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第17話「黒い蜂」

 大きな木の上にはキラービーの巨大な巣があり、百匹を超えるキラービーの大群がいる。

 今にも俺達に襲い掛かってきそうな雰囲気だ。


「さ~て、この状況でシンク君達はどうするのかな~♪」


 リューゲは楽しそうに言うと、木の下に生えてる月光草を引き抜く。


「ほ~ら、キミ達が探してる月光草はここにあるよ~♪取りに来なくていいのか~い?」


 月光草を見せ付けて、俺達を挑発しているようだ。


「シンクどうするブヒ?」

「そんなの決まってるだろ?」


 俺は、みんなに目で合図を送る。

 そしてリューゲに向かって弓を構える。


「この状況で戦うんだ、何か秘策があるのかな?」

「もちろん……逃げるんだよ!!」


 鞄から煙玉を取り出して、地面に投げつけると煙幕が辺りを包み込む。


「みんな、洞窟に向かって走れ!!」


 洞窟に逃げ込めば、キラービーも上空からは襲ってこれないはずだ。


「ふーん、逃げるんだ……でも簡単には逃げれないよ♪」


 上空から俺達に向かって、たくさんの羽音が近づいてくる。

 どうやら、キラービー達が追いかけてきたようだ。


「うわっ、追いかけて来てるじゃん!!」

「今は走るブヒ!!」


 みんなの様子を確認すると、ミントさんが一番逃げ遅れているようだ。

 おそらく装備が重くて、早く走れないのだろう。

 そんなミントさんに、一匹のキラービーが近づいてくる。


「お、追いつかれちゃう!!」


 俺はマルチウェポンを槍に変形させると、ミントさんの側に近づき、キラービーをなぎ払う。


「あ、ありがとうございます」

「いいから今は走れ!!」


 パーティーの最後尾につき、俺は小型爆弾や煙玉をなげてキラービーを妨害する。

 そうやって逃げてるうちに洞窟の入り口が近づいてくる。


「もうすぐ洞窟ブヒ」


 すると洞窟の入り口から、黒いキラービーが待ち構えたように現れる。


「あれは!?」


 冒険者ギルドの依頼で、森に来た時に俺達を襲ったやつだ。

 シオンはコイツに怪我をさせられたと言っていた、どうやら治癒魔法では回復できない攻撃をしてくるようだが……。


「こんなやつ、オレがぶった斬ってやるブヒ!!」


 アーリアは剣を握り締め、黒いキラービーに向かっていく。


「アーリア、気をつけろ!!そいつはシオンに怪我をさせたやつだ!!」

「あの時、言ってたやつブヒか……だったらなおさら、ぶった斬るブヒ!!」


 黒いキラービーはアーリアに向かって、尻尾の針を矢の用に飛ばしてくる。

 やはり普通のキラービーとは違うようだ。


「そんな攻撃当たらないブヒッ!!」


 アーリアは、黒いキラービーの飛んできた針を、体を反らして回避する。

 そして勢いよく黒いキラービーの体を斬りつける。


「これでどうブヒ!!」


 しかし、斬られたはずの黒いキラービーの傷口が、あっという間に塞がっていく。


「ど、どういう事ブヒ!?」


 この黒いキラービーは、普通では考えられないほどの凄まじい再生能力を持っているようだ。


「ちょっ、こいつらなんなのよ!?」


 カティアさんの方を振り向くと、二匹の黒いキラービーに襲われていた。

 どうやら黒いキラービーは、一匹だけではなかったようだ。


「カティアさん!!」


 俺は、急いでカティアさんを助けに向かう。

 すると、アーリアと戦っていた黒いキラービーが俺に向けて針を飛ばしてくる。


「くっ!!」


 マルチウェポンを瞬時にハンマーに変形させて、その針を防ぐ。

 無意識だったせいなのか、今までにない速度でマルチウェポンが変形していた。

 だが、今はそんなことを気にしている暇は無い。


「カティアちゃん、危ない!!」


 黒いキラービーの放った針が、カティアさんの腕に突き刺さり、さらにもう一匹の黒いキラービーの飛ばした針が背中に刺さった。


「くっ!!このくらいでっ!!」


 カティアさんは苦しそうに顔を歪めながら、自分の周りに黄色い錬金飴をばら撒く。

 するとカティアさんの周りに雷撃が発生し、二匹のキラービーは黒こげになる。


「はぁはぁ……ちょっと無理したかも」


