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第1話「出会い」(挿し絵あり)

 魔王が倒されて100年。

 世界は魔物が未だに存在するが、それなりに平和を取り戻していた。




 アルクラン暦1101年 5月。


 俺、『シンク・ストレイア』がアリアドリ騎士魔法学院に入学して約1ヶ月が経った。

 そんな俺には未だに友人が一人もおらず、ぼっちだった。


「うーん、どうしたもんかな」


 アリアドリ騎士魔法学院では、入学した月を除いて一年間毎月試験が行われる、その試験を合格できなければ退学という厳しい制度なのだ。

 学院にしては一年間と在学期間は短いが、その分試験が厳しく、卒業できるのは入学した時の人数の半分以下だと言われている。


 入学できるのは15歳から19歳までの男女で、若くて即戦力になる人材を育成するのが目的らしい。

 試験の内容は、ダンジョンを探索したり、モンスターの討伐など様々だ。

 そして、これが一番問題なのだが、試験は二人でコンビを組まなければならないという決まりがある。


「パートナーにするなら、やっぱり騎士科の生徒だよな」


 アリアドリ騎士魔法学院には、大きく分けて騎士科と魔法科がある。

 騎士科のクラスは、昔は騎士になるためだけのクラスだったが、今では卒業後に冒険者になる生徒もいるため、あらゆる前衛職を目指す生徒が在籍している。

 魔法科のクラスは、名前の通り魔法使いを目指すために作られた科だ、属性魔法、治癒魔法、召喚魔法等、様々な分野の魔法を使う生徒が在籍している。


 ちなみに俺は魔法科で、錬金術を学んでいる。

 コンビを組む場合、基本的にバランスを取るため前衛職の騎士科と後衛職の魔法科で組む事が多いようだ。

 なので俺の場合は、騎士科の生徒をパートナーにする方がバランスがいいのだが……。


「はぁ……」


 ぼっちの俺にはコンビを組んでくれるパートナーなんているはずもなく……ただ教室の隅でため息をつくのだった。

 せっかくこの学院に入学できたのに、このままだと試験を受ける前に退学になってしまう。


「そうだ、きっとどこかに俺のパートナーがいるはずなんだ……よし明日からがんばろう」

「現実逃避するな、締め切りは今日だぞ」


 後ろを振り返ると、長くて白い髭を生やした老人……俺のクラスの担任教師であるビヒタス先生がいた。


「クラスでパートナーが見つかってないのは、おまえだけだぞ」

「うっ、わかってますよ」


 そんなのは、ぼっちな俺が一番知っている。

 一度、勇気を振り絞って騎士科の生徒に声をかけてみたのだが「錬金術師と組むとかありえねぇし」って言われた。


「わかってるなら、パートナーの当てはあるのか?」

「いや、ないですけど……」


 悲しいけど、それがぼっちの現実だ。


「やれやれ仕方ないやつだな……それじゃあこの箱から一枚クジを引け」


 ビヒタス先生はどこからともなく金色の箱を取り出した。


「なんですか、これ?」

「これはコンビを組めなかった生徒同士を強制的に組ませるクジじゃ」


 要するに余りモノ同士で組ませるわけか。


「試験でコンビを組む事は絶対だからな、断ることはできんぞ」

「ぐぬぬ……」


 正直、クジでパートナーを決めるなんてしたくないが、このままじゃ試験を受けることもできないので仕方が無い。

 俺は金色の箱に腕を突っ込み一枚の紙を取り出す。

 そこには777と書かれていた。


「なんか幸運そうな数字が出ましたけど」


 数字だけ見ると、大当たりのような気がする。


「そうか、それを引いてしまったが……」


 ビヒタス先生がすごく気の毒そうな顔をしている。


「えっ、何!?これなんかマズい相手なんですか?」

「まあ、あれだ……その……がんばれ」


 そう言って、俺の肩にポンと手を乗せる。


「いや、励ましとかいらないんで、どんな相手か教えてください!!」


 もしかして、とんでもない不良だったりするんだろうか?


