているのがわかる。


「ああ、任せておけ」


 安心させるために、できるだけ優しく言って、カリンの顔に触れる。

 そして、ソフィーに依頼されて調合した薬を両目の傷痕に塗りこむ。


「えっ……な、何をしてるんですか?」


 カリンが困惑した声を上げる。


「何って薬を塗ってるんだけど……もしかして、ソフィーから何も聞いてないのか?」

「お嬢様からは、シンクさんが私に大事な話があるから行って来いと言われただけで……えっ!?」


 話している途中で、カリンの両目の傷痕が消え、瞳に光が戻った。


挿絵(By みてみん)


「魔導機を着けていないのに、目が見えるなんて……」

「どうやら成功みたいだな」


 俺の調合した薬の効果がちゃんと出たようだ。


「ど、どういうことですか!?」

「どういうことって、俺が錬金術で調合した薬を塗ったんだけど……ほら、鏡を見てみろよ」


 部屋にあった手鏡をカリンに手渡す。


「あっ、傷痕が消えてる……」

「さっき塗った薬には、マリーナの持っていた魔剣……エターナルペインの呪いを解除する効果があるんだ」


 薬を作り出すのにかなり苦労したが、カリンの呪いの原因である魔剣エターナルペインが手に入ったので、呪いの仕組みを解析することで、なんとか完成することができた。

 ちなみに魔剣は、カリンがソフィーに渡した物を借りて調べた。


「これでマリーナの呪いは消えた、もうアイツの思い通りにはならないはずだ」


 俺がそう言うと、カリンの目から涙がこぼれた。


「もう一生この傷は消えないと思ってたのに、目だってもう見えないと思ってたのに……どうしてシンクさんは私にここまでしてくれるんですか?」

「どうしてって……友達だからかな」


 カリンがどう思ってるかはわからないが、少なくとも俺はそう思っている。


「友達って……こんなことされたら、もう友達だなんて思えないですよ」

「えっと、友達だなんてやっぱり図々しかったか?」

「どこまで鈍いんですかあなたは……こういうことです!!」


 カリンは両腕を使って、勢いよく俺をベットに押し倒した。


「カ、カリン!?」

「シンクさん、今の私の顔どうですか?」


 俺の顔にカリンが自分の顔を近づけてくる。

 それと同時に大きな胸が俺の体に密着して、思わずドキドキしてしまう。


「すごくかわいいと思うぞ……これならきっと誰かが貰ってくれるはずだ」


 傷痕があった時から、かわいい顔をしていると思っていたが、今は傷痕が元から無かったみたいにすっかり消えて、さらにかわいくなった気がする。

 今のカリンなら「俺が貰ってやる」なんて言う必要も無いだろう。


「私が貰って欲しいと思うのは一人だけです……」


 もしかして、それって……。


「シンクさん、さっきの薬は私のために作ってくれたんですか?」

「ああ、実はカリンの顔の傷痕を治してやりたいって、ソフィーに頼まれてたんだ」


 屋上で弁当を食べた時に、ソフィーに作って欲しいと頼まれたのだ。


「お嬢様が私のために……」

「そういえば、カリンには女として幸せになってもらいたいって言ってたぞ」

「それって、私がお嬢様に言った事と同じ……そうですか、お嬢様も私に同じ事を望んでいたんですね」


 カリンが目を閉じると、再び涙がこぼれた……。


「やはり、お嬢様には幸せになってもらわないといけません、だから今はこれで我慢しておきます」


 カリンの顔がさらに近づき、柔らかい唇が俺の頬に触れる。


「あっ……」


 こんな事をされたら、さすがにカリンが俺の事をどう思っているのかわかる。


「カリン、俺は……」

「言わなくても大丈夫です」


 俺の唇にカリンの人差し指が押し付けられる。


「今は受け入れてもらえなくても構いません……ですが、私がシンクさんを好きなことだけは憶えておいてください」


 カリンは俺から体を離すと、ベットから立ち上がる。


「私の事もお嬢様の事も、きっと好きにさせてみせます……だから覚悟してくださいね♪」


 そして俺の顔を見ながら、笑顔でそう宣言した。


「ソフィーもなのか!?それって、重婚になるんじゃ……」


 聖王国では、一夫多妻は禁止されていない。

 だが、実際してるのは王族や一部の資産家くらいのものだ。


「シンクさんは結婚する事まで考えてくれてるんですね」

「付き合って、最終的に行き着くところはそこだろ?」


 さすがにそこから先の事まで考える余裕は、今の俺には無いが……。


「真面目ですね……でも私を愛人にせず、両方を妻にしようと思ってくれたことは、正直かなり嬉しいです」


 カリンは、頬を赤く染めながら嬉しそうな顔をしていた。


「ですが、私は側に置いてもらえれば、他に女がいても気にしない、都合のいい女ですから大丈夫ですよ」

「自分で都合のいい女とか言うなよ、少なくとも俺は、片方を愛人にするとかそういうやり方はしない」


 両方好きなら、両方とも妻にするべきだ、できないなら最初から付き合うべきじゃない。

 ……っていうか、二人以上と付き合うこと自体が、おかしいんじゃないだろうか?


