表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
8 イギリス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/140

8-5 最低な男


「ん……伯爵……え?」

 行為を終えて、ミナの髪を撫でながら抱きしめていると、ミナが正気を取り戻した。

「伯爵……え? まさか、そんな……」

 状況を把握したミナは途端に狼狽えだして、泣きだした。

「わたくし……なんてことを……ジュリアスを裏切るなんて……」

 自分の行動が信じられない様子のミナは、激しく動揺して悲嘆に暮れている。涙を流すミナを抱きしめると、ミナは震える声で呟いた。

「伯爵……どうして……」

「すまない。悲しむミナを見ていられなかった。少しの間だけでも、悲しみが薄れるなら、私はいくらでもミナの傍にいる。私はどこにもいかない。ずっとミナの傍にいる。ジュリアスの代わりでもいい。私を頼ってくれ。君を、愛してる」

「ごめんなさい……伯爵。あなたを利用するようなことをして、本当にごめんなさい」

「ミナ、泣くな。私が望んだことだ。きっとジュリアスもわかってくれる」

「ごめんなさい……。わたくし、酷い女だわ……ごめんなさい」

「ミナは悪くない。悪いのは私だ。ジュリアスが死んで、泣いているミナを見ていられなくて……私は、ミナの支えになりたい。一時でもミナの悲しみが消えるのなら、私はそれでいい」

「伯爵……」

 ミナの思考が流れてくる。

(ジュリアスが死んだばかりなのに、なんてことをしてしまったんだろう。伯爵の優しさに付け込んで、酷い事をしてしまった。ジュリアスも裏切って、きっと伯爵も傷つけたわ。でも、伯爵がこれほどまでに思ってくれているなんて。彼となら、ジュリアスも許してくれるかもしれない。でも、わたくしはまだジュリアスを愛してる。わたくしはどうしたら……)

 ミナの声を聴いて、抱きしめる腕により力を込める。

「ミナ、私はジュリアスを忘れて欲しいなんて思っていない。ただ、君を愛してる。それだけだ。私の事など考えなくていい。ただ、ミナに泣いてほしくない。幸せでいて欲しい。それだけだ」

 ヴィンセントの言葉を聞いたミナは、再びはらはらと涙をこぼし始めた。とりあえず、今日の所はこのくらいでいい。考える余裕を持たせてやった方が、こっちに都合のいい結論が出る。


「ミナ、君を困らせるようなことをしてすまなかった。今日はもう家に戻って休むといい。屋敷まで送らせてくれ」

 その日はミナを屋敷まで送って別れを告げた。やっと手に入った。完全にヴィンセントの手に落ちるまで、後は時間の問題だ。



 それから、ヴィンセントは時折ミナの屋敷に足を運んだ。ただ、ミナと話をする、それだけの為に。極力、ミナへの愛情表現を避けて、ミナに触れないように、羊のふりをして。

 日に日に、ミナの迷いは大きくなっていく。


 そして、ジュリアスの墓参りに出かけた日、墓の前でミナは心の中で呟いた。

(ジュリアス、ねぇ、私、伯爵と運命を共にしていいかしら……ジュリアス、赦してくれる?)

 その言葉を聞いた瞬間、ジュリアスの墓石を蹴飛ばしてやりたい衝動に駆られた。

(あぁ、可笑しい。お前の女は私が大事にしてやる。お前はそこで指をくわえてみていろ)

 ジュリアスの墓石に向かってほくそ笑んで、ミナの手を取り、墓地を後にした。


 夜も更けた墓地からの帰り、ミナがヴィンセントの屋敷に行きたいと言い出した。絶好の機会。今日、ミナが妻になる。

 ソファに腰かけたミナはゆっくりとした口調で口を開いた。

「伯爵、わたくし、あの日からおかしいんです。昼間起きることができず、夜に目覚めご飯も喉を通りません。その代り、別のモノが欲しくて仕方がありませんの。怖くて知人に聞いてみたら、それはまるで吸血鬼だと言われましたわ。すべてはあの日から。伯爵、あなたは吸血鬼なのですか? わたくしも吸血鬼になったのですか?」

 思いもよらない問いかけに、しばし絶句した。何故今までミナのこの思考が聞こえてこなかった? 知人? その知人が何かしたのか? それとも、ミナがその意志で思考を遮断していた?

 わからない。――――――だが、かえって好都合。

「そうだ。私は不老不死の吸血鬼。そしてミナ、君も」

 泣くかと思ったが、ミナは苦しそうに顔を歪めただけだった。

「ミナ、私も君も老いることも死ぬ事もない。若く美しいまま、二人で永遠の時を生きよう。私はミナを愛している。これからもずっと傍にいる。ミナだけを愛し続ける。一緒に生きよう」

 そう言うとミナは苦しそうな顔を振り切って、ヴィンセントに笑顔を向けた。

「伯爵、嬉しいですわ。わたくしもあなたを愛しています。永遠にあなたのお傍におりますわ」

 ミナは微笑んで立ち上がると、ヴィンセントの前まで来てゆっくりと腕を開く。ヴィンセントも立ち上がり、ミナを抱きしめると、その瞬間窓ガラスが割れ、背中に激痛が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