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第22話「帰り道の雑談」

 アーリアが魔法の特訓をしている間、俺はカティアさんやミントさんと一緒に冒険者ギルドの依頼を受けていた。

 二人とは前にも一度パーティーを組んだことはあったが、今回はアーリアもシオンもいないので、以前とは状況が違う。

 最初はパーティー内での自分の立ち位置がよくわからず、上手く立ち回れなかったが……。

 どうすれば二人がより戦いやすくなるのか?そのためには自分はどう動けばいいのか?

 そう考えながら何度も依頼をこなすうちに、二人の戦い方がわかり、自分がどう動けばいいのかわかってきた。


「最近シンクさんがいるだけで、なんだかすごく戦いやすくなりました」

「そだねーアタシもモンスターの攻撃をほとんど受けないし、安心して戦えるよー」


 西の草原でロックスパイダーを討伐した帰り、ミントさんとカティアさんにそんなことを言われる。


「俺としては、もっと上手く立ち回れるようになりたいんだけどな」


 そのためには、マルチウェポンの必要な武器を瞬時に判断し、もっと早く切り替えられるようになる必要がある。

 マルチウェポンの説明書に書いてあったのだが、使用者の集中力で武器の切り替わる速度が変化するらしい。


「いや、今でも十分っしょ」

「そうですよ、シンクさんは十分上手く立ち回れてます!!」

「うーん、でもなぁ……」


 女神教団がシオンの話の通りの組織なら、俺や『姫騎士の器』であるアーリア、それに女神の事を知っているシオンを狙って、何か仕掛けてくるかもしれない。

 そのために、今は少しでも強くなっておきたい。


「シンク君、パーティーで大事なのは個人の強さじゃなくて、メンバーがお互いの事を理解することだと思うのよ」


 カティアさんは、一人でうまく立ち回ろうと考えるのではなく、まず一緒に戦う仲間を理解しろと言いたいのだろう。

 確かにお互いを理解すれば、相手の考えていることもわかって、連係もしやすくなるかもしれない。


「アタシとミントは幼馴染だから問題無いとして……」


 仲がいいとは思ったが、二人が幼馴染なのは知らなかった。


「シンク君の事は、まだ知らない事が多いんだよねー」

「まあそうだろうな」


 二人とよく話すようになったのは、3回目の試験が終わってからだし、俺もカティアさんやミントさんについては、まだ知らない事が多い。


「アタシ達は、もっとシンク君の事を知るべきだと思うのよ……だからお互いの事をもっと話さない?」

「そうだな、わかった」


 お互いの事を話し合うことで理解が深まれば、パーティーの連係ももっと向上するかもしれない。


「よっしゃ、ちょろい」

「やったね、カティアちゃん」


 よくわからないが、二人は喜んでいた。


「こほん、それじゃあまずはアタシから……」


 カティアさんは、一体何を話すつもりなのだろう?


「シンクの好みのタイプを教えて」


 どうでもいい質問だった。


「それを知って、何か意味があるのか?」


 カティアさんの質問に答えても、お互いの理解が深まるとは思えない。


「何言ってるんですか、大ありですよ!!」


 なぜかミントさんに怒られた。


「常識的に考えて重要っしょ?これは今後のアタシ達に関わる重要なことだからちゃんと答えてもらわないと」


 そう言われると、答えないわけにはいかない気がしてきた。


「や、優しい人かな……」


 言ってて、なんだか恥ずかしくなってきた。


「何それ普通」

「つまんないです」

「せっかく答えたのに!?」


 何がダメだったんだろうか?


「もっと見た目がどうとかあるじゃん?」

「シンクさんの理想のままに答えてください」


 理想のままにか、それじゃあ……。


「身長が163cmくらいで、3サイズが上から101・59・89の綺麗な長い髪をした清楚で可憐なお嬢様かな」

「そんな女いないっつーの、夢見てんじゃねーよ童貞!!」

「シンクさん、現実を見ましょうね」


 正直に答えたのに酷い言われようである。

 自分でもそんな女性がいるわけないのはわかっているし、いたとしても自分の事を好きになってくれるはずがない。


「そんなに言うなら、二人の好みも教えろよ」


 俺だけに聞くなんて不公平だ。


「し、仕方ないわね、答えてやろうじゃん」

「わ、わかりました」


 二人の顔が赤くなる、やはり自分で答えるのは恥ずかしいのだろう。


「カティアさんの好みは、どうせイケメンだろ?」


 カティアさんみたいなギャルっぽい女子(今は男だけど)はたいていイケメン好きだ。


「違うし!!自分の顔、鏡で見てきなよ!!」


 なんで俺の顔を鏡で見る必要があるんだ?


「シンクさんは、イケメンですよ!!」


 なぜかミントさんが、俺をフォローしてくれる。


「ま、まあその長い前髪をどうにかすれば、少しはイケてるかもね」


 なんで俺の髪型がダメ出しされてるんだろう?

