第12話「事件後の日常」(挿し絵あり)
行方不明事件が解決してから、十日が過ぎていた。
事件はなぜか俺がほとんど一人で解決した事になっており、学院にもその噂が広まっていた。
そのおかげなのか、クラスの女子生徒が俺に話しかけてくるようになった。
「シンク君、おはよ~」
「お、おはよう……」
簡単な挨拶程度だが、クラスでぼっちだった俺にとってそれは結構な変化だった。
だけど、そのきっかけになった噂は嘘なのだ、
犯人を倒したのはソフィーだし、カリンやシェーナを治療したのもソフィーだ。
だからこそ、この状態を素直に受け入れられないでいた。
「もう本当の事、話そうかな……」
「それは、いろいろと面倒な事になるからやめておけ」
声のした方を振り向くと、ソフィーが立っていた。
「ソフィーが俺のクラスに来るなんて、いったいどうしたんだ?」
ソフィーの方から、俺に会いに来るなんて珍しい事もあるものだ。
「昼休み、話があるから屋上に来い」
「えっ?」
「どこにも寄らず、すぐに来るのだぞ」
それだけ言って、ソフィーはすぐに教室を出て行ってしまった。
どんな用事があるのかわからないが、とりあえず昼休みになったら屋上に行ってみよう。
「もしかしてあの娘って、シンク君の彼女?」
さっき挨拶してきた女子生徒が、突然話しかけてくる。
顔はかわいいのだが、チャラチャラしたギャルっぽい見た目で、どうにも俺の苦手な感じだ。
ちなみに胸は、結構大きい。
「いや、友達だけど」
ソフィーがどう思ってるのかはわからないが、こう答えておくのが無難だろう。
「それじゃあ、やっぱり放課後に一緒にいるあの娘が彼女なのね?」
「いや、彼女じゃないけど」
たぶんアーリアのことだろう。
「じゃあ今はいなくて、現在彼女募集中って事なのね?」
「いないけど、募集中ではない」
女子というのは、他人の恋人がそんなに気になるものなんだろうか?
「意外に硬派なんだね~」
「そんな事より、そろそろ授業が始まるから、早く自分の席に戻ったほうがいいぞ」
俺がそう言うと、教室の扉から担任のビヒタス先生が入ってくる。
「あっ、本当だね、それじゃね♪」
そう言って女子生徒は、自分の席に戻っていった。
そういえば、あの女子生徒の名前なんだっけ?
しばらくクラスでぼっちだったせいで、クラスメイトの名前を憶えてない事に気づいてしまった。
また話しかけられるかもしれないし、今度調べて憶えておこう。
昼休み、ソフィーに言われた通りどこにも寄らず、屋上に向かう。
やっぱり購買でパンくらい買っておいた方が良かっただろうか?
「まあ金も無いし、話が終わってから余り物の安いパン買えばいいか」
この間の事件の時に、弁当屋で高い弁当を買ったせいで、今は節約中なのだ。
そんな事を考えている間に、屋上に着いてしまう。
今日は晴れてて天気もいいせいか、屋上では弁当を食べている生徒達が何人かいた。
その中にピンク色の大きな四角い包みを持った、ツインテールの小柄な女の子……ソフィーが立っているのを見つける。
「よう、ソフィー」
「ふん、来たか……」
俺は、ソフィーの近くまで移動する。
「待たせちゃったか?」
「気にするな、オレ様も先ほど来たところだ」
どうやらソフィー達のクラスの方が、先に授業が終わったようだ。
「立ち話もなんし、そこの空いてるベンチにでも座るか?」
「うむ、そうだな」
俺とソフィーは、屋上のベンチに並んで腰を下ろす。
「それで話ってなんなんだ?」
「その前に、貴様も昼食はまだだろう?これを喰らうがいい」
すると、ソフィーはピンク色の大きな四角い包みを俺に差し出す。
「これ、もしかして弁当か?」
「そうだ、見るがいい」
ソフィーが包みを取って弁当箱を開くと、綺麗に切られたサンドイッチがたくさん詰められていた。
具の種類がいろいろあって、とても美味しそうだ。
「おお!!これソフィーが作ったのか?」
ソフィーって、実は料理ができたのだろうか?
「そんな訳がなかろう、カリンが作ったのだ」
まあそんな事だろうとは思った。
「いいから、さっさと喰らえ」
「いいのか?」
「カリンが、貴様と一緒に喰らうために作ったのだから問題ない」
確かにこの量は、小柄なソフィー一人には多すぎる気がする。
「それじゃあ、いただきますっと……」
適当にサンドイッチを一つ掴み、口の中に入れる。
「おお、おいしいな!!」
「ふふん、そうだろう……オレ様の弁当はいつもカリンが作っているからな」
ソフィーは自慢げにそう言うと、サンドイッチを掴み口に運んだ。
「そういえば、カリンはもう大丈夫なのか?」
「戦闘さえしなければ、日常生活に支障はない……試験までには完全に回復するだろう」
「そうか、ならよかった」
あれから会ってなかったから、ちょっと心配だったのだ。
「そういえば、結局俺に話しってなんだったんだ?」
ソフィーが、ただ弁当を一緒に食べるために呼んだとは思えない。
「貴様には、まだ錬金箒の褒美を与えていなかっただろ?それにカリンも世話になったようだしな……」
「別に気にしなくてもいいぞ」
正直、箒も成功とは言えない結果だったし、事件も結局ソフィーが解決したようなモノだ。
「そうはいかん、貴様に借りを作ったままには、しておけないのでな」
ソフィーは、意外に律儀なようだ。
「って言われてもな……」
「欲望のままに答えてみろ、貴様の欲望をオレ様の前にさらけ出すのだ!!」
なんか答えたくなくなってきたなぁ……。
ソフィーが絶対やらなさそうな事を言って、あきらめさせるか。
「じゃあソフィーが自分で手料理を作って、さらに俺にあ~んして食べさせてくれ」
プライドの高いソフィーなら、さすがにこんな事はしないだろう。
「な、なん……だと……貴様、正気か!?」
ソフィーは、今まで見せた事の無い驚愕の表情をしている。
ちょっといじわるな事、言い過ぎたかな?
