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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
1 邂逅編
9/140

1-9 女性問題にまで巻き込まないで下さい

 出会いから、もう一月近く経とうとしていた。

 あれからもヴィンセントと連れ立って、悪党征伐という名の修行をして、血を飲み、棺で眠る。

 悪党征伐も、それこそ初めのころは割とノリノリだった。ミナは元々正義感の強い方だし、困った人がいるのなら役に立つことができたら嬉しい。今もその気持ちに変わりはない。

 だけど、いまだに力の制御が下手なミナは、どうしてもやりすぎてしまうことがあって、相手に無用な怪我を負わせてしまうことがある。最近は少し、辛くなってきた。


 自分のことにしても他人のことにしても、平和を勝ち取るのに流れる血は少ないほど価値がある。ミナが守った人の中にも、ミナに対して恐怖や嫌悪感を抱いた人もいただろう。最初に力を使った時に同じことで苦悩した。やりすぎたら意味がない。たとえ正義でも立場が変われば悪になる。

 それに、戦闘の時になると、妙に精神が高揚することに気付いた。とても好戦的で激しい闘争心が生まれてしまう。これは吸血鬼の性なのだろうか?

 ミナがうまく力と感情をコントロールできれば、すべては解決するのかもしれないが、最近悩んでいる。


 しかし、目下の課題はたまの修行よりも、毎日の食事だ。正直、毎日飲む必要はないと思う。

 以前、お風呂で寝てしまったことがあったから、ヴィンセントとしてもその予防策で飲ませようとしているのだとは思う。でも、少しひっかかる。ミナがしぶしぶ血を飲んでいるのを見て、ヴィンセントはいつも楽しそうにする。

 ミナがいう事を聞いたのが嬉しいのか、それとも嫌々口にした割に美味しそうにしているのが面白いのか。後者の可能性が高いが、そうだとしたら正直腹立たしい。ミナはこんなに悩んでいるというのに。所詮他人事だと言われたら、お仕舞なのだが。



 大きな悩みと言えば、今のところこれくらい。驚いたことと言えば、思ったよりも棺ベッドが快適だったことだ。寝起きで土だらけにはなるけど、それを差し引いてもあの安眠効果はすごい。

 毎回、よく寝た! というスッキリ爽快感を味わえる。ちゃんと休養を取ったぞ! という感覚が絶対にある。起きている間どれほど過激な運動をしても、食事をとらなくても、ある程度の睡眠さえとれば、ほぼ完全回復。棺ベッドの味を知ってしまえば、普通のベッドに戻れない。

 後は、悩みというか少し困ったことがある。ミナがヴィンセントの眷愛隷属になった為に、バミューダトライアングルにはまってしまった。




 話は三日前に遡る。



 なにやら、紙を見ていたヴィンセントは急にそれを握りつぶして立ち上がった。

「出かけてくるから、お前は大人しくしていろ」

 言うだけ言って、急に出かけてしまった。

 ヴィンセントと離れるのはその時が初めてだったから、妙に落ち着かない。

(ヴィンセントさんどこ行ったのかな? 何しに行ったのかな? それくらい教えてくれてもいいのに! ケチ!)

 と一人悪態をついた。

 一人だと本当に暇で、メリッサのお店に行こうかとも思ったが、「大人しくしていろ」と言っていたし、身動きが取れない。仕方なしに、面白そうなDVDがないかとガサゴソ漁っていると、ピンポーンとインターホンが鳴り響いた。この家のインターホン初めて聞いた! と、どうでもいいことを思いながら玄関に走り、ドアを開けた。

「ヴィンセントさんお帰……?」

「ヴィンセント! 会いたか…?」

「どちら様?」


 ドアを開けると立っていたのは、見知らぬ女性。和服を着て膝程まである長い黒髪。白い肌によく映える、パッチリと開かれた漆黒の瞳と紅い唇。和服だというのに、なぜか妖艶な雰囲気を醸し出す、和風美女。