 そう言うと、カティアさんはその場に倒れてしまう。

 俺はすぐにカティアさんに駆け寄ると、刺さっていたキラービーの針を抜き、その体を抱き上げる。


「ごめんね、シンク君……足引っ張っちゃって……」

「気にするな、さっさとここから逃げるぞ」


 俺はカティアさんを抱えたまま、洞窟の入り口に向かう。

 後ろにはキラービーの大群がいる、もう考えてる暇はない。


「みんな強行突破だ、そのまま洞窟に逃げ込め!!」

「わかったブヒ!!」

「はい!!」


 残った一匹の黒いキラービーが、俺達の進行を邪魔しようと立ちはだかる。


「アーリア、羽を狙ってくれ!!」

「わかったブヒ!!」


 アーリアは素早い動きで、黒いキラービーの羽を切り落とすと地面に落下した。

 すぐに羽が再生を始めるが、その間に俺達は洞窟の中へと逃げ込む。

 そして後ろから大群のキラービー達が迫ってくる。


「まだ追ってきてるブヒ!!」

「ミントさん、カティアさんを頼む」

「は、はい!!」


 俺は、カティアさんをミントさんに渡すと、マルチウェポンを弓の状態に変形させる。

 そして小型爆弾が先についた矢を、少し離れた洞窟の入り口の天井目掛けて三回放つ。

 すると、爆音と共に天井が崩れ落ちて、洞窟の入り口が塞がれる。

 入り口が塞がれたため、洞窟内が真っ暗になる。


「ミントさん、明かりを頼む」

「はい……『サーチライト』」


 ミントさんが魔法を発動すると光の球体が現れて、洞窟内を明るく照らす。


「アーリアは、洞窟内にキラービーがいないか警戒してくれ」

「わかったブヒ」


 入り口は破壊したが、洞窟内に入り込んだキラービーがいるかもしれない。


「シンクさん、カティアちゃんを早く治療しないと!!」

「わかってる……カティアさん、自分で動けるか?」

「ごめん、ちょっと無理……なんだか体が熱くて変なの」


 もしかしたら、黒いキラービーの針には毒があったのかもしれない。

 まずは怪我を調べてみよう。

 確か、腕と背中に怪我をしていたはずだ。


「ミントさんは、治療は得意なのか?」

「どちらかというと治療してもらう方です……」


 どうやら俺が治療した方が良さそうだ。


「それじゃあ俺が治療するから、手伝ってくれ」

「わかりました」


 腕の怪我を確認すると、キラービーの針を刺された場所から血が出ていたが、酷い傷ではないようだ。

 腕の怪我を手早く治療し、背中の怪我の確認に移る。


「治療するから、服を脱がすぞ」

「そ、それじゃあ私が脱がします!!」


 ミントさんは、俺の視界を遮るようにして前に出ると、カティアさんの服を脱がし、背中を向けさせる。


「はい、どうぞ」


 どうやら俺に、前の方を見せるつもりはないらしい。

 まあそうしてもらった方が、こっちも治療に専念できる。

 他の部分は、なるべく見ないようにして、背中の傷を確認する。

 血は出ているが、背中の傷も、そんなに酷くはないようだ。

 おそらく、カティアさんが動けないのは毒のせいだろう。


「俺は背中の治療をするから、ミントさんはカティアさんに解毒薬を飲ませてくれ」

「はい、解毒薬ですね」


 俺はカティアさんの背中の傷を治療し、その間にミントさんは解毒薬を飲ませる。

 シオンの時も怪我の治療をして、解毒薬を飲ませたし、たぶんこれで大丈夫だろう。

 そう思った時だった……。


「はぁはぁ、体が熱くて……痛い!!体が壊れる!!」


 急にカティアさんが苦しみ出した。


「カティアちゃん、どうしたの!?」

「解毒薬は飲ませたはずだぞ……まさか効いてないのか!?」


 カティアさんの体から、ゴキゴキとまるで骨がぶつかり合うような音が聞こえてくる。

 すると、カティアさんの肩幅が広がり、細くて女らしい腕が筋肉がついて太くなっていく。


「ど、どうなってるんだこれ!?」


 何が起きてるのか、まったくわからない。


「カ、カティアちゃんの体が……」


 ミントさんは、信じられないモノでも見たような顔をして尻餅をつく。

 俺はカティアさんの体を振り向かせて、こちらを向かせる。

 するとそこに現れたのは、膨らんだ柔らかい胸……ではなく厚い胸板だった。


「ど、どういうことだ……」


 まるで意味がわからないぞ、カティアさんは男だったのか?

