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第11話「キミとの約束」

 目を覚ますと、見知らぬ部屋のベットの上だった。

 どうやらあの後すぐに、気を失ってしまったらしい。

 とりあえずベットから起き上がると、脇腹の痛みはすっかり消え、調べてみると傷も無くなっていた。

 おそらく誰かが治癒魔法をかけてくれたのだろう。


「ブヒーブヒー……」


 声のする方を見ると、アーリアが椅子に座って眠っていた。


「なんでアーリアがここにいるんだ?」

「その娘は、ずっと貴様に付いていたようだ……よほど貴様の事が心配だったのだろう」


 部屋の隅にソフィーが立っていた。


「ソフィー、ここはどこなんだ?それにあれからいったいどうなって……」

「説明してやるから落ち着け、ここは街にある魔法病院だ……あの後、警備隊がやってきて、おまえをここまで運んできたのだ」


 それじゃあ、この部屋は魔法病院の病室ということか……。


「カリンは、どうなったんだ?」


 カリンは黒い槍の呪いを受けて、黒いドロドロが脇腹から出ていたはずだ。

 あれも治癒魔法で治すことができるのだろうか?


「カリンはオレ様が治療したから大丈夫だ、まあ完全に回復するまでに時間はかかるがな……今は寮に帰らせて休ませている」

「そうか、無事なら良かった」


 カリンの無事を聞いて、俺はほっとしていた。


「ついでに貴様が助けた女にも治療しておいた」


 ソフィーが言っているのは、おそらくシェーナの事だ。

 どうやら彼女も助かったようだ。


「あの黒いドロドロは、いったいなんだったんだ?」

「おそらく皮にするために、不要なモノを物質化して体から出していたのだろう……そこには魂も含まれる、魂がすべて抜けてしまえば、それはただの抜け殻、奴の言っていた『皮』ということだ」


 魂が体から抜けでるなんて、普通では考えられない。


「そんなのが体から出て、カリンやシェーナは大丈夫なのか?」

「魔力と同じで自然に回復していく……まあもう一人の女の方は中身が半分くらい無くなっていたので、回復にはかなりの時間がかかりそうだがな」

「そうか……それじゃあ他の皮になった人達はどうなったんだ?」


 彼女達も、時間をかければ元に戻るのだろうか?


「言っておくが、皮になった人間を元に戻す方法はオレ様も知らない……元に戻すのは不可能だと思った方がいい」

「そうなのか……」


 やはり、そんな都合よくはいかないようだ。


「それとあの家は今、聖王騎士団が調べている……おそらくあの皮は、騎士団が持っていったはずだ」

「聖王騎士団がどうして?」


 この街に、わざわざ聖王騎士団が来るとは思えない。


「おそらく警備隊から連絡がいったのだろう、やつらは禁忌の存在を嫌うからな、今回のような『皮』の存在を許すことができないはずだ」


 聖王騎士団は『正義』に反するモノを許さない、その中には使用が禁止されている禁忌の魔法も含まれている。


「まあ何枚かは持ってきたがな」


 ソフィーが、さらっとそんな事を言う。


「な、何やってるんだよ!!もし聖王騎士団にバレたら……」


 そんなことになったらソフィーは、聖王騎士団に連れて行かれてしまう。


「今の騎士団はそこまで有能ではない、そもそも奴らだって犯人が皮を何枚持っていたかなんて、わからんはずだ」

「それはそうかもしれないけど……だいたいあんなモノ持ってきてどうするんだ?」


 ソフィーが着るとは、ちょっと思えない。


「少し調べてみたい事があってな……どうせ聖王騎士団は、今回の件について何かわかったとしても発表しないだろうからな」


 確かに聖王騎士団が、禁忌の魔法に関する事を公の場で発表するとは思えない。

 ソフィーは、独自にこの事件について調べるつもりなのかもしれない。


「そういえば、結局ソフィーはあの男に誘拐されていた訳じゃなかったのか?」

「ふん、オレ様があんなやつに誘拐なんてされる訳がなかろう」

「それじゃあ、なんで行方不明になってたんだよ」

「そ、それは……」


 珍しくソフィーが何か言いづらそうにしている。


「貴様と別れた後に、奴が突然襲ってきてな……とっさに魔法で左手を斬り落としてやったのだが、あの時は飛行魔法を使った後で魔力が足りず、皮しか斬る事ができなかったのだ」