 一瞬戸惑ったものの、ヴィンセントの知り合いのようだし、とりあえず上がって戴いてお茶(血)を出して、二人でソファに腰かけた。

「ヴィンセントさんのお知り合いの方ですか? あの、今、ヴィンセントさん外出してて……すぐ戻るとは言ってたんですけど……」

 なんとか間を取ろうと話しかけるものの、彼女の方はうんともすんとも言わない。無視されたことに驚いていたら、「そなた」と話しかけられたので、パッと顔を上げた。

「はい、なんでしょう?」

 彼女はどうも不機嫌そうに眉をひそめて、お茶(血)をテーブルに置く。

「そなた、何者じゃ? ヴィンセントの何なのじゃ? いつからここに?」

「あ、私ミナと言います。ひと月前にヴィンセントさんの眷愛隷属になりました」

 彼女はミナを真っ直ぐ見て、ふーんと呟く。

「して?」

「えーと? あの、それだけなんですけど……」

 ミナの言葉を聞いたその人の目に、少しイラつきの色が窺える。

「ミナと言うたか。そなたはただの眷愛隷属かえ? それとも、本物の眷愛隷属なのかえ?」

 と言われても、ミナにはいまいちよくわからなかった。

「すいません、勉強不足なもので、本物とそうで無い物の違いが分からないんですが……」

「チッ! 互いに血を飲みかわし、何度も吸血されていれば本物よ」

 舌打ちされたことにショックを受けつつも、「では、本物の眷愛隷属ですね」と言った瞬間、乱暴に玄関のドアが開きヴィンセントが帰ってきて、思わず玄関へ走った。

「お帰りなさい、お客様がお見えです」

 そう言ってヴィンセントに駆け寄ると、なんだか慌てた様子で「遅かったか……」とリビングに入る。

 ヴィンセントがリビングに入った瞬間その人は立ち上がって、掴み掛った。

「ヴィンセント! せっかくわらわが出向いて来たというのに、これはどういうことなのじゃ!」

 どういうこと、それはミナが一番聞きたかった。彼女が喚くので、段々とヴィンセントが苛々して来ているのが分かって、慌てて間に入った。

「あ、あの、二人とも落ち着いて……とりあえず座りません?」


 なんとか二人をなだめて、座ってもらうことができた。正直この二人の会話を聞いていたくもないし、混ざるのも嫌だったので、二人分の血を用意しようと思い立ちに台所へ行った。

 しかし、所詮は同じ家の中だ。吸血鬼の聴力は聞きたくもないのに聞こえる。

「あのミナという女はなんなのじゃ!」

 彼女のキャンキャンが台所まで響いてきた。

(あぁ、嫌だな。ていうか、もしかして私、無関係じゃないのか)

 あぁ関わりたくない。しぶしぶ二人の前に血(茶)を持っていくと、ある程度は覚悟していたが、さっそく火の粉を浴びる羽目になった。

「ミナ! そなたはなんなのじゃ!」

 先程の自己紹介は、無かったことにされたようだ。

「突然現れて! わらわはずっと待っておったのに! ずるいではないか!」

 全然話が見えないので、弁護も反論も出来ない。

「すいません、どっちでもいいんで、どういうことか話していただきたいんですけど……」

 困ったように顔を向けると、ヴィンセントがそれもそうだな、という顔をして口を開いた。

「あぁ、彼女は」

「わらわは誘夜姫いざやひめ。そなたよりずーーっと前に、ヴィンセントの眷愛隷属になると契約していたのじゃ! それなのに、いつまで経っても眷愛隷属にしてくれないものだから、わらわの方から来たというのに!」

 話を遮られえたヴィンセントは少しイラついたようだったが、誘夜姫の話を聞いているうちにおとなしくなってしまった。

「えーっと、そうなんですか?」

 一応確認のためにヴィンセントに問いかけると、「まぁ、な」と微妙な返事。その返事を受けて、誘夜姫はどうもヒステリックになっているようだが、これは、と思いヴィンセントを見た。

「ヴィンセントさんが悪くないですか?」

「何を戯言を! そなたが誑かしたのではないのかえ!?」

 ヴィンセントに言ったはずなのだが、なぜか誘夜姫がキレた。誑かすなんて人聞きの悪い、それどころか、むしろ騙されたのはミナなのに。これは正直話にならないので、個別に事情聴取をとろうと考えたのだが、先に誘夜姫が立ち上がった。

「とにかく! 折角出てきたのじゃから、しばらく世話になるぞよ」

 誘夜姫はそう言って、荷物を持ってベッドルームに入ってしまった。誘夜姫の背中を見送ったヴィンセントが、深い溜息を吐く。

「あのーヴィンセントさん、お疲れのところすいませんが、一から説明をお願いします」

 ミナも無関係ではないみたいだし、聞いてもいいはずだ。

「面倒くさい」

 あっさり断られた。ヴィンセントはそのままお風呂に行ってしまったので、仕方なしに誘夜姫の許へ向かうことにした。



 ベッドルームのドアをノックする。入室許可を取ろうと話しかけると、即答で「嫌じゃ」と返ってきた。仕方がないので、このままドア越しでの質疑応答を願うと、これまた即答で「嫌じゃ」と返事が来た。