 いや、そんなはずは無い……確かにさっきまでカティアさんは女だったはずだ。


「あ、アタシの体いったいどうなって……えっ?」


 カティアさんは、自分の体の違和感に気づいたようだ。

 自分の体を触って確認すると、慌てた様子で立ち上がり、鞄から手鏡を取り出す。

 どうやら体は動けるように、なったようだが……。


「な、何よこれ!?アタシの体が……男みたいになってるじゃない!?」


 顔や声はそのままだが、カティアさんの体は筋肉質な男性の体になっていた。


「いったい何がどうなって……」

「シンク、洞窟の奥から嫌な気配がするブヒ!!」


 アーリアに言われて、俺は洞窟の奥に視線を向ける。

 そこには、仮面を着けた道化師……リューゲが立っていた。


「にひひ、どうやら呪いが発動したようだね♪」

「おまえ、どうやってここに!?」


 入り口は完全に塞がっている、反対側の入り口から来たとしても、こんな短時間での移動は不可能だ。


「転移魔法を使えば、このくらいどうってことないよ」


 確かに転移魔法なら、移動することも可能だろう。

 だが、転移魔法は失われた古代魔法だ、そんな簡単に使える魔法じゃない。


「リューゲ、おまえはいったい……」

「そんなことよりさ、キラービーの呪いの針の効果はすごいでしょ?どんな美少女だって男にしちゃうんだよ、マジでやばいよねー♪」


 カティアさんが男になったのは、やっぱり黒いキラービーが原因のようだ。


「ふざけないで!!カティアちゃんに、こんなことして……絶対に許さない!!」


 ミントさんは、怒りで体を震わせながら叫ぶ。


「うるさいなー、別にボクがやった訳じゃないし……これは『彼ら』の意志だよ」


 その時、洞窟の奥から羽音が聞こえてくる。


「まさか……」

「『彼ら』も転移魔法で呼び寄せてあげたんだ」


 そして、暗闇の中から三匹の黒いキラービーが姿を現す。


「いったいなんなんだ、その黒いキラービーは!?」

「『彼ら』はキミ達と同じ人間だよ……いや人間だったというべきかな」


 それって、まさか……。


「その黒いキラービー達が、人間だったっていうのか?」


 普通に考えたら、そんなことはありえない……だけど、あの黒い槍と同じような力をリューゲが持っているとしたら?


「女にすべてを奪われた男、綺麗な女に好きな男を取られた醜い女、好きな男を女に取られた男……みんな女を憎んでいた、だからボクが復讐する力を与えてあげたのさ」

「それが、キラービーの姿だって言うのか?」

「そうだよ、『彼ら』は人間から、女への憎しみだけしか考えられない不死身のキラービーへと生まれ変わったのさ……そしてその憎しみは、呪いの針を生み出す力になる」


 人間をモンスターに変える魔法……禁忌魔法の中にそんな魔法があると、聞いたことがある。


「その呪いの針っていうのが、カティアさんの体を変化させた原因か?」


 カティアさんが男の体になったのは、どう考えても黒いキラービーの針に刺されたからだ。


「そうさ、彼らの憎しみが呪いとなって、女性の体を男性へと変える……おもしろいだろ?」


 ふざけている……今すぐにでもこの道化師を殴り飛ばしたい。

 だが、まだリューゲの目的がわかっていない。


「なんて人なの、このっ……」


 俺は斬りかかろうとする、ミントさんの腕を押さえる。


「待ってくれ、まだコイツには聞きたいことがある……そんなことをして、おまえにいったい何の意味があるんだ?」


 いったいリューゲは、何を考えてこんな事をしているんだろう?