 だからあの場所に、手の部分の皮だけが落ちていたのか。


「しかもやつは、オレ様の動きを封じるための罠をあそこに仕込んでいたのだ」


 おそらく俺が使っているような、ホールドトラップ系の罠だろう。


「普段ならそんな罠に引っかかる事などないのだが、あの時は少々心が乱されていたので迂闊にも気づかなかったのだ」

「心が乱されるって……何かあったのか?」

「それは貴様が……」

「俺?」


 俺が何かしてしまったのだろうか?


「こほん……いやなんでもない、すべては気の迷い、この小娘の体が原因だ」


 よくわからないが、詳しく聞いて欲しくなさそうなので、追求しないでおこう。


「まあとにかく、罠にかかってしまったオレ様は抜け出すために転移魔法を使ったのだ……」

「ソフィーは、転移魔法まで使えるのか!?」


 転移魔法は飛行魔法と同じ、古代の失われた魔法だ。

 使用できれば一瞬で、目的地まで移動できると言われている便利な魔法なのだ。


「まあ失敗したのだがな……」

「そ、そうか……」


 やはり転移魔法は、そんな簡単に使用できるものではないようだ。


「1メートル程度の距離なら普段は成功するはずなのだが、その時は魔力も足らず、心も乱れていたせいか失敗してしまったのだ」

「失敗して、それからどうなったんだ?」

「気が付くとオレ様は、知らない森の中にいた……それから自分の位置を把握し、街に戻るまでに三日以上もかかってしまった訳だ」


 なんというか……転移魔法って失敗するとデメリットが大きいようだ。


「ようするに迷子になってた訳か」

「こ、このオレ様が迷子だと……ぐぬぬ!!」


 ソフィーは顔を真っ赤にして否定したそうにしているが、失敗したのが事実だと自分でも理解しているため、何も言えずにいるようだ。


「まあ無事で本当に良かったよ」


 そう言って俺は、ソフィーの頭に手を乗せる。


「なっ……」

「それと助けてくれてありがとな、あの時のソフィーすごくかっこよかったぞ」


 そして頭を優しく撫でる。


「うぅ……」


 するとソフィーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ソフィー?」

「……帰る」


 ソフィーはそう呟くと俺から離れ、病室から出て行こうとする。


「あ、おい!!」


 するとソフィーは扉の前で足を止める。


「言い忘れていたが、今回の事件は貴様が犯人を一人で倒し、オレ様とあの女を助けた事になっている……だから適当に話を合わせておけ」


 それだけ言うと、ソフィーは病室を去っていった。


「えっー!?」


 なんでそんな事になってるんだ!?

 とりあえずソフィーを追いかけないと……。


「あっ、シンクが目を覚ましてるブヒ!!」


 アーリアが目を覚ましたようだ。


「心配したブヒ!!一人で誘拐犯を捕まえるなんて無茶しすぎブヒ!!」

「いや、もう一人いたはずだけど……」


 カリンの事は、いったいどうなっているのだろう?


