さいきょう主人公の就職
退屈なので、異世界に行くことにした。
場所はそうだな。やっぱり王城だろ。勇者召喚は鉄板だ。
というか、割と斬新だよな。自分から召喚されにいく、なんて早々ない。
転移したよ。
煌びやかな内装。豪奢な調度品。もふもふの絨毯。
目の前には、狙い通りの王座があって、女王様らしき美人のおにゃのこが座ってた。もしかして、若くして女王になった悲劇の少女とかなのか?
とりあえず、話を聞いてみよう。
「この国の女王様でしょうか?」
「え……? し、侵入者です!」
その絶叫の直後、俺の背後にある馬鹿でかい扉が勢いよく開いて、鎧と槍を身につけた兵士っぽい人間がわらわらと入ってきた。
でもまぁ、俺は最強だからあっさり蹴散らしちゃうよね。
三秒で掃除完了。
光の勇者たる俺に剣を向けるなんて、どんな教育をしてるんだか。いくら逆召喚だからといって、突然現れた見慣れない服装の人間がただのヒトであるわけなかろうに。
なんだか怯えてる女王に、勇者召喚の儀式が成功したことを民衆に知らせるようにいったところ、別に勇者とかいらないらしい。
「え? だって魔王とか、魔物とかが平和を脅かしてるんでしょ?」
「い、いえ。この世界は戦争も、飢餓もなく、疫病や災害といったものからも守られているので……」
「え?」
「え?」
しょうがないからギルドに行くことにした。
しばらく城下町をうろついてみたところ、ここは中世風らしい。便利だね、中世風って表現。
「ギルド? なにそれおいしいの?」
「いやほら、薬草集めとか護衛とか、そんな仕事を斡旋してる場所あるでしょ?」
「ないよ」
「え?」
「え?」
ギルドがないようなので、魔法学院に入学してみることにした。
俺は最強だから入学試験も余裕のよっちゃんでいけるに違いない。
「入学希望なの? 大丈夫? めっちゃお金かかるけど」
「どのくらい?」
「貴族様が通うくらいだからね。ざっと金貨五百枚は必要だね」
「ふーん。あ、お金もってないや。ドラゴンでも倒してくるからちょっと待っててよ」
「ドラゴン? なにそれおいしいの?」
「え?」
「え?」
魔王もドラゴンもいないとか、異世界の風上にもおけない世界だな。
ちょっと憤慨した俺は、貴族とやらに雇ってもらおうとでっかいお屋敷に行った。
「で、ここで勤めたいって?」
「あ、はい」
「ふーん。文字は読める? 計算は得意? 事務仕事ばかりになるけど腰は大丈夫?」
「あ、いや俺は兵士希望で」
「あっはっは。今時兵隊囲う貴族様なんていないって。こんなに平和なんだから」
「権力争いとかないの?」
「ないない。今時流行らないからねぇ」
「え?」
「え?」
ドロドロの血で血を洗う争いなんてなかった。
大口は流石に諦めなきゃいけないらしい。
もういっそ、畑でも耕そうかな。ほら、俺って最強だから鍬振るうのもすごいんだよ。
「畑ぇ? あんちゃん、あんたよそ者だろう? あいにくとこの村の者以外にくれてやる畑なんてねぇよ」
「え?」
「え?」
異世界は世知辛い。