 なんだか段々腹が立ってきたが、このまま放置しても面倒くさい時間が引き伸ばされるだけだ。そう考えて、勝手に質問を投げかけてみることにした。

「誘夜姫さん」

「気安く名で呼ぶでない」

 ミナは心の中で地団太を踏んだ。ハンカチを持っていたら、引き裂いているところだ。

「あの……姫様」

「なんじゃ」

 合格したようである。安心して、なんだかんだお返事を返してくれるので、本格的に質問に移った。

「姫様が契約をしたのはいつですか?」

「50年ほど前かの」

「なぜ契約をすることになったんですか?」

「ヴィンセントと出会った時、契約してくれと言われたからじゃ」

 それは少し疑問に思う。ヴィンセントの方からセールスしたのに、契約不履行とはどういうことか。

「それから50年間、一度も契約に関する話はなかったんですか?」

「そうじゃ。そなたはどう思う?」

 ドアの中から話しかけられる。ミナも情報がこれだけではさっぱりわからない。

「すいません、情報量が少なすぎてまだわかりません……姫様のこと、教えてもらえますか?」

 問うと、中から溜息をもらす声が聞こえて、少しすると誘夜姫が語り出した。

「わらわは、古くから日本の山奥に住む妖怪で、いわば日本版女吸血鬼とでもいうのか、そういう妖怪じゃ。たまに普通の人間に化けて里に下りることもある。ヴィンセントとは里に下りた時に出会ったのじゃ」

 日本に吸血鬼がいたことも驚きだったし、変身できることにも驚いて、素直に感心しながら話を聞いた。

「ヴィンセントはとても紳士的で、わらわはすぐに惹かれたわ。だから契約の話を持ち出して来た時も、二つ返事で引き受けたのじゃ」

 どこかで聞いたような話である。

「なのにヴィンセントは、いざという時になって無理じゃと言い出して……そのままよ」

 急展開に首を傾げた。

「んん? 無理って言われたんですか? 理由は教えてくれましたか?」

 気のせいだろうか、部屋の中からすすり泣く声が聞こえる気がする。

「わらわが吸血鬼の始祖だから、駄目じゃと。なぜ吸血鬼の始祖だとダメなのじゃ?」

 そう言われても、ミナはキャリアが低い為に吸血鬼の掟もまだよく知らない。

「そこは教えてくれなかったんですか?」

 尋ねたのだが、何故か誘夜姫は沈黙してしまった。

 一応大人しく返事を待っていると、少し衣擦れの音が聞こえた後に返事が来た。

「教えてくれたのじゃが、意味が分からなくて……契約は破談だと言われて、そのままよ」

 意味が解らなかったのなら、納得できないのも無理はない。

「姫様はその理由を知りたいんですか?」

 ボスッボスッと中から音が聞こえる、暴れてるようだ。

「それもじゃが、ちゃんと眷属にしてほしいのじゃ! わらわだってヴィンセントの傍にいたいと、50年間願ってきたというのに!」

 姫がご乱心じゃ。慌ててフォローを試みた。

「そ、そうですよね。じゃぁ私からヴィンセントさんに話を聞いて交渉してもいいですか?」

 ピタッと中の騒音が止まった。

「よいのか?」

「私でよければ」

 そりゃ面倒事がさっさと片付くなら協力する。

 しばしの沈黙の後、「さっきは悪かったわ」と誘夜姫が言った。声から察するに少し反省の色が窺える気がする。恐らくこの人は悪い人ではない。

 なんだか誘夜姫がとても可愛らしい人に思えたので、ドア越しではあったがにっこりと笑って言った。

「じゃぁ今日は疲れたでしょうから、ゆっくりしてください。お休みなさい」

「お休み」



 とりあえず誘夜姫の情聴取はできた。問題はヴィンセントだ。面倒なだけならご機嫌とりをすれば話してくれそうな気もするが、そうじゃない場合は難しい。


 ひとまず重要な点は「始祖は眷属にはなれないのか?」。

 おそらくヴィンセントも始祖だろうから、始祖同士なら同等の階級と言えるだろう。「始祖だから」という事は、吸血鬼自体を眷属にすることはできるという事だ。もしかしたら階級が、誘夜姫の方が上なのか、始祖同士でできない絶対的な理由があるのか。そのどちらかだ。

 ミナでは吸血鬼の知識は乏しくてわからない。ヴィンセントが教えてくれなかったら、メリッサに聞いてみよう。彼女なら知っていそうな気がする。そう考えていると少しして、ヴィンセントがお風呂から出てきた。

「誘夜姫に話を聞いたのか」

「はい。話してくれますか?」

 ヴィンセントは唸って、困ったように首をひねる。

「概ね彼女の言う通りなんだが、なぜ理解できないのかが分からない」

 そう言われても、ミナにはもっと意味が分からない。どういう事か尋ねると、教えてくれた。


 吸血鬼の世界では、真祖が他の吸血鬼の眷愛隷属になることはできないというのは常識だ。ルールで出来ないのでなく、構造上不可能と言う意味でだ。真祖同士だと、吸血鬼と言うカテゴリは同じだが、種族が違う。同じネコ科の動物でも、チーターとトラがつがいにならないのと同じだ。この国が海に囲まれて、他の吸血鬼の侵入を阻んでいたことを差し引いても、知らないはずはないのだが。