「ふむ……それなら、これを気にハーレムを目指してみてはどうですか?」

「なんでそうなるんだよ!?」


 あまりのぶっ飛んだ発言に、思わず叫んでしまう。


「シンクさんの周りには、優秀な人材も多いですし」


 優秀な人材って、、もしかしてアーリアやシオンの事を言っているのだろうか?


「もし他の方達から告白されて選べなくなったら、そういう道を進むのもありだと思いますよ?」

「いや、そんなのありえないから」


 カリンに好きだって言ってもらえた事自体、俺にとっては奇跡みたいなものだし、他の女の子達から告白されるなんて、まずありえないだろう。

 それにハーレムというのは、ハーレムを受け入れてくれる女性がいないとなりたたない。

 そんな女性は、ほとんどいないだろうし、女性の気持ちを考えず、無理にハーレムなんて作ろうとしても失敗するに決まっている。

 そもそも一般人でハーレムなんて作れるのは、小説等の物語の主人公だけだ。


「私としては、時間の問題だと思いますけどね……まあこれでも一応女ですし、女性関係で何かあれば私に相談してください」

「さすがにそれはダメだろ」


 自分を好きだって言ってくれた女の子に、他の女の子の事を相談するほど俺だって無神経じゃない。


「私は、お嬢様とシンクさんの幸せのためなら、なんだってするつもりです……だから気にしないでください」

「なんでそこまで……」


 俺の事もそうだが、なぜカリンはソフィーにそこまで尽くすのだろう?


「そうですね、シンクさんには私の事をもっと知ってもらいたいですし、話しておきましょうか……昔、孤児だった私は『プラチナムーン』という傭兵団に拾われました、そこで傭兵としての技術を学び、ひたすら戦い続けていました」


 きっとカリンは小さい頃から、傭兵として戦場で戦ってきたのだろう。


「ですが、ある日『イビルレイス』との戦いに敗れ、団員は私以外全員殺されました……私はマリーナから拷問を受け、死んでいく仲間達の声を聞きながら、ただ死を待っていました」


 カリンの仲間達は、きっと山道にあった死体のように残酷な殺され方をしたのだろう。


「その時、幼いお嬢様が現れて私を助けてくれたんです……その後、お嬢様は私を家に連れて行き、私に新しい居場所を与えてくれたんです」

「命の恩人であり、居場所を与えてくれた人か……」


 少し違うが、俺にとっての師匠みたいなものなのかもしれない。

 それにしても、傭兵団からカリンを助け出すなんて、幼い頃からソフィーは相当な魔法の使い手だったのかもしれない。


「そして、シンクさんは私の呪いを解いてくれた王子様といった所でしょうか」

「王子様って……ふふっ」


 カリンの口から王子様なんて言葉が出てくるのが意外すぎて、思わず笑ってしまう。


「わ、私だって女ですから、王子様とか言ってみたかったりするんです!!」


 顔を赤くして、恥ずかしそうにカリンがそう叫ぶ。


「悪い、ちょっと意外だったんでな……」

「まあシンクさんは王子様としては少々アレですが、そこは我慢しましょう」

「アレってなんだよ!?」


 やっぱり顔か?それとも金なのか?


「それでも私にとっては、たった一人の王子様ですから……」


 カリンは、恥ずかしそうに俯きながら、そう呟いた。

 思わず、俺も恥ずかしくなって顔が熱くなってしまう。


「だ、だけど王子様って言っても、呪いを解いたのがたまたま俺だっただけだろ?」


 俺は恥ずかしくなって、ついそんな事を言ってしまう。


「むっ……言っておきますけど、別に呪いを解いたというだけで、シンクさんの事を好きになったわけではないです!!」


 カリンは、なんだか怒っているようだった。


「その前から気になってましたし、そうじゃなかったら女神教団の事を調べたり、シンクさん達に無理矢理ついて行ったりしませんよ!!これからだから鈍感な男は……殺しますよ!?」

「す、すみません」


 ここは素直に謝っておく。


「まあ、いいですけどね……それと他の人から告白されても『たまたま俺だっただけ』とか絶対に言わないでくださいね、シンクさんにとっては偶然でも、その人にとっては奇跡みたいなものなんです」


 確かに、自分にとって大事な事を「たまたま」なんて言葉で片付けられたら、いい気はしない。


「ごめん、失言だったな……気をつけるよ」

「わかってくれればいいんです、まあ私はそれくらいで嫌いになったりはしませんけどね……」


 そう言ったカリンの頬は赤く染まっていた。


「あっ、さっきなんだってするって言いましたけど、避妊だけはちゃんとしてくださいね?」

「なんの話だよ!?」





 それから数日後、四回目の試験の内容が発表された。


 『港街ルクアーヌでの特別実習』


 港街ルクアーヌ……それは、俺が学院に来る前に住んでいた街だった。


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