8-7 人形を失った男の末路
「どうした?」
ミナを下ろして尋ねると、俯いたまま口を開く。
「伯爵、わたくしは伯爵を愛しています。心の底から」
「あぁ、私もだ。ここから逃げ切れたら、永遠に二人で生きよう」
「はい。わたくしは、伯爵と運命を共に致します。永遠に、地獄までお供いたしますわ」
そう言ってミナが抱き着いてきた瞬間、胸に激痛が走った。
「ぐっ……ぁ……ミナ、なぜ……お前が……」
回した腕で、ミナはヴィンセントとミナを、ジュリアスが手にしていた銀の剣で刺し貫いていた。
「伯爵、わたくしは……あなたを愛しています」
剣の刺さった箇所からパキンと石化が始まる。
「ミナ、私も愛している。なのに、何故……」
「伯爵、あなたを愛しています……でも、わたくしは――人間です」
ゆっくりと目を瞑ると、ミナは改めてヴィンセントを見つめた。
「伯爵……私と一緒に、わたくしが人間である内に、死んでください」
朝日が昇る。暁光と共に石化の進行は一気に加速し、ミナは砂塵となっていく。
「ミナ……消えるな……ミナ、ミナ!」
ヴィンセント一人を残して、ミナの「砂」は風に舞って消えた。呆然とミナの消えて行った空を見つめていると、ドカドカと背後から足音が聞こえた。
「キング嬢をどこへやったんだ? 伯爵」
銃を構えながら、初老の男が近づいてくる。
「お前が、ヘルシング教授か。私をここまで追い込むとは、大したものだ」
嘲笑するように笑って、胸に刺さった剣を抜く。
「彼女をどこへやったと聞いている」
「さあな」
返事と共に持っていた剣を教授に向かって投げつけるが、剣は躱されて虚空を切って壁に突き刺さり、それと同時にバン! と一つ音が響いて、腹に銀弾を撃ち込まれた。
「彼女まで殺したのか!」
「そう、かもしれないな」
ミナに刺された傷は、辛うじて心臓を逸れているものの、重症だ。銀の剣に斬られた傷も、銀弾による弾創も、修復してくれない。
このままでは、ヴィンセントはこんな、たった5人の男達に倒されてしまう。
「くっくっくっ……ヘルシング教授。お前は、お前たちは本当に大したものだな。倒すという一念のみを持って戦う人間とは、かように素晴らしい物か。この私が逃げを選ぶなど初めてだ。全く持って屈辱だ、だが、嬉しい」
朝日と共に、無数の蝙蝠に姿を変えて、空に飛び立っていく。
「できる事なら1世紀前に会いたかったものだ。お前達は、実にすばらしい。そして憎くてならない。では、諸君、さようなら」
そうして、ヴィンセントはロンドンの朝焼けを背景に、蝙蝠と共に消え去った。
イギリスの頃の話。100年も前の話。ヴィンセントとジュリアスの因縁。その話を聞いてミナは胡乱げにアンジェロを見上げた。
「それ、ヴィンセントさんが悪くない?」
アンジェロは苦笑する。
「ぶっちゃけ、俺もそう思う」