「そうなんですか。もしかして、姫様が始祖ってどういうものかわかってないとか?」

「始祖ではない。真祖だ」

 言われて首を捻った。

「シンソ? シソじゃなくて?」

「誘夜姫は真祖だ」

 始祖と真祖の違いがわからなかったので尋ねると、またしても懇切丁寧な説明。


 吸血鬼になる方法はいくつかある。大別すると、自ら魔を引き寄せて吸血鬼になる場合と、吸血鬼に吸血鬼化される場合との二つ。前者の方法で吸血鬼化したものが真祖だ。この国は海に囲まれているから、他の吸血鬼が入りにくい。つまり、誘夜姫を祖とした吸血鬼のみしかいない。誘夜姫は山姫という種の、吸血鬼勢力の頂点と言える。よって、誘夜姫は真祖の中でも、最上級の吸血公主となる。

「なるほど。それで始祖との違いはなんですか?」

「始祖は簡単に言えば、支配下に自分で吸血鬼化した眷愛隷属がいる者を言う」

「あぁ、なるほど。じゃぁ始祖と真祖は似ているようで全然違うんですね」

「階級で言えば誘夜姫の方が上。彼女は伝説級の吸血鬼だ」

 つまりヴィンセントも誘夜姫も真祖であるし、誘夜姫が下階級のヴィンセントの支配下になることはあり得ないわけだ。要するに誘夜姫は、自分は始祖だと勘違いしていて、なおかつ真祖だから眷愛隷属にはなれないと、そういう事のようである。


 真祖云々については、話を聞いて納得できた。しかし納得できない点もある。

「でも、それならなんで契約話を持ち出したんですか?」

「……それは……色々あってだな……」

 ヴィンセントはその質問を受けると、さっと視線を外す。なにか怪しい。

「色々ってなんですか?」

 ヴィンセントは目を合わせようとしない。

「もしかして姫様が吸血鬼って気付かなかったんですか?」

 ヴィンセントは尚も目を合わせてくれない。

「姫様、人間に化けてたって言ってましたもんね」

 なんだか楽しくなってきた。

「いざって時になって姫様の瘴気しょうきに気付いたわけですか」

 ヴィンセントは冷や汗をかいてる。

「真祖なら変身も気配を消すのも、かなり高等な技術持ってそうですもんね」

 鬼の首取るというのは、こんな感じをいうのだろう。

「それで話を聞いたら真祖だったから、契約締結したにもかかわらず破談したわけですね」

 ちょっと得意満面で言ってみると、とうとうヴィンセントがミナを睨んだ。

「うるさーい!」

 さすがに怒ったヴィンセントに、思わず怯んだ。

「黙って聞いていれば調子に乗りおって……お前、この私にそんな態度を取って無事でいられると思うなよ!」

(怖ッ! ヤベッ調子こきすぎた!)

 怒って立ち上がったヴィンセントに、壁に向かって吹っ飛ばされた。彼は体罰教育派なので、最近ちょっと慣れて受け身が取れるようになってきた。しかし、ヴィンセントがそれに気付かないはずもなく、今度は鬼の形相で歩み寄ってきたヴィンセントに、壁際から離されて床に叩きつけられる。そのままヴィンセントはミナに馬乗りになった。

「さぁ、楽しいお仕置きの時間だ」

「ヒィィィ!」

 マウントを取られたことで、一方的に滅茶苦茶に殴られると猛烈に恐怖を感じて、ジタバタと暴れながら「イヤー! 姫様助けてー!」と叫ぶと、誘夜姫が寝室から飛び出してきた。

「ミナ!? どうし……なにをしておるのじゃ?」

 誘夜姫の目に映ったのは、マウントを取られたミナと、マウントを取ってミナを押さえつけるヴィンセント。この構図はまずかったかもしれないと、呼んでおいて後悔した頃にはもう遅かった。

「ミナが協力してくれると言うから信じておったのに! もうそなたなぞ大っ嫌いじゃ!」

 そう叫んで寝室に引き返してしまった。何とか誤解を解こうと叫んでも、返事は返って来ない。彼女がヴィンセントに好意を持っているのはわかっているのだから、どうしても誤解を解いておきたくて、必死に弁解をしていた。すると馬乗りになったままのヴィンセントが溜息を吐いた。

「この状況で誘夜姫の心配とは余裕だな」

 上からヴィンセントの声が降ってくる。その言葉に堪忍袋は破裂した。

「そもそもヴィンセントさんが悪いんじゃないですか! 姫様が50年間待ったのも! 私がこんなことになってるのも! 姫様に勘違いされて嫌われちゃったのも! 全部ヴィンセントさんのせいじゃないですかー! どうしてくれるんですか! バカマスター!」

 そう叫んで上に乗っているヴィンセントを張り倒した。

「お前、この私をバカ呼ばわりして反抗するとは、大した度胸だな」

 ヴィンセントは起き上がりながらギロリと睨む。その視線に一瞬怯みかけるが、負けてはいられない。

「だってそうじゃないですか! どれもこれもヴィンセントさんがちゃんと計画性のある契約を結ばなかった結果じゃないですか! 私の時も姫様の時もヴィンセントさんのうっかりミスじゃないですか!」