「実験するためさ……そうだ!!このキラービー達を量産して街に放ってみるのもおもしろそうだね♪」


 リューゲは軽い感じで、そんな事を言いだす。

 もし本当にそんなことになれば、街は大混乱になる。


「あっ、もう一つ理由があったよ♪ほら、シンク君のクラスメイトの彼女……いや彼を見てごらんよ」


 カティアさんの方を見ると、自分に起こった事を信じられず呆然としていた。


「カティア君、キミはこれから一生男として生きていくんだ、好きだった男には嫌われ、友達もみんなキミから離れていく……ほ~ら、想像してごらん♪」

「一生男……嫌……そんなの嫌!!これは夢よ!!だってせっかく彼と仲良くなれたのに!!そんなの……そんなのってあんまりよ!!」


 カティアさんは、膝をつくとその場で泣き崩れる。


「にひひ、堪らないね~その顔♪こうやって絶望する人間の顔を見るのが目的の一つでもあるのさ♪」


 俺は、さっきミントさんを止めたことを後悔した。

 コイツの目的なんてどうだっていい……この道化師は、存在するだけで人を不幸にする。


「すまないミントさん、コイツはさっき黙らせておくべきだった」

「それなら、今からでも叩き潰しましょう」

「オレもやるブヒ!!」


 俺達3人は、武器を構える。


「穏やかじゃないね~♪こっちは不死身のキラービーが3匹もいるんだよ、キミ達が勝てるわけないじゃないか~♪」

「黙ってください」


 突然、声がしたと思ったら、リューゲの体が吹き飛ばされる。


「ぐひっ!!」


 吹き飛ばされたリューゲは、洞窟の壁に激突して倒れた。

 リューゲがいた場所に視線を向けると、そこには大きなハンマーを持ったシオンが立っていた。


「みなさん、助けにきました」

「シ、シオン様がなんでここに!?」


 ミントさんはシオンを見て、物凄く驚いた顔をしていた。


「助けに来たって……試験はどうしたんだんよ!?」


 シオンの試験の場所は、俺達とは反対方向の『アリアドリ北の洞窟』だったはずだ。


「試験は、彼に任せてあります」


 シオンのパートナー、剣聖の息子に任せてきたようだ。

 その実力が本物なら、試験も一人で合格できるだろうけど……。


「だからって、自分の試験を投げ出すなんて……」


 助けに来てくれたことは嬉しいが、俺のためだとしても、それはやりすぎな気がする。


「シンク様をお助けするのが、わたくしの巫女としての使命ですから」


 シオンはにっこりと微笑む。

 それは今朝見た笑顔と同じで、なんとなく違和感を感じる。


「な~に言ってるんだか、キミはもう巫女じゃないだろ?」


 そう言って、リューゲは何事も無かったように立ち上がる。


「だって、キミは男なんだからさ」


 そうだった……シオンも、この森で黒いキラービーの針に刺されているんだ。

 シオンの見た目は、今までとほとんど変わっていないが、よく見ると胸に違和感がある。

 おそらく胸にパッドを入れているのだろう。

 カティアさんほど体が変化していないのは、刺された箇所が一箇所だけだったからなのかもしれない。


「キミにはもう女神の声は聞こえないはずだ、だから教団からも追放されたんだろ?」

「本当なのか、シオン!?」


 だとしたら、巫女のシオンにとって大問題じゃないか!?


「はい……ですが、わたくしはシンク様をお助けします」


 なぜシオンは、そこまでして俺を助けようとするのだろう?