「会えばわかる……旧校舎の二階にある777教室に向かえ」


 それだけ言って、ビヒタス先生は物凄い速さで教室を出て行く。


「ちょっと待ってくだ……って足早っ!!」


 老人とは思えないスピードだ。


「はぁ……とにかく行ってみるか」


 仕方なく俺は旧校舎へと向かうのだった。




 旧校舎に入り、二階に向かうとマジックで777と書かれた紙が貼り付けられた扉を見つける。


「なんか適当だな」


 たぶんこれは教師の誰かが書いて張ったのだろう。

 そもそも旧校舎に777個も教室はない。


「とりあえず中の様子を見てみるか……」


 教室の扉を少しだけ開けて中を見てみる。

 すると夕日に照らされた、長い黒髪の女子生徒が窓の外を見つめていた。


挿絵(By みてみん)


 女子生徒は、綺麗なエメラルドの瞳をしており、品のある整った顔立ちをしている。

 正直かなりの美少女だ、胸もかなり大きくて、女子生徒が少し動くだけで揺れるほどだ。

 そんな彼女に俺は思わず見惚れてしまう。


「綺麗だな……」


 お淑やかな感じがするし、きっとどこか大きな家のお嬢様なのだろう。

 しかし、なんでこんな生徒が俺と同じ余りモノなのか理解できない。

 もしかしたら、何か事情があるのかもしれない……例えば過去に誰かに裏切られて人間不信になってしまったとか、大事な誰かを失ったとか。


 ブバァブビィ!!


 その時、聞こえるはずのない下品な音が教室の中から聞こえてくる。


 ブリィブバァ!!


 ……というか女子生徒の方から聞こえる。


 ブバァブリィ!!


「ブヒヒ、待ちくたびれてオナラ出ちまったブヒ♪」

「って、おまえの屁かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 思わず扉を開いて、突っ込んでしまう。


「ブヒ?もしかしておまえがオレのパートナーブヒ?」


 なんだこの女、さっきまで美少女だと思っていたら、急にブヒブヒ言い出したぞ?


