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第16話「三回目の試験」

 俺達は、あれから毎日のように冒険者ギルドで依頼を受けていた。

 シオンが言うには……。


「短期間で強くなるなら、お二人の場合は実戦あるのみです」


 ということらしい。

 依頼を受けるたびに、シオンは俺のマルチウェポンの形態を指定してきた。

 キラーウルフを槍だけで倒したり、キラークラブをハンマーだけで倒したり、キラーバットを弓だけで倒したり……。

 関係ないが、モンスターに名前を付けた人は、とりあえずキラーを付けておけばいいと思ってそうだ。

 それはともかく、実戦を繰り返すうちにマルチウェポンの各形態の扱い方が大分わかってきた。

 アーリアも、前より周りを気にして戦うようになり、俺とも連係が取れるようになってきた。

 ただ、キラービーを倒した時のような本気の力は、意識して出すことはできないみたいだ。


「おそらく、シンク様が危険になることが、アーリアさんが本気を出す条件なんだと思います」


 なんてシオンは言っていたが……だからって、自分から危険になるような事はしたくない。

 まあ特訓を続けていけば、アーリアもそのうち自分の意志で本気を出せるようになるだろう。

 シオンのおかげで、特訓は順調に進んでいる。

 だが、特訓とは別に気になることがあった。

 それは、シオンがキラービーの依頼を受けた次の日から、少し様子がおかしいのだ。

 会話は普通にしてくれるのだが、俺が近づくと不自然に離れて距離を取るのだ。

 おそらくあの日、俺が無理矢理治療したのが原因なんだと思う。

 毎日特訓を手伝ってくれてるから、本気で嫌われてる訳ではないと思うのだが……。





 アルクラン暦1101年 7月。


 そして、三回目の試験の日がやってきた。

 試験の内容は、『ダンジョン探索』だ。

 それぞれのコンビが、街の外の指定されたダンジョンへ行き、指定された条件を達成することで合格になるようだ。

 なお今回は、同じタンジョンを指定されたコンビ同士でパーティーを組む事ができ、4人でダンジョンを探索することが可能だ。

 ちなみに、どこのタンジョンに行くかは、当日に渡される地図に書いてあるので、前もって同じタンジョンに行く生徒を探す事はできない。


「それで、オレ達はどこのタンジョンに行くブヒ?」

「ちょっと待てよ……」


 俺は、担任のビヒタス先生から貰った地図を開く。

 すると、街の南にある森の部分にマルが付けられていた。

 そこは以前、キラービーの集団に襲われた森だ。


「ここって、キラービーがたくさんいた所ブヒ」


 アーリアも、地図を見て気づいたようだ。


「他にも文字が書いてあるな……『アリアドリ南の森』の奥にある『月光草』を入手せよ 期限(今日中)」


 月光草というのは、夜になると光り輝く草で、錬金術の調合でも使用することがある。


「ようするに、あの森に生えてる『月光草』とかいうのを獲ってくればいいブヒね」

「そういうことだな、問題はあの森のどこに月光草が生えてるかだけど……」


 夜になれば光って見つけやすくなるのだが、夜の森は危険だし試験の期限も今日中なので、暗くなる前に見つけて森を出たい。


「一度、街に寄ってから行こう」

「わかったブヒ」


 街に着いた俺達は、素材屋に向かいアーリアに月光草を見せる。

 まずは月光草の実物を一度見ておかないと、アーリアも探せないだろう。


「これが月光草ブヒ?うーん、なんかその辺の雑草と同じに見えるブヒ」


 アーリアは、店に並べられてる月光草をじっと見つめる。

 月光草は他の雑草とよく似ているため、光っている夜じゃないと見つけにくいのだ。


「ほら、葉の真ん中に薄い線があるだろ?」

「なるほどブヒ、でも近くで見ないと、これはわかりにくいブヒね」


 この試験内容は、場所も近くて、無理に戦闘をする必要もないが、実はかなり厳しい条件なのかもしれない。


「この月光草を買って、提出したらダメブヒ?」

「絶対バレるからやめておけ」


 学院もその辺のことは考えているだろう。

 もしかしたら、この店を監視してるかもしれないし、店から学院に連絡が行くかもしれない。