「にひひ、キミは女神の声を聞くだけのただの人形だもんな、もう女神の声が聞こえないなら最期に聞いた声の通りに動くしかない……だけどそれは本当に女神の意志かな?」

「そ、それは……」


 リューゲの言葉にシオンが俯く。


「今の女神の考えは変わっているかもしれないよ?だとしたらキミのやってる事は無駄……いや女神にとっては迷惑かもしれないね」

「わたくしは無駄……わたくしは迷惑……」


 シオンの瞳から、光が消えていく……。


「ほら、自分の意志では動けない、女神の声がないと動けない……今のキミは誰からも必要とされない、女神の声が聞こえない壊れた人形……ただのガラクタだよ♪」


 気づいたら、俺はリューゲに向かって矢を放っていた。

 リューゲは、飛んできたその矢を素手で掴む。


「おっと、いきなり何をするんだい?」

「黙れよ……シオンはガラクタなんかじゃない!!人形でもない!!俺はそれを知っている!!」


 シオンを見ていたら、叫ばずにはいられなかった。


「何を言って」

「黙れって言ったろ」


 リューゲの話を遮るように、もう一度矢を放つ。

 その矢は、リューゲの右肩に突き刺さった。


「おまえの理屈なんてどうだっていいんだよ!!他の誰がどう思うと、俺はシオンを必要としてるんだ!!俺にとってシオンは、ガラクタや人形じゃない……人間だ!!」


 シオンは、自分の試験を放り投げてまで、俺達を助けに来てくれた。

 それは女神の声の指示に従った行動なのかもしれない、でもそれだけじゃないと俺は思っている。


「シンク様……」

「シオンがいたから、俺もアーリアも強くなれたんだ、そしてこれからも俺達は強くなる……シオンと一緒に!!」


 シオンの特訓が無かったら、俺達はキラービーから逃げ切れず死んでいただろう。

 俺にとって、シオンはもう大事な仲間なんだ。


「そうブヒ!!シオンはもう俺達の仲間ブヒ!!変態仮面野郎が勝手な事ばっかり言うなブヒ!!」

「そうよ、男になっても巫女じゃなくなっても、シオン様は私のアイドルなんだから!!にわかが勝手なこと言わないで!!」


 一人ちょっとおかしいのがいるが、二人ともシオンのために怒っているようだ。


「ミントは、女神教徒でシオンさんのファンなのよ……」


 カティアさんが俺の隣にやってくる。


「カティアさん、もう大丈夫なのか?」

「全然大丈夫じゃない、でもシンク君の叫びを聞いてたら……アタシでも、受け入れてもらえるのかなって思えてきたから」


 いったい、どういうことだろう?