「その娘はすぐやられて、気絶したって聞いたブヒ」


 そんな話になってるのか……。


「オレだって特訓して少しは強くなってるブヒ……だからシンク一人で無茶しないで欲しいブヒ、オレ達はパートナーブヒ」

「アーリア……」


 どうやら心配させてしまったようだ。

 確かに今回は、無茶しすぎた気がする。

 ソフィーが助けに来なければ、俺は今度こそ死んでいたかもしれない。


「そうだな、ごめん」


 アーリアを守るために、巻きこまないようにしたのだが、心配をかけさせる結果になってしまったようだ。


「今度からは、一人で無茶しないって約束するブヒ」

「ああ、わかったよ」


 今度からは、もっとアーリアの事も考えて行動しよう。


「わかればいいブヒ、今度から無茶をする時はちゃんとオレにも声をかけるブヒ」

「できれば無茶はしたくないけどな……」


 今回みたいな事は、できればもう無いと思いたい。

 だけどまたこういうい事が起きるかもしれない……その時のために俺はもっと強くなろう。

 ちゃんと誰かを守れるように……。




 それから3日後。

 俺はソフィーと一緒に、飛行魔法のために錬金した装備を持って、裏山に来ていた。


「それでは見せてもらおうか、貴様の錬金装備とやらを」

「まあ、そんなすごいモノでもないけど」


 錬金装備から包んでいた布を取り、ソフィーに手渡す。


「ふむ、これは……箒か?」


 俺が能力を付与したのは、掃除に使うあの箒だった。


「魔法使いが空を飛ぶと言ったら、やっぱりこのイメージかなと」


 昔、母が読んでくれた本に出てきた魔女は、箒で空を飛んでいた。

 まあ実際の箒は空なんて飛べないし、単なるイメージなのだが。


「なるほど……空を飛ぶイメージがあるというのは、確かに大事かもしれんな」


 文句を言われるかとも思ったが、ソフィーはすんなり受け入れてくれたようだ。


「さっそく試してみるとしよう、念のためもう少し後ろに下がっていろ」


 俺は、ソフィーに言われたとおり、少し後ろに下がる。


「ふむふむ、なるほどな……それでは行くぞ」


 ソフィーは箒に跨ると何かを感じ取り、呪文を詠唱し始める。

 すると箒と一緒にソフィーの体が浮き上がる。


「おお、これは体が軽くなって魔力の消費も少なくてすむな……それに箒から魔力を消費する事で体の負担を減らしているのか、考えたな」


 ソフィーが跨っている箒には、触れたモノを軽量化する錬金が付与されている。

 他にも箒に魔力を吸収する錬金を付与して、杖の用に魔力を込める事ができるようにしてある。

 なので直接体から魔力を消費して飛行魔法を使うのではなく、魔力を送って箒から飛行魔法が発動するようになっているのだ。


「ソフィー、大丈夫そうか?」

「悪くない感じだが……」


 ソフィーは空中を移動しながら6メートルくらいの高さまで上昇すると、すぐに下降し3メートルくらいの高さまで戻ってきた。


「どうしたんだ?」

「うーむ、どうやらこの高さまでしか安定して飛べないようだ……上昇しすぎるとコントロールができなくなる」

「それじゃあ失敗か……期待してくれてたのに、ごめんな」


 やはり、そう簡単にはいかないようだ。

 今の俺の錬金術では無理だったのかもしれない。


「いや、オレ様の力不足だ……」


 ソフィーは、箒を下降させると地面に降りてくる。


「確かにあまり高くは飛べないが、前よりもかなり安定して飛べるようになった……もう少しコントロールに慣れれば、高度やスピードも上げられるはずだ」


 とりあえず、空から落ちてた以前の状態よりかは、マシになったようだ。


「礼を言うぞ、シンク・ストレイア……貴様のおかげで飛行魔法の可能性を広げる事ができた」

「そんな礼を言われるほどの物でもないけど……もっと俺の技術が上がったら、改良して作り直してみるよ」


 もう少し難しい錬金ができるようになれば、今よりも優れた性能のモノを作り出せるかもしれない。


「では約束だ……貴様には期待している」

「ああ、がんばってみるよ」


 ソフィーが期待してくれるっていうなら、俺もがんばらないとな。


「くっくっく、楽しみにしているぞ、それまでにオレ様もこの箒のコントロールに慣れておくとしよう」


 ソフィーは再び箒に跨ると、上昇して辺りを飛び回る。

 その顔は、なんだか楽しそうに見えた。


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