「なんてな、冗談……」
「い、いいだろう!!その願い、オレ様が叶えてやる!!」
俺の言葉を遮るようにして、ソフィーはそう叫ぶ。
「別に無理しなくていいんだぞ?」
「む、無理などしていない!!貴様を必ず後悔させてやろう、楽しみに待っているがいい!!」
後悔させられるのか、俺?
「お、おう、期待してるぞ」
「くっくっく、まかせておくがいい」
そう言って、ソフィーは不敵な笑みを浮かべるのだった。
そして放課後。
教室の扉が開き、アーリアが入ってくる。
「シンクー!!シンクー!!」
行方不明事件が解決してから、アーリアは放課後になると毎日のように俺の教室に来るようになっていた。
おそらく行方不明事件の時に、俺がアーリアを連れて行かなった事をまだ気にしているのだろう。
「今日も特訓するブヒー!!」
「わかったから、まずは外に行くぞ」
クラスメイト達の視線を感じながら、俺は早足で教室を後にする。
それから学院を出て、グラウンドの隅まで移動する。
「今日は何するブヒ?」
ここ最近、俺は自分にあった武器を見つけるため、いろいろな武器を試していた。
この間の行方不明事件で、俺はもっと強くならなければならいと気づかされた。
そのためには、カリンが言っていたように、錬金で作った道具以外の武器を使えるようになろうと思ったのだ。
「うーん、一通り基本的な武器は試してみたんだけどな」
片手剣、槍、斧、短剣、両手剣、鞭、爪……。
いろいろ試してみたが、どれもまったく扱えない訳ではないが、しっくりこない。
やっぱり、俺には武器なんてあってないのかもしれない。
「それじゃあ、他の武器をまた試してみるブヒ?」
「いや、闘技場で貸し出してくれる武器は全部試してみたし、やめておくよ」
学院の闘技場では武器の貸し出しをしており、申請すれば借りることができるのだ。
それ以外の武器を試すとなると、街に買いに行くか、誰かから借りるしかない。
特殊な武器を使う生徒なんて知り合いにいないし、ただでさえ金欠なのに、使えるかもわからない武器を買いに行く気もない。
「錬金の素材も少なくなってきたし、今日は気分転換に裏山で素材集めでもしてくるよ」
武器の扱いもそうだが、錬金術の方も疎かにする訳にはいかない。
「それじゃあオレも一緒に行くブヒ」
「いや、アーリアはそのまま自分の特訓を続けててくれ」
わざわざアーリアを付き合わせるような事じゃない。
「でも……」
アーリアは心配そうな顔で、何か言いたそうにしている。
おそらく、俺がまた一人で無茶するんじゃないかと、心配しているんだろう。
「アーリアとの約束はちゃんと守るからさ、安心してくれ」
そう言って、アーリアの頭を優しく撫でる。
「シンク……わかったブヒ、信じるブヒ」
「ありがとな」
アーリアの気持ちを裏切らないようにしよう。
「それじゃあ行ってくる、アーリアも特訓がんばってな!!」
「まかせろブヒー!!強くなってシンクに頼られるようになってみせるブヒ!!」
やる気を出したアーリアを残して、俺は裏山へと向かった。
裏山に入った俺は、素材になりそうな植物を探して山道を進んでいく。
「俺の武器どうするかな……」
正直、自分に合いそうな武器のイメージが沸いてこない。
今まで試した武器はどれも悪くはなかったが、特に良いと感じるほどでもなかった。
「それにアーリアも、このままじゃいけないよな」
最近、動きがよくなってきたとはいえ今後の事を考えると、やっぱり誰かに剣を教えてもらったほうがいい気がする。
「うーん……」
そんな事を考えながら歩いていると、今まで来たことがない奥の方まで来てしまった。
そこには綺麗な泉があり、辺りには珍しい草花が生えていた。
「へぇ、こんな所があったのか……」
俺が泉に近づくと、突然水中から何かが飛び出してくる。
「な、なんだ!?」
それは、綺麗な薄紫色の髪をした裸の少女だった。
胸は、アーリアよりも小さいけど綺麗な形をしている。
「えっ?」
「……」
少女は黙ったまま、俺の事を見ている。
俺は突然の事に理解できなくて、少女と見つめあったまま黙りこんでしまう。
「ご、ごめん!!」
「あっ……」
正気に戻った俺は、その場から慌てて去ろうとするが、その途中にあった足元の石に気づかず転んでしまう。
「うわぁっ!!」
そして、そのまま坂道を転がり巨大な岩にぶつかる。
「ぐふっ!!」
その衝撃で、俺の意識は遠くなっていった。