 言っていることはミナの方が正論だ。ヴィンセントの様子を窺っていると、彼は聞いているのかいないのか、睨みながら立ち上がった。それを見てミナは完全に怯んだ。

(あ、だめだ実力行使に出る気だ)

 三十六計逃げるにしかず。

「もうヴィンセントさんなんか嫌い! ダメマスター!」

 捨て台詞をはいて全力で棺に逃げた。棺の蓋を閉めて、興奮したのを落ち着かせながら心の中で悪態をついた。

(全く! 自分で適当なことしといて責任も取らないなんて、男の風上にも置けないよ! 風下にだっておいてやるもんか! 姫様とは日本人同士仲良くしたかったのに! ヴィンセントさんのバーカ! バーカ!)

 棺の蓋を閉めて、興奮したのを落ち着かせながら心の中で悪態をついていた。その時、棺の隙間から光がさして、ガタンッとふたが開けられた。

「それで逃げたつもりか?」

 普通に開けられた。ジタバタ暴れてみても、抵抗むなしく棺から引きずり出される。

「お前は私に嫌わないでと言うくせに、私には嫌いと言うのか?」

 最後のセリフは余計だったと落胆していると、ヴィンセントにギュッと両肩を掴まれて、真っ直ぐにミナを見た。

「ミナ、私を見ろ。私とて、お前に嫌われるのは辛い」

 ヴィンセントは少し悲しそうな顔をしてそう言った。ヴィンセントの口から出たとは思えない、意外過ぎるセリフ。もしかして、傷つけてしまったのだろうか、そう考えて暴れるのをやめて、ヴィンセントに向き直った。

「ヴィンセントさん、私……」

 ヴィンセントを見つめ返した刹那、さっきまで悲しそうにしていたヴィンセントは、表情を変えた。

「――なんて思うか! バカ下僕!」

「ギャァァァァ! 嵌められたァァァ!」

 気付いた時には遅い。結局、ヴィンセントが眠くなるまでお仕置きされた。




 それからはもう最悪だ。目覚めから3人とも険悪ムードで、全員が全員と仲が悪い。ヴィンセントとは話したくないし、誘夜姫には話しかけても完全無視で、完全泥沼状態。ヴィンセントはリビングでテレビを見て、誘夜姫はベッドルームに引きこもり、ミナは家の掃除で気分を紛らわしているものの、誰か助けてくれと思いながら今日に至る。

 こういう時は第三者が欲しい。雰囲気が最悪すぎて家出してしまいたいくらいだ。

(もうこの際新聞の集金のおっさんでもいいよー。あーヤダヤダ)

 その時だった。マンションにこだまする、インターホンの音。


 神 降 臨 ! 元気良く返事をして、全速力で玄関へ走っていく。玄関を開けると「ミナちゃんお久しぶりね」と、にっこり微笑んだメリッサが立っていた。

「ささ、上がってください!」

 前置きもなく、恭しくメリッサをリビングにお通しする。勿論、居間に連れて行ったのでわかっているはずだし、喋りたくないからヴィンセントへの案内はナシだ。キッチンでお茶の用意をしてメリッサにお出しして、メリッサの隣に腰かけた。すると、メリッサが不思議そうにミナに振り向いた。

「ヴィンセント、ミナちゃん、喧嘩でもしたの? いっつも二人でくっついてるのに」

 今言われたら少々ダメージを食らう。というよりも、そんな話を誘夜姫に聞かれたら、余計に嫌われてしまうと恐々として、「ところで、メリッサさん今日はどうしたんですか?」と、慌てて話題を変えた。恐らくバレバレだが、メリッサは少し間をおいてにっこり笑うと、ミナに身を寄せて頬を撫でてきた。

「もちろんミナちゃんに会いに来たのよ。最近ミナちゃんに会えなくて寂しかったのよ?」

 と言いながら、メリッサはミナの頬にキスをしてくる。

「うぉっちょ、私日本人だから、そういうの慣れないんですけど……」

「西洋では普通よ?」

 知識として知ってはいるが、実践となるとやはり慣れない。メリッサが同性な分まだマシだが、ヴィンセントもメリッサも結構スキンシップは多いので、慣れる必要があるのはミナの方だ。気が付くとメリッサのキス、というかリップサービスは首筋にまで下りてきている。なんだかくすぐったい様な不思議な感覚がする。

「う……メリッサさん、あの、ちょっと」

「ミナちゃん、いい香り。美味しそう」

 メリッサがそう呟いて口を開いた瞬間、ドキッとした。

(あ、だ、ダメ! 私の血はヴィンセントさんの……!)