 どちらにしろ、真面目に試験を受けた方がいい。


「それじゃあ、そろそろ行くぞ」

「他に買い物は必要無いブヒ?」


 ダンジョン探索に必要な物は、事前に準備しておいたので、買う必要は無いだろう。


「大丈夫だ、このまま森まで向かおう」

「了解ブヒ」


 俺達が素材屋を出ると、シオンが歩いているのが目に入る。

 どうやらパートナーはおらず、一人のようだ。


「おーい、シオン」


 俺が声をかけると、シオンはこちらを振り向く。

 その顔は、なんだか元気が無いように見える。


「シンク様にアーリアさん……」


 俺は、シオンの元へと近寄る。

 するとシオンは、少し距離をとって俺から離れた。

 正直、ちょっと傷つく……。


「シオンもこれから試験ブヒ?」

「はい……そうです」


 なんだか、いつもとシオンの様子が違う気がする。


「何かあったのか?」

「何もありませんよ」


 そう言って、シオンはにっこりと微笑む。

 それが逆に違和感を感じさせる。


「パートナーは、どうしたんだ?」


 確かシオンのパートナーは、剣聖の息子だったはずだ。


「今は別行動中です、彼は色々と準備があるそうなので」

「準備ってどんなだ?」

「トイレです」


 まあ剣聖の息子だって、トイレくらい行くよな。


「シオンはどこのダンジョンに行くブヒ?」

「わたくしは、『アリアドリ北の洞窟』です」


 俺達とは、反対方向のようだ。


「俺達は『アリアドリ南の森』だ、キラービーの集団がいた所だな」


 すると、シオンの表情が固まる。


「シオン?」

「なんでもありません」


 シオンは、何事も無かったように、いつも通りの表情を浮かべる。


「お二人とも、あの森にはまだ黒いキラービーがいるかもしれません、見つけたら無理に戦おうとせず、逃げてください」

「ああ、シオンも無理はするなよ」

「シオンも気をつけるブヒ」


 シオンに何かありそうなのは確かだが、今はお互いに試験を受けて合格しなければならない。

 戻ってきた時にでも、詳しく聞いてみよう。


「はい、ありがとうございます……それでは、わたくしは約束があるので、失礼します」


 そう言って、シオンは早足で去っていった。


「シオン、なんかちょっと変だったブヒ」


 どうやら、アーリアもシオンの様子に違和感を感じていたようだ。


「そうだな……だけど今は試験に集中しよう」

「わかったブヒ」

「それじゃあ、俺達も行こう」


 俺達は街の南口から外に出ると、『アリアドリ南の森』を目指して街道を歩き出した。





 しばらく歩き続けて、俺達は森の入り口に到着した。


「誰か他の生徒がいたら、パーティーを組みたいんだけどな」


 月光草を探すなら人が多いほうがいい。


「でも、入り口には誰もいないみたいブヒ」

「そうだな、とりあえず森の中で誰か見かけたら、声をかけてみよう」

「わかったブヒ」


 ビヒタス先生から貰った地図には『アリアドリ南の森』の奥にある『月光草』って書いてあったから、入り口の近くは調べなくてもいいだろう。

 俺達は森の中へと入り、奥へと進んでいく。

 すると、突然アーリアが立ち止まる。


「どうした?」

「なんか奥の方から、音が聞こえてくるブヒ」


 耳を澄ますと、羽音と一緒に何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。

 おそらく、この先で誰かが戦闘をしているのだろう。


「行ってみよう!!」


 俺達は、音のする方に急いで向かう。

 林を抜けて辿り着いた場所は、以前キラービーと戦った、花が咲いている広場のような場所だった。

 そして、同じクラスのカティアさんと、黒髪の騎士っぽい女子生徒が、キラービーの集団と戦っていた。


「ミント、後ろからも来てるわよ!!」

「そ、そんなこと急に言われてもっ!!」


 どうやら苦戦しているようだ。

 キラービーの数は十匹、4人なら十分倒せる数だ。


「加勢するぞ、アーリア!!」

「わかったブヒー!!」


 アーリアは、二人の下に駆け出していく。

 俺は、その間にマルチウェポンを弓の形態に変形させる。


「特訓の成果を見せてやる」