 よくわからなくなってきた……。


「結局カティアさんの好みってどんなやつなんだ?」

「えっとまあ……優しい人かな」


 カティアさんが顔を赤くして恥ずかしそうに答える。


「さっきの俺と同じじゃねーか!!もっと詳しく話せよ!!」

「だって、仕方ないじゃん……ここで言えるわけないよ」


 カティアさんは、唇を尖らせて文句を言う。


「俺には普通とか言ってたくせに……」

「まあまあシンクさん、女の子はいろいろと複雑なんです」

「……わかったよ」


 理不尽な気もしたが、これ以上は聞かないでおく。


「それじゃあ、次は私の好みのタイプですね」


 ミントさんと最初に会った時は苦手だと感じたが、ちゃんと話してみると意外と話しやすい娘で、今ではこうやって普通に話すようになっていた。

 そういえばカティアさんも最初は苦手だと思っていたのに、いつの間にか話すようになっていた気がする。


「まず私が尊敬できる人であることが条件ですね」

「なるほど、そこがまずハードル高そうだな」

「シンク君がそれを言うんだ……」


 カティアさんが、なぜかジト目で俺を見てくる。


「優しくて努力家で、仲間のために一生懸命になれる……そんな人が好きです」

「そんな人に会えるといいな」

「はい、そんな人にいじめられた……好きになってもらえたら嬉しいです」


 なんか今変なこと言わなかったか?


「ミントは表向き真面目だけど、中身は色々と歪んでるからねー」


 どういう意味だろう?


「そういえばミントさんって、いつも鎧を着てるよな?」


 俺と会った時はいつも鎧を着ている気がする。


「そ、それは……」

「この娘、結構だらしない体してるからねー」

「カ、カティアちゃん!!それは言わないでって言ったでしょ!!」


 どうやらミントさんは、自分の体型を気にしているようだ。


「でもミントさんって美人だし、そんなに気にする必要は無いんじゃないか?」


 鎧を着てて体型はよくわからないが、少しくらい太っていても、それを帳消しにできるくらい綺麗な顔をしていると思う。


「び、美人だなんてそんな……」

「でも、この娘のお腹結構すごいわよ、体重なんて……」

「わー!!わー!!」


 ミントさんが急に叫びだす。


「えっと、とりあえず落ち着いてくれ」

「す、すみません……もうカティアちゃん!!」


 ミントさんが顔を赤くして、カティアさんを睨みつける。


「ごめんごめん、でもこれでミントの事をシンク君にもっと知ってもらえたんじゃない?」

「それは、そうかもしれないけど……」


 俺が知る必要がある内容だったかはわからないが、それを言うと話がややこしくなりそうなので黙っておく。


「それじゃあ次は、私が質問してもいいですか?」

「ああ、ミントさんの質問ならなんでも答えるぞ」

「アタシの時と対応違うしっ!?」


 真面目なミントさんなら、もっと意味のある質問をしてくれるはずだ。


「シンクさんは、どうしてこの学院に入学したんですか?」

「それはアタシも気になるかも」

「別にたいした理由じゃないぞ、普通に独り立ちしたかっただけだしな」


 アリアドリ騎士魔法学院は、この国でもかなり有名な実力主義の学院なので、卒業という肩書きがあるだけで、就職がかなり有利になる。

 もし自分で錬金術の店を開くにしても、卒業生の肩書きがあるとないのでは、世間の信用が全然違うのだ。


「それじゃあ、なんで錬金術師になったんですか?」

「俺の両親は子供の頃に行方不明になったんだけど、その後、俺を育ててくれた人が錬金術師だったからかな」


 魔法の適性が錬金術しか無かったというのもあるが、あの人と出会ったというのが一番大きい。


「そうだったんですか、ごめんなさい」


 ミントさんが申し訳無さそうな顔をする。


「別に気にしなくていいよ」


 俺の両親が行方不明だったなんて、ミントさんが知ってるわけがないし、謝る必要はない。


「シンク君を育ててくれた錬金術師ってどんな人だったの?」


 カティアさんにそう聞かれ、俺はあの人の……師匠の事を思い浮かべる。

 あれは、俺がまだ9歳の頃だった……。

 両親が行方不明になって、一人で泣いてる俺を見つけてくれたのが、まだ17歳の新米錬金術師だった師匠だ。

 師匠は泣いてる俺を家に連れて帰り、一緒に暮らそうと言ってくれた。

 それから俺は、師匠の弟子となり錬金術師になることを決めたのだ。


「錬金術師としては、そこまで優秀では無いけど、優しくて一生懸命で絶対にあきらめない、そんな人だ」


 師匠は錬金術の適性はあまり高く無かったが、それを努力と閃きで補っていた。

 1個で無理なら100個作ってなんとかする、そんな感じの人だった。


「その人って女の人?」


 カティアさんがなぜかそんな事を聞いてくる。


「そうだけど」

「もしかして、シンクさんはその人のことを好きだったんじゃ……」


 ミントさんがそんなあり得ない事を言い出す。

 女というのは、どうしてすぐに恋愛に繋げたがるのか……。


「それはない」


 きっぱりとそう答える。

 確かに師匠は俺にとって大事な人だが、恋愛とかそういうのとはまったく別の存在だ。


「それに師匠はもう結婚してるしな」


 師匠は、俺がこの学院に入学する少し前に冒険者の男性と結婚した。


「そっか、なら安心ね」

「もし、独身だったら危ないところだったね」


 なんでこの二人は安心しているんだ?


