10-9 私も覚悟を決めます
(そうだったんだ)
ミナから記憶を消した。だからみんなでコソコソやっていた。シャンティ達がクリシュナの事を知っていたのも当たり前だった。ミナの恋人なのだから。
エゼキエル家へ行けなかったのも理解できた。ミナが他人行儀に悼む姿を見たら、きっとラジェーシュ達を傷付けるから。
ヴィンセント達がミナを仲間外れにして、ジュリアスと戦った理由も理解できた。そしてジュリアスと戦った理由は、ミナ・キングをめぐる因縁だけではなかった。
アンジェロから聞いた。ジュリアスはクリシュナを殺したのだと聞いた。ならばイタリアで過ごした彼はなんだったのか。
決まっている。クリシュナを殺したジュリアスが、クリシュナに成りすましていた。そしてミナを欺いた。ヴィンセントへの復讐の為に。
その事を知ったミナが傷ついて、愛した恋人を殺された、その苦しみに囚われることがない様に。
記憶のを消したのは仲間外れなんかではない。みんなの、ヴィンセントの愛情ゆえのこと。ミナの心は守られて、ミナだけが幸せで、みんなを苦しめた。
ようやく考えがまとまって、記憶が戻った衝撃で閉じていた眼を開いた。ミナが開いた視線の先には、ヴィンセントの心配そうな顔があった。
「ヴィンセントさん、みんな、今まで迷惑かけてごめんなさい」
ミナが謝ったのを見て、ヴィンセントは笑った。
「気にするな」
「ありがとうございます。でも、気になることがあります」
「あぁ」
ヴィンセントにはわかっているようで、ミナを座るように促した。ヴィンセントの隣に腰かけて、質問を続けた。
「どうして今になって、記憶を戻したんですか?」
ヴィンセントは一つ息をついて答えた。
「クリシュナが復活した」
「えっ?」
「殺されていなかったのだ。細切れにされたせいで、復活に半年もかかってしまったようだがな」
「クリシュナさんが、生きてた……」
戻ったのは記憶だけではなかった。クリシュナにまつわる、その感情も取り戻した。今ミナの胸の中に広がるのは、大きな安心感と強烈な喜びだった。
「よかった、よかった……」
手で顔を覆って、そう言って涙をこぼすミナに、ヴィンセントが続けた。
「それで、兄様は今こちらに向かっている。恐らく今日中には到着するだろう」
「本当ですか? 嬉しい!」
涙を拭って、喜んで手を叩いた。だが、ヴィンセントは神妙な顔をした。
「それがお前の答えか?」
ミナはその問いかけを不思議に思ったが、ヴィンセントがチラリとアンジェロに視線をやったのを見て、何を尋ねられたのかが分かった。
だから、ミナもしっかりとヴィンセントを見て、敬虔な調子で答えた。
「はい。もう答えは出ています」
そしてミナは立ち上がって、アンジェロの前まで行った。背の高いアンジェロに届くように一生懸命背伸びをして、そしてアンジェロの唇にキスをした。
アンジェロの琥珀色の目を見つめた。アンジェロは驚いたようにしてミナを見つめ返していた。その眼を真っ直ぐ見て、物憂げな表情で言った。
「ごめんね、ありがとう」
ミナの行動と、ミナの表情と、ミナの言葉。何かを感じ取ったらしいアンジェロが、わずかに顔を歪めた。
その時、石英のドアを叩く音が、ミナ達の耳に届いた。