 そう思って、メリッサを押しのけようとした時だった。

「メリッサ!」

 ヴィンセントが叫んだと思ったらメリッサを引き離してくれて、ミナを隣に座らせてくれた。メリッサはそれを見て、ふぅっと溜息をついた。

「ヴィンセント、止めに入るのが遅いわ。私は別にいいけど」

 柔らかく微笑んでダメ出しをした。メリッサは仲直りさせるためにわざと行動したようである。

「あなた達にはいつも仲良くしてもらわないと。その方が私が燃えるのよねぇ。いつもの様に仲直りのチューしちゃいなさい」

「したことないですよ!」

 外人は仲直りの際、いつもチューするのかと首を捻っていると、急に上からヴィンセントの言葉が下りてきた。

「さっきメリッサに吸血されそうになった時、何を思った?」

 言われて記憶を探ると、思い出した。

(ダメ! 私の血はヴィンセントさんの…!)

 ヴィンセントのものなのに。反射的にそう思った。

「そうだ。お前が私以外に血を与えることは、許さん」

 そう言ってヴィンセントはミナの首に顔を近づける。皮膚を突き破る音がした直後から、体中が快感に支配された。しばらく吸血するとヴィンセントは顔を離して、「今お前が感じていた感覚を私にも味わわせろ」と言って首筋を露わにした。

「飲め」

 そういうと、ヴィンセントはミナの頭を掴んで首まで引き寄せる。まだ、一度も自分から他者に噛みついて吸血したことがない。なんだか、怖い。

「で、でも、あの……」

 どうしても戸惑っていると、ヴィンセントは「大丈夫だ」と言う。大丈夫って何が? と、疑問に思ったけど、何となくその言葉に安心した。

 傷一つないヴィンセントのきれいな肌。躊躇いつつも口を開き、その肌に牙を立てる。

 ヴィンセントが一瞬小さく身を震わせたので、痛かったのかと心配になったが、「さぁ、飲め」と言われてゆっくりと牙から血液を吸い上げる。少しして口を離すと、ヴィンセントはにっこり笑って「よくできました」と頭を撫でてくれた。

 ヴィンセントの首を見ると、ミナの噛み跡ができていた。

「ヴィンセントさん、きれいな肌なのに、跡ができちゃいましたね。ごめんなさい」

 白い肌にほんのり赤く残った噛み痕を撫でてみた。

(多分、すぐ元通りになるとは思うけど)

 そう考えていると、襟元を整えながらヴィンセントが言った。

「吸血痕は消えないぞ」

「え? そうなんですか?」

「お前の痕もずっと残っている」

「あ、そうなんですか。でも、じゃぁどうしてヴィンセントさんには噛み跡がないんですか?」

 長い時間経過すると消えたりしないのだろうか。そう考えているとヴィンセントは首を横に振った。

「あるはずがないだろう。誰にも吸血させたことはないからな」

 思わずのけぞった。

「えぇー! そ、そうなんですか!? わ、私、なんか、ごめんなさい……」

 なんというか、恐れ多いことをしてしまった。

「謝る必要はない。私がそうしろ、と言ったのだ」

「それはそうだけど……」

「素直に喜べ」

 正直、すごくすごく嬉しい一番乗り。もしかすると、ミナははじめての眷愛隷属なのかもしれない。今までヴィンセントが吸血鬼化した人はたくさんいるだろうが、誰にもそれをさせなかったということは、眷愛隷属はミナしかいないということなのだろう。そう考えてヴィンセントを見上げて、敬虔な調子で言った。

「あの、凄く嬉しいです。ありがとうございます」

 ヴィンセントはにこっと笑って「私の大事な眷属だからな。当然だ」と言って頭を撫でてくれた。

 仲直りも出来た事だし、ヴィンセントに頭を撫でられて有頂天になった。

「ゴホン! 二人とも私の存在忘れてないかしら?」

 すっかり忘れていた。咳払いをして笑うメリッサに頭を下げると、影が差した。

「わらわの事も忘れておるようじゃな」

 声がした方を見ると、誘夜姫がそこに立っていた。

 大変な人を忘れていた。今のヴィンセントとのやり取りを見られていたら、余計にこじれそうな気がして恐々とした。案の定誘夜姫は憮然としながら、メリッサの隣にドサッと腰かけた。

「メリッサに会うのは久しぶりじゃ」

「姫様、本当にお久しぶりですわね。いつからいらっしゃってたんですの?」

「3日前じゃ」

 それを聞いたメリッサは、得心がいった顔をしている。ケンカの原因を察したようだ。

「姫様はこの二人がイチャついているのが、お気に召されませんでした?」

 別にイチャついてはいないし、それを聞いてしまうのかとハラハラした。やはりというべきか、誘夜姫は更に機嫌を損ねたようだった。

「気に喰わぬ! ぽっと出の小娘に、わらわの場所を奪われたのじゃ!」

 小娘。ここまで嫌われるといっそ清々しい。

 癇癪を起す誘夜姫に、メリッサは子供を諭すように優しく微笑んだ。

「でも、姫様は逆立ちしてもヴィンセントの眷愛隷属にはなれませんわ」

 そうメリッサが静かに言うと、怒りの矛先は彼女に向く。

「何じゃその言い方は! そもそもヴィンセントは自分から契約してきたのじゃぞ! できないはずがないではないか!」

「そこはきちんと謝罪しないヴィンセントも悪いと思いますわ。ですが、あなたはただの始祖ではなく真祖ですもの。あなたやヴィンセントがどんなに頑張っても、覆すことはできませんわ」