「……おまえ、クジ番号は何番だった?」

「777ブヒ」


 女子生徒は777と書かれた紙を見せてくる。


「やっぱりか……」


 俺も777と書かれた紙を女子生徒に見せる。


「やっぱりおまえが、オレのパートナーブヒ?」

「さっきからブヒブヒ言ってるが、おまえもしかして『精神汚染者』か?」


 『精神汚染者』と言うのは、短期間で人格が急激に変化したりする人間の事だ。

 その変化は、中身が女から男に変わるくらい急激なモノらしい。

 最近この国でも増えているらしいが、原因は不明とされている。


「ブヒヒ、みんなはそう言ってるブヒね♪」


 そう言って、女子生徒は下品な笑みを浮かべる。

 その笑顔は女子生徒の容姿からはとても想像できない表情だ、まるで中身だけが別人のように感じる。


「そんなことよりも、おまえの名前を教えるブヒ」

「俺はシンク・ストレイア、魔法科の錬金術師だ」


 聞かれたので、とりあえず名乗っておく。


「オレはアーリア・セルティン……アーリアと呼ぶブヒ」

「わかった、それでアーリアは何科なんだ?」


 中身は仕方ないとして、せめて騎士科の生徒ならそれなりにバランスも取れるはずだ。

 だが見た目はお淑やかなお嬢様なので、とても前衛には見えない。


「特科クラスブヒ」


 そんな意外な答えが返ってくる。

 特科クラスというのは今年できたクラスで、なんでも学院側が直々に入学生の中から特科クラスの生徒を選んでいるらしい。


「もしかして、アーリアには特別な力があるのか?」

「そんなものはないブヒ」


 即答された。


「特科クラスっていうのは、オレのようなヤツがいるクラスブヒ」


 要するに『精神汚染者』等の変わり者で構成されたクラスって事か。


「それじゃあ、何か武器や魔法は使えたりするのか?」

「オレの武器はこいつブヒ」


 アーリアが、取り出したのは小汚い棍棒だった。

 よくオークやゴブリンが使ってる様なやつだ。


「なんで棍棒なんだよ!?」


 お嬢様っぽいアーリアの外見と棍棒という組み合わせが、あまりにもアンバランス過ぎる。


「この武器が一番しっくりくるブヒ」


 アーリアは棍棒を振り回すが、すぐに腕の動きが止まってしまう。


「……腕が疲れたブヒ」

「早っ!!」


 確かにアーリアの細い腕では、こんな棍棒を振り回すなんて無理がある。


「前の体……じゃなくて昔は、これでも毎日振り回してたブヒ」

「おまえ絶対武器変えたほうがいいよ」


 これでは戦闘中にすぐ息切れしてしまう。


「嫌ブヒ!!絶対この棍棒を使うブヒ!!」

「でもなぁ、それじゃあ試験に合格するのは難しいぞ」

「だが断るブヒ!!」


 なんでそんな小汚い棍棒に拘るのかわからないが、武器を変えるつもりはないようだ。


「仕方ないな、それじゃあちょっと付いて来い」

「どこに行くブヒ?」

「錬金工房だ」




 俺は学院内にある、錬金工房に入ると自分専用の錬金釜が置いてある場所に向かう。

 そんな俺の後ろをブヒブヒ言いながらアーリアが付いてくる。


「なんか大きい釜がいっぱいあるブヒ」

「危ないから勝手に触るなよ」


 そんな事を話してる間に、俺専用の錬金釜の前にたどり着く。


「それじゃあアーリアの棍棒を貸してくれ」

「いいけど、どうするブヒ?」

「錬金術を使って、その棍棒に特殊効果を付与する」

「ブヒ?」


 どうやらよくわかっていないようだ。


「やればわかるさ、とりあえず棍棒を貸してくれ」

「わかったブヒ」


 俺はアーリアから棍棒を受け取ると、釜の中に入れる。

 その後に錬金の材料になる、薬草や鉱石を入れて釜の蓋をする。

 そして、魔法を発動すると釜が光りだした。


「おおー、なんか光ってるブヒ!!」


 アーリアは珍しそうに釜を見ている。

 きっと錬金術を見るのは、初めてなのだろう。


「よし、完成だ」


 光が消えるのを確認して、釜の中から棍棒を取り出す。


「ほら、持ってみろ」


 俺は、アーリアに棍棒を手渡す。


「こ、これは……前より軽くなってるブヒ!?」

「錬金術を使って、その棍棒に軽量化の効果を付与した、軽くなったが攻撃力はほとんど変わってないはずだ」

「これならこの体でも棍棒を振り回せるブヒ!!」


 アーリアは嬉しそうに棍棒を振り回す。


「こら!!工房で振り回すんじゃない!!」

「ごめんブヒ……でもシンクってすごいブヒね!!」


「これが錬金術ってやつだ……特殊効果を付与する他にも薬や爆弾を作ったり、合成して新たなモノを作り出すことができる」


 まだ学生の俺には、作れるモノは限られているが……。


「おおー、なんかすごそうブヒ」

「まあ錬金する素材がなければ、何もできないっていう欠点はあるけどな」


 錬金術師は基本裏方、戦闘では道具を使って後衛から仲間を支援するのが基本なのだ。

 まあ中には例外もいるが、俺はそうじゃない。


「とにかく、これで試験もバッチリなはずブヒ」

「棍棒一つで変わるとは思えないけど……」


 そもそも棍棒なんて使ってる生徒は、きっとアーリアくらいだろう。


「ところで試験って何するブヒ?」

「知らないのかよ!!」


 俺は、この先の試験に無事に合格できるか不安になるのだった。


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