 狙いを定めて矢を放ち、騎士っぽい女子生徒に襲い掛かろうとしていたキラービーを撃ち落とす。


「えっ!?」


 騎士っぽい女子生徒は、突然キラービーが倒れて驚いているようだ。

 俺は続けて、他のキラービーに狙いを定める。


「くらえブヒ!!」


 アーリアは素早い動きで、カティアさんの側にいたキラービー達を、剣で斬り裂いていく。


「あなたは、シンク君のパートナーちゃん!?」

「加勢するから、さっさと倒すブヒ」

「わかったわ!!」


 カティアさんは、鞄から飴玉を取り出すとキラービーに投げつける。

 キラービーに当たって飴玉が割れると、キラービーの体が突然凍り始め、地面に落ちると割れてバラバラになった。

 どうやらあの飴玉は、錬金術で作った道具のようだ。


「わ、私もがんばります!!」


 騎士っぽい女子生徒は、盾でキラービーの攻撃を防ぎながら、もう片方の手に持った剣で、別のキラービーの攻撃を防ぐ。

 動きはあまり早くは無いが、防御が得意なようで、キラービーの攻撃を的確に防いでいる。

 俺は、彼女がキラービーを引き付けている間に、矢で撃ち落していく。


「す、すごい、これならいけそうかも……」


 それから数分後、十匹いたキラービーの死体が地面に転がっていた。


「ふぅ、終わったわねー」

「うん、今のは危なかったね」


 カティアさんと騎士っぽい女子生徒は、気が抜けたのか地面に座り込んでいる。

 俺は、辺りに他のモンスターがいない事を確認してから、二人に近づいて声をかける。


「二人とも大丈夫か?」

「あ、シンク君、助けてくれてありがとねー」


 軽い感じで、カティアさんがお礼を言ってくる。

 すると騎士っぽい女子生徒は、突然立ち上がると俺の方に駆け寄ってくる。


「あ、あの行方不明事件を解決した、シンク・ストレイアさんですよね!?」


 騎士っぽい女子生徒は、近くで見ると美人で、カティアさんとは対照的に真面目そうな感じがする。


「そうだけど……君は?」

「わ、私は、騎士科のミント・ホポテスって言います……お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございました!!あ、後、さっきも助けてくれてありがとうございます!!」


 随分慌てた感じの娘だけど、お姉ちゃんって、いったい誰の事を言ってるんだろう?


「ミントのお姉さんが、行方不明事件の時にシンク君に助けられたらしいわよー」


 カティアさんが、隣に来て説明してくれる。

 もしかしてミントさんの姉って、犯人の家から俺が連れ出した女性の事なのか?

 確か、本屋の店員のシェーナだった気がする。


「私の姉はシェーナって言います、今は魔法病院で入院してますけど、シンクさんに感謝してましたよ!!」


 どうやら間違いないようだ。


「そ、そうか……」


 シェーナを治療したのはソフィーだし、そもそも俺が一人で解決したって噂は嘘なので、感謝の言葉を言われても正直心苦しい。


「本当はもっと早くお礼を言いたかったんですけど、放課後はいつも忙しそうにしていたので……パートナーさんやシオン様と一緒でしたし」


 最近の放課後は、ほとんどアーリアと特訓してたし、途中からシオンも加わって冒険者ギルドの依頼を受けたりしてたから、確かに暇な時間は無かった気がする。


「別に気にしてないし、お姉さんが早くよくなるといいね」


 とりあえず、無難な事を言っておく。


「シンクさんって、すっごく優しいんですね!!」


 ミントさんは、なぜかキラキラした瞳で俺の事を見てくる。

 なんだろう、この娘苦手かも……。


「そ、それより、試験の事を話さないか?二人の試験内容は何だったんだ?」

「私達は、『アリアドリ南の森』の奥にある『月光草』の入手でした」


 二人の試験も俺達と同じ内容のようだ。


「それならオレ達と同じブヒね」


 アーリアがそう言うと、ミントさんはさらに目を輝かせ……。


「でしたら、私達と一緒に行きませんか?シンクさんの壁になりますから!!変わりに殴られますから!!なんでもしますから!!」

「いや、別にそこまでしなくていいから……」


 なんでミントさんは、こんなに必死なんだろう?