「あっ、もしかしてその人が結婚したから、シンクさんはこの学院に来たんですか?」

「違うよ、そもそも学院に入学するのを勧めたのは師匠だしな」


 自分の所にこれ以上いても、俺の成長が望めないので、学院に入学してみたらどうかと師匠に言われたのだ。

 俺自身もそう感じていたので、入学費用も少なく、卒業すれば肩書きも付くアリアドリ騎士魔法学院を選ぶことにした。

 まあ新婚の師匠達を二人きりにしてあげたいという気持ちも確かにあったけど……。


「そういう二人こそ、なんでこの学院に入学したんだ?」

「私は、もちろん聖王騎士団に入るためです!!」


 そういえばミントさんは、初めて会った時に騎士を目指してると言っていた気がする。


「ミントは、聖王騎士団の昔話が大好きだからね……」


 聖王騎士団の昔話っていうと100年前に魔王軍と戦った話の事だろう。


「お婆ちゃんがよく聖王騎士団の話を聞かせてくれたので、その影響かもしれません」

「そうだったのか……」

「はい、立派な騎士になってこの国の民を守りたいんです」


 俺自身は、聖王騎士団の事があまり好きではないのだが、ミントさんの誰かを守りたいという夢を否定するつもりはない。


「ちなみにアタシはミントが入学するっていうから、なんとなくかなー」


 すごい軽い理由だった。


「そんなこと言って、カティアちゃんは自分のお家を継ぐために、この学院に来たんでしょ?」

「どういうことだ?」

「カティアちゃんのお父さんは錬金術師なんです」

「実家が錬金術の店をやってるってだけなんだけどねー」


 だからカティアさんは錬金術師だったのか……。


「パパがこの学院を卒業できたら一人前と認めてやるって言うから、しゃーなくアタシも入学したわけよ」


 正直、こんなギャルっぽい娘(今は男だが)がなんでこの学院にいるのかと思っていたけど、入学したのは真面目な理由のようだ。


「そう言えば、おじさんにはカティアちゃんが男の子になっちゃったこと報告したの?」

「そういえば知らせてなかったけど、まあいいか……なんか説明するのも面倒だし」


 確かに自分の性別が変わってしまったなんて、親には言いにくいかもしれない。


「まあ元に戻る方法は自分でも探してるし、卒業までになんとかすればいいっしょ」」


 カティアさんは、女に戻る事をあきらめていた訳ではないようだ。


「カティアさん、あれから自分で調べてたんだな……」

「アタシだって一応錬金術師だよ、元に戻る方法くらい自分で見つけてみせるよ、そうしないと好きな男の子と結婚もできないしね……」


 カテイアさんって、思ったよりも強い人なのかもしれない。


「それじゃあ、カティアさんが結婚できるように俺も協力するよ」

「えっ、それって……」

「俺だって錬金術師だからな、何か困った事があったら相談してくれ」


 今呪いの事を調べてるし、もしかしたら力になれるかもしれない。


「なるほど、そういうことね……アタシとしては元に戻った後に協力して欲しいんだけど」


 なんだろう?彼氏を探すのを手伝って欲しいということだろうか?


「それじゃあ何か困った事があったら相談するかもね」

「ああ、そうしてくれ」

「あ、あの私も困った事があったら相談していいですか?」


 ミントさんが焦った様子で話しかけてくる。


「でも、俺は騎士とか武器に関することはあんまり詳しくないぞ?」


 俺がわかるのは魔法関係くらいだ。


「それでも構いません!!なんでもします!!なんでもしますから!!」


 なんでそんなに必死なんだろう……。


「わ、わかったよ、何かあったら話くらいは聞くから」

「ありがとうございます!!」


 その後も、街に着くまで二人と話しながら歩いた。

 なんとなくだが、前よりも二人と仲良くなれた気がした。





 街に着いた俺達は、冒険者ギルドで依頼の達成を報告して、今日の特訓を終了した。

 その後、カティアさんとミントさんは買い物があると言って、二人でどこかに行ってしまった。

 一人で男子寮に帰ると、俺の部屋の前でシオンが待っていた。


「シンク様、お疲れ様です」

「お疲れ、そっちの調子はどうだ?」


 アーリアは、魔法を使えるようになったのだろうか?


「まだ少し時間がかかりそうですが、心配はいりません……シンク様の方はどうですか?」

「俺の方は……」


 今日の特訓がどうだったか、シオンに伝える。

 誰も怪我をしなかったし、それなりにいい結果だったと自分では思うが……。


「なるほど、それでは明日からシンク様には別の方とパーティーを組んでもらいます」

「別のって、いったい誰だよ?」


 他に俺の知り合いといったら、ソフィーとカリンだが……まさかあの二人だろうか?


「わたくしのパートナーであり、剣聖の息子でもある……クリス・セブントラッドです」


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