8-8 こうも懐かれては仕方がなかったんです
でもなぁとアンジェロは唸る。
「なに?」
「課長はその腹いせに、伯爵の兄貴を殺したんだよ」
それを聞いてミナは顔色を変えた。
「ヴィンセントさんのお兄さんを? ていうかヴィンセントさんのお兄さん生きてたの?」
「あぁ。兄貴の方も吸血鬼だったらしい。すげー仲のいい兄弟だったらしくてな。伯爵は半端なくキレてた」
ミナにもヴィンセントの気持ちはよくわかる。目の前で最愛の弟を殺された経験があるからだ。ヴィンセントの性格を考えると、むしろ怒る位で済んでいるのなら可愛いものだ。
そう考えると、今何が起きているのか、ミナにも想像がついた。
「じゃぁ、今ジュリアスさんとヴィンセントさんは、恋人とお兄さんの為に闘っているんだね」
「そうだな。お互いの弔い合戦ってところだろ。それに外野が口を出すのは無粋ってもんだ」
アンジェロの言い分もわかる。男の都合という意味も理解できた。どういう訳か、男はこういうことを女に隠したがるのだ。腹立たしい。ミナは立ち上がってアンジェロに掴み掛った。
「言いたいことはわかるけど外野とかそんなの関係ないし! ヴィンセントさんにとって大事な人の事なら、私にとっても大事だよ! なんで私が仲間外れにされなきゃいけないの! 私はヴィンセントさんの眷愛隷属で弟子なんだよ! こういう時こそヴィンセントさんの傍にいなきゃいけないの! だからヴィンセントさんのとこに連れてって!」
ガクガクとミナに揺さぶられながら、アンジェロはやっぱりかーと思う。ミナの博愛主義的な性格と、ヴィンセント大好き尻尾プリプリの様子を見ていたら、なんとなく想像はついていた。クリスティアーノ達がアンジェロに同情的な視線を向けている。居たたまれない。
「いや、あのな? お前に関わってほしくないってのは、俺だけの意見じゃなくって、伯爵たちの意志でもあるんだぞ?」
「知らないし! じゃぁ私の意見は無視してもいいって言うの!?」
「いや、そう言う事じゃねぇけどさぁ」
「じゃぁいいじゃない! 早く連れてって! お願いお願い! もう後悔したくないの!」
最後の一言に、アンジェロはウンザリしたような顔をやめてミナを見つめた。
「後悔したくねぇって、どういう意味だ?」
その質問に、ミナは北都の事を話した。その話を聞いて、アンジェロはミナの多重人格などを含めて色々と得心がいった。確かに納得はいったが、頭を抱えた。
(あぁーくそ! これは俺のせいじゃねーぞ! コイツが我儘なのがいけねーんだぞ!)
自分にそう言い聞かせつつ、言い訳を考えつつアンジェロは立ち上がった。
「しょうがねーな。連れてってやるよ」
その言葉に瞳を輝かせてミナも立ち上がる。
「ありがとう! アンジェロのそういうところ大好き!」
そう言って抱き着いてくるミナを見て、アンジェロはこの時になってようやくヴィンセントがミナに弱くなる気持ちが理解でき、同時に溜息を吐いたのだった。