「アタシも一緒に行ってくれると助かるなー、またキラービーの集団に襲われても嫌だしさー、パートナーちゃんはどう思う?」


 カティアさんは、そう言ってアーリアの方を向く。


「月光草を探すの面倒そうだから、仲間は多いほうがいいと思うブヒ」

「アタシも面倒だって思ってたんだよねー、うん、じゃあ協力しよっか」

「おまえら、試験なんだから面倒とか言うなよ……」


 確かに、見つけるのは大変そうだけど……。


「それじゃあ、一緒に行くか」


 特に断る理由もないし、人数が多いほうが月光草も見つけやすいだろう。


「シンクさん、ありがとうございます!!」

「じゃあ改めて、自己紹介でもしとく?パートナーちゃんは私達の事よく知らないと思うし」


 カティアさんがそんな提案をしてくる。


「そうだな、パーティーを組むなら、お互いにどんな武器や特技を使うのか話しておこう」


 パーティーメンバーの能力がわかっていれば、作戦も考えやすくなるはずだ。


「それじゃあ、アタシからするわね……アタシはカティア・ルルコンプ、魔法科の錬金術師で、錬金飴で攻撃したりしまーす、あと下級の水属性魔法なら使えるって感じかなー」


 さっきのキラービーとの戦闘で、カティアさんが使ってたのは、錬金飴というらしい。

 とりあえず、下級の水属性魔法を使えることは憶えておこう。


「わ、私は、ミント・ホポテスです、騎士科です、まだまだ未熟ですが騎士を目指していて、武器は片手剣と盾を使います、魔法は下級の光属性魔法が使える程度です」


 ミントさんは、さっきの戦いでも思ったけど、守りが得意な騎士のようだ。

 光属性魔法は、下級でも暗闇で役に立つはずだ。


「オレは、アーリア・セルティンブヒ、特科クラスブヒ、武器は剣ブヒ、魔法は使えないブヒ、あとシンクのパートナーブヒ」


 アーリアに関しては……まあ別にいいか。


「特科クラスってことは……あっ、すみません」


 ミントさんは、特科クラスのアーリアを『精神汚染者』だと思ったのだろう。


「ほら、次はシンク君の番よー」

「お、おう……俺はシンク・ストレイアだ、魔法科の錬金術師で、小型爆弾とかホールドトラップとかを使う、武器はマルチウェポンっていう魔導機だ、錬金術以外の魔法は使えない」


 みんなの真似をしてみたが、こんな感じで大丈夫だろうか?