 誘夜姫のの顔に疑問符が浮かんでくる。元はと言えばヴィンセントのうっかりミスと、誘夜姫の勘違いが原因のトラブルだ。この際はっきりさせておくべきだ。

 ミナとメリッサ二人がかりで、真祖と始祖についての講義を試みた。誘夜姫は理解しているようだが、段々納得できないと言う顔になってきた。

「つまり、姫様は吸血公主ですから、一介の吸血鬼の下に着くなんてあり得ないってことみたいです」

 そこまで話すと、誘夜姫は考え込んで沈黙している。

「……わかった。わらわが眷属になれないということは、理解できた。ならば何故」

 誘夜姫は俯いていた顔を上げて、ヴィンセントに視線を向けた。

「何故ヴィンセントはわらわにその話をもちかけたのじゃ? その話をされなければ、わらわは50年も待つ必要はなかったというのに」

 彼女の言葉を聞いて、嘆願するようにヴィンセントの腕を掴んで見上げた。 

「ヴィンセントさん、姫様にちゃんとお話ししてあげてください」

 このままでは誘夜姫が可哀想だ。50年も待たされて、ほったらかされて、結局ダメでした、なんてあんまりだ。せめて謝ってあげてほしい。周りの雰囲気に押されてか、一つ息をついて、意を決したようにヴィンセントは口を開いた。


「初めて会った日のことを覚えているか?」

 誘夜姫は少し宙を仰いで考えるようなしぐさをして、すぐに答えた。

「覚えておる。確か、人間に化けて反物を買いに里に下りた時に、町でヴィンセントに声をかけられたのじゃ」

 ナンパのようである。

「その後のことも覚えているか?」

 ヴィンセントのお顔がだんだん苦々しくなってくる。

「二人で茶屋に入ってしばらく話して、茶屋を出たら契約してくれと言ってきたじゃ。それから、わらわが引き受けて人目につかないところに移動して、いざとなってからヴィンセントがちょっと待てと言って、わらわのことを色々尋ねたと思ったら、契約は破棄だと言ってそのまま帰ってしまった……」

 誘夜姫の話を聞いて思わず「ヴィンセントさんって最低ですね」と言ったら拳骨が落ちてきた。

 ミナをひと睨みした後、ヴィンセントは改めて誘夜姫を見た。

「そうだな……私は……誘夜姫が吸血鬼だという事に、直前まで気付かなかった」

 言った。何故か嬉しくなって、よくできましたとヴィンセントを見上げたが、彼はまだ誘夜姫に向いて、少し所在無さげに視線を泳がせた。

「人間に化けていただろう。人間だと思い込んでいた」

 誘夜姫は信じられないという顔をして驚いている。

「私が契約の話をしたときに、お前が、ならば自分を眷愛隷属にしてくれるのかと聞いたときに、少しおかしいなとは思ったんだが……」

 普通の人間なら、そんなことは言わない。

「いざ、契約を結ぶときになってお前が変身を解いただろう。そこで初めて気が付いた。別に吸血鬼を眷愛隷属にしても問題はなかったが、変身していると同族に見破らせない程の技量をもった吸血鬼なら、私より格上の可能性が高いと思って、話を聞いた」

 状況が理解できたらしく、聞きながら誘夜姫の表情がだんだん強張ってきている。

「それでお前が真祖だとわかって、契約を取り消した」

 全部白状した。あとはラストスパートだ。

「私が気付かなかったせいで、お前を傷つけてしまってすまなかった。その後も誠意のない態度を取ってしまって、本当に悪かったと思っている。本当にすまなかった」

 ヴィンセントはそう言って頭を下げた。

(よーし! ヴィンセントさん頑張ったよ! ヴィンセントさん男だよ! これで、姫様が許してくれ……)

 そうにない。目の奥が怒りの業火で爛々と光っている。長い髪の毛は逆立って、なんだか誘夜姫のサイズが大幅にアップしている。彼女ははどんどん大きくなって、普段の姿の倍くらいの大きさになった。

「ヒィィィ! 怖ェェェ!」

「まぁ」

「これが誘夜姫の真の姿だ」

 メリッサの反応が小さいことにもツッコみたいが、誰のせいだと思っているのか、ヴィンセントは解説を始めてしまった。しかし誘夜姫の怒りと、ミナの混乱状態ではそれどころではない。