「シンク君は、アタシが男になっても……友達でいてくれる?」


 こうやって聞いてくるって事は、カティアさんは俺を友達だと思ってくれているようだ。

 話しかけてきたきっかけが嘘の噂だったとしても、クラスでぼっちな俺としては、素直に嬉しい。


「性別なんて友達になるのに関係ないだろ」

「そっか……ありがとう」


 カティアさんは少しだけ口元を緩めると、自分の目元を拭った。

 すると、ミントさんが勢いよくカティアさんに抱きついた。


「私だって、カティアちゃんが男になっても友達だよ!!あんなやつの言うことなんか気にしちゃダメだからね!!」

「うん、ミントもありがと」


 その時、パチパチと拍手の音が聞こえてくる。

 拍手をしていたのは、リューゲだった。


「はいはい、めでたしめでたし……それじゃあ友情ごっこはもう終わりでいいでしょ?キミ達つまんないから、もう死んでいいや」


 リューゲが指をパチンと鳴らすと、黒いキラービー達が襲い掛かってくる。


「来るぞ、みんな!!」

「やってやるブヒ!!」

「はい、ぶっ潰します!!」

「アタシを、こんな体にしたこと後悔させてあげるわ!!」


 俺達は、武器を構えて黒いキラービー達を迎え撃つ。

 元が人間だとしても、シオンやカティアさんを酷い目に合わせた原因を、このままにしておくつもりはない。


「わたくしも戦います」


 ハンマーを持ったシオンが前に出る。


「シオン、大丈夫なのか?」

「シンク様は、わたくしを必要だと言ってくれました……それだけで、わたくしは戦えます」


 シオンの瞳には、光が戻っていた。

 その光は、前よりも輝いているような気がする。


「わかった、前衛を頼む」

「はい、お任せください」


 アーリアは素早い動きで黒いキラービー達をかく乱し、シオンが強力な一撃でダウンさせる。

 ミントさんは守りに徹して、後衛に攻撃が向いてもすぐにガードして防ぎ、カティアさんは錬金飴を使って後衛からサポートする。

 俺は中衛で、マルチウェポンを切り替えながら臨機応変に戦う。

 そうやって、黒いキラービー達に確実にダメージを与えているのだが、一向に倒れる気配がない。

 それどころか、何度倒してもすぐに再生して復活してしまう。


「にひひ、キミ達がどんなに粘ろうと、不死身のキラービー達を殺すことはできないよ♪」


 悔しいがリューゲの言うとおり、斬っても、潰しても、燃やしても、凍らせても、キラービーはすぐに再生してしまう。

 おそらく、一撃でキラービーを消滅させるくらいの威力が高い攻撃じゃないと倒せないだろう。

 だが、そんな攻撃方法を持ってる人が、このパーティーに……。


「シンク様、わたくしが超級魔法で吹き飛ばします」


 シオンが突然そんな事を言い出す。


「シオンは超級魔法が使えるのか!?」


 超級魔法というのは、下級、中級、上級と続く、さらにもう一つ上の位の魔法だ。

 その危険性は、禁忌魔法に匹敵すると言われている。


「はい、超級の光属性魔法が使えます……ただし発動に時間がかかりますし、魔力を大量に消費するので一度しか使えません」


 確かに超級魔法なら、黒いキラービー達を跡形もなく消滅させられるだろう。


「わかった、シオンに任せる……みんなもそれでいいか?」

「シオンを信じるブヒ」

「もちろんです、シオン様の魔法でやっちゃってください!!」

「いいんじゃない、やってみよー」


 みんなシオンの案に賛成のようだ。


「それじゃあ、シオン頼む」

「はい、みなさんの期待に応えてみせます」


 シオンが、目を閉じると体中に魔方陣のような模様が浮かび上がる。


「これはいったい……」

「シンク、キラービーがシオンを狙ってるブヒ!!」


 あの模様が何かはわからないが、今は考えてる暇はなさそうだ。


「にひひ、超級魔法なんて使わせないよ♪」


 三匹の黒いキラービー達が、一斉にシオンに向かって飛んでくる。


「みんなシオンを守れ!!」


 俺とアーリアとミントさんで黒いキラービーを一匹ずつ相手をして、後衛からカティアさんにサポートしてもらう。

 この洞窟は一本道で、そこまで幅が広くない。

 俺達が突破されない限り、回り込まれてシオンが攻撃される心配もないはずだ。

 そう思っていると、洞窟の置くから大量の羽音が響いて聞こえてくる。


「おっ、やっと来たね~♪」

「この音はまさか……!?」


 洞窟の奥から現れたのは、100匹以上のキラービーの大群だった。

 どうやら反対側の入り口から入ってきたようだ。


「ど、どうしますか?」


 どう考えても、俺達でどうこうできる数じゃない。

 逃げようにも、後ろの出口は、崩れた天井の岩で塞がってしまっている。


「ギリギリまで、シオンを守る」


 今は、それしか思いつかない。


「さあキミ達の絶望した顔を見せてくれよ~♪」


 キラービーの大群が、すぐそこまで迫ってくる。


「あきらめないブヒ!!シンクを……シオンを……みんなを守るブヒ!!」


 アーリアの剣が、突然白く輝き出す。

 すると、その光を浴びたキラービー達の動きが止まる。


「あれはっ!?」


 もしかして、危機的な状況に陥ったことで、アーリアの姫騎士の力が覚醒したのか?

 その時、後ろからシオンの声がした。


「みなさん『光の柱』を発動します、伏せてください」


 俺達は、言われたとおりに地面に伏せる。

 どうやら、間に合ったようだ。


「頼んだぞ、シオン!!」


 シオンが手をかざすと巨大な光の柱が現れて、洞窟の天井を消滅させて巨大な穴を空ける。

 そして、シオンがゆっくり手を下ろすと、光の柱も一緒に倒れていく。

 光の柱は洞窟の天井も壁も、触れる物すべてを消滅させていく……そして黒いキラービー達と一緒にキラービーの大群も消滅させた。


「す、すごい……」


 その圧倒的な威力に思わず、声が出てしまう。

 光の柱が消えると、シオンより前方にあった洞窟の天井と壁が、ほとんど消滅していた。

 辺りにキラービーの姿は一匹も見当たらず、リューゲの姿もどこにも見当たらなかった。


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