「まるちうぇぽんって何?」


 カティアさんが不思議そうな顔で聞いてきたので、手に持っていたマルチウェポンを弓から槍に変形させる。


「これがそうだ」

「すごい!!これ魔導機なんですか!?」

「へぇ、変わった弓だと思ってたけど、変形するんだー、すごいじゃん!!」


 二人は珍しそうに、マルチウェポンを見ている。

 俺も初めて見た時は驚いたし、やはり聖王国では魔導機の武器は珍しいのだろう。


「それじゃあ、パーティーの前衛はアーリアとミントさん、後衛は俺とカティアさんで、状況によっては俺も前衛に入るって感じでいいか?」


 職業にすると、剣士、騎士、錬金術師二人というパーティーだ。

 治癒魔法が使える人がいないのが少し不安だが、そこは薬で補おう。


「攻撃はオレに任せるブヒ!!」

「わかりました、壁役は私にお任せください!!」

「まあ、いーんじゃない?アタシは適当にサポートするよ」


 これでパーティーの基本的な役割は決まった。

 今回は素材の入手が目的だし、即席のパーティーならこんなものでいいだろう。


「じゃあ、そろそろ奥に進むか」

「あ、私が先頭を進みますね」


 先頭は、一番防御力が高そうな前衛のミントさんに任せた方がいいか。


「それならアーリアはミントさんの後ろに並んで、何かあったらサポートしてやってくれ」

「わかったブヒ」

「カティアさんは、一番後ろを頼む」

「おーけー」


 ミントさん、アーリア、俺、カティアさんという並びで進むことになった。


「では、行きましょう」


 ミントさんの後ろに続いて、俺達は森の中を進んでいく。


「それにしても、あんなにたくさんキラービーがいるなんて、聞いてないよねー」

「うん、そうだね……いきなり襲われたからびっくりしたよ」


 ミントさんは、カティアさんと話すときは敬語では無くなるようだ。

 二人はパートナーだし、きっと仲がいいのだろう。


「オレ達も前に来た時に、襲われたブヒ」

「えっ、そうなの?この森、街の近くにあるくせに危険じゃん」

「それじゃあ、羽音には気をつけた方がいいですね」

「月光草を探しつつ、辺りを警戒しながら進もう」


 それから三十分くらい歩き続けたが、月光草はどこにも生えていなかった。


「うーん、なかなか見つからないブヒね」

「そうねー、夜になれば見つけやすくなるんだけど、それまで待ってられないしね」


 やはり、そう簡単に見つかるような場所には生えていないようだ。


「あっ、あそこにあるのって、洞窟じゃないですか?」


 先頭のミントさんが指を差した方を見ると、草木に隠れて洞窟の入り口があった。


「とりあえず入ってみる?」

「シンクさん、どうしますか?」


 月光草は、基本的に日光の当たる場所じゃないと生えていないはずだ。

 だが、洞窟の中でも天井に穴や隙間があると、そこから日が差し込むので、生えている事も稀にあるらしい。


「そうだな、入ってみるか」


 学院の試験だから、簡単に見つかる場所には生えていないはずだ。

 それなら確立の低い場所をあえて探してみるのもいいだろう。

 まだ時間はあるし、そのくらいの余裕はある。


「怪しいから、行ってみるブヒ」


 俺達は、草むらを掻き分け洞窟の前まで移動する。

 洞窟の中を覗くと真っ暗で、進むには明かりが必要そうだ。


「えっと、私が光属性魔法で明かりをつけますね」

「ああ、頼む」

「『サーチライト』」


 ミントさんが魔法を発動すると、手のひらに光りの球体が現れる。

 光りの球体は浮き上がると、暗い洞窟の中を明るく照らし出す。

 

「便利な魔法ブヒね」

「こういう魔法は探索では、かなり役に立つな」


 明かりの無い洞窟などでは、重宝する魔法だろう。

 俺達は、ミントさんの後に続き洞窟の中に入る。

 洞窟はずっと一本道で、モンスターがいる気配もない。


「特に何もないねー」

「もう少し進んでみよう」


 しばらく洞窟の中を歩くと、奥の方に明かりが見えてきた。


「この洞窟はどこかに繋がってるみたいですね」

「ああ、行ってみよう」


 洞窟を抜けると、そこは林に囲まれた広場になっており、一本の巨大な木が生えていた。


「ここは……」

「あの木の下に生えてるのって、月光草じゃない?」


 巨大な木の下には、月光草によく似た草が生えていた。


「確かに、素材屋で見た草と似てる気がするブヒ」

「調べてみよう」


 俺達が、巨大な木に近づくと……。


「みなさん、こんにちは~♪」


 突然木の上から、派手な道化師の衣装を来た人物が、おどけた感じで降りてくる。

 舞踏会用の仮面を着けて素顔を隠しており、あきらかに怪しい。

 衣装のせいか、体型を見ても男か女かよくわからない感じだ。


「な、なんですか、あなたは!?」

「ボクは、見ての通り道化師だけど?」

「こんな所に道化師とか、ちょー怪しいんですけどー」


 旅芸人だったとしても、こんな森の奥にいるなんて普通はありえない。


「みんな気をつけるブヒ、コイツすごく嫌な感じがするブヒ!!」


 アーリアは鞘から剣を抜くと、道化師を警戒して構える。


「おやおや、随分攻撃的だね……せっかくお話しようと思ったのにさ~、にひひ♪」


 仮面で隠れていて表情はわからないが、明らかにふざけている感じがする。


「だったら名前くらい名乗ったらどうだ」


 俺はマルチウェポンを弓に変形させると、いつでも射る事ができる状態にする。


「名前か、そうだね……『リューゲ』とでも名乗っておくよ、シンク・ストレイア君」

「なんで、俺の名前を……」


 この道化師いったい何者なんだ……。


「行方不明事件の解決ご苦労様♪あの男にもそろそろ飽きてた所だったからさ~処分してくれて助かったよ♪」


 そういえば異形の顔をした男は、道化師から黒い槍を手に入れたと話していた気がする。


「あの男に黒い槍を渡したのはおまえか?」

「そうだよ」


 リューゲは、あっさりとそう答えた。


「いったい、おまえの目的はなんだ?」

「ボクは、ただ願いを叶えているだけさ……彼らの歪んだ願いをね」


 その時、木の上からブーンという羽音が聞こえてくる。


「この羽音は、キラービーですか!?」


 羽音の数は、どんどん増えて大きくなっていく。


「な、なによこれ……ちょっとやばいんじゃない?」


 頭上を見上げると、木の上にはキラービーの巨大な巣があり、百匹以上の大群がいた。


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