「何落ち着いてるんですか!? ちゃんと謝ってぇぇぇ!」

 と叫んでヴィンセントの頭を掴みテーブルに叩きつける。

「姫様どうか御静まりください! ヴィンセントさんもこの通り謝ってますから! 落ち着いて!」

 一生懸命誘夜姫を宥めていると起き上ってきたヴィンセントに吹っ飛ばされた。起き上ってすぐにヴィンセントに詰め寄った。

「なにすんですか!」

「それは私のセリフだ!」

「私のセリフですよ! だって悪いのはヴィンセントさんじゃないですか! ヴィンセントさんが最初から説明して謝ってれば、こんなことになってないじゃないですか!」

「貴様、下僕の分際で口答えするとは1000年早いわ!」

「そりゃ口答えもしますよ! ヴィンセントさんもう一回ちゃんと姫様に謝ってください! そしたら私も謝ります!」

「バカ犬の分際で私に命令するな!」

「元はと言えばヴィンセントさんのせいでしょ!」

 ギャーギャー喧嘩する二人に、メリッサが止めに入ってきたが、メリッサは無視されてギャーギャーやっていた。

「せっかく仲直りさせてあげたのに……」

 少しうんざりした顔でメリッサがソファに腰を下ろすと、誘夜姫はスルスルと元のサイズに戻っていく。

「メリッサ、なぜあの二人はわらわを無視して喧嘩しておるのじゃ」

「ヴィンセントが最低だからですわ」

 誘夜姫は、吹っ飛ばされては掴みかかるミナを見つめる。

「それで、あの子はわらわの為に、あんなに怒っておるのかえ?」

 メリッサは呆れたように溜息を吐いた。

「ミナちゃんはヴィンセントに騙されて眷愛隷属になったから、姫様の気持ちが分かるんですわ」

 本当にヴィンセントって馬鹿ね、とメリッサは溜息を吐く。

「……あの子に酷い事を言ってしまったわ」

 そう言って誘夜姫は俯いてたが、それを見てメリッサはふっとほほ笑んだ。

「とりあえず、私では手に負えませんの。姫様、あの二人を止めていただけません?」

 誘夜姫は小さく笑って「そうじゃな。近所迷惑よ」と言って二人の許に近寄った。



「ヴィンセントさんは失敗ばっかりのくせに反省しないからでしょ! このダメマスター!」

「貴様に文句を言われる覚えはない! クソ下僕!」

「私のことだって事故ったって言ってたくせに!! バカマスター!」

 相変わらずギャーギャー喧嘩をしていると、急に目の前からヴィンセントが消えた。一瞬ぽかんとしてしまったが周りを見渡すと、ヴィンセントは壁に激突したようでもたれかかっている。見ると誘夜姫が手のひらをパンパンと払っていた。

「大嫌いなどと言って、悪かった」

 突然の謝罪に驚いて見上げると、誘夜姫は前方を見たまま呟くようにつづけた。

「ミナはわらわを助けようとしてくれておったのに、無視したりして……悪かったと思っておる」

「え? 許してくれるんですか?」

「そなたのことは嫌いではないし、怒ってもおらぬ」

「ほ、本当ですか? 私の事嫌いじゃないですか?」

 縋るように問うと誘夜姫ははにこっと笑って「本当じゃ。これからは仲良くしてくれるかえ?」と言ってくれた。嬉しくなって満面笑顔で頷くと、誘夜姫が白魚の様に綺麗な手を差し出してくれた。それを握り返して、仲直りの握手。

 安心した様子のメリッサが見つめる中、二人で微笑みあっていると、「貴様ら……仲良しごっことはいいご身分だな」と、コンクリートをパラパラと払いながらヴィンセントが起き上がってきた。

「ヴィンセント、まだ寝ていてもよかったのじゃぞ?」

 誘夜姫が言葉のナイフをグサリ。

「貴様ら、鬱陶しいから離れろ」

「離せるものなら離してみればよかろう?」

「誘夜姫! お前はあんなにミナのことを嫌っていたではないか!」

 ヴィンセントは女心が分かっていない。

「ミナはわらわの味方じゃからな?」

「はぁい!」

 誘夜姫と腕を組んで、隣でべーっとヴィンセントに舌を出す。

「ヴィンセントさんが最低なんだから仕方ないんじゃないですかぁ?」

 ミナのこの言葉を皮切りに、2対1の大喧嘩になってしまった。


「余計うるさくなってるし……付き合ってられないわ」

 両手はWのメリッサであった。

種族名:山姫

六条誘夜 リクジョウノイザヤ

1000歳を超えたあたりから数えるのをやめたので年齢不詳。

日本に古くからいる吸血タイプの妖怪。

ヴィンセントを追いかけてきた山姫氏族のボスである吸血公主。

吸血鬼の特性を生かして氏族で家業を営んでいる。部下からは「宮様」と呼ばれている。

若干ヒステリックで思い込みが激しいが、純粋で情の深いいい人。

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