8-4 酷い男
数日後、まんまとジュリアスはペストに感染した。体力が衰えていたせいか病気の進行は著しく、あっという間に生死の境に足を踏み入れた。
「ミナ、ごめんよ。俺はもう助からない……」
息も絶え絶えに謝るジュリアスの手を取って、ミナはイヤイヤと涙をこぼす。苦しそうに息をしながら、ジュリアスは枕の下から手紙を取り出した。
「ミナ、これを届けてくれないか。教授に、必ず、渡してくれ」
「ええ、ええ、わかったわ」
「俺は、悪魔に取り殺されるんだ。誰に言っても無理だけど、彼なら……」
「必ず届けるわ。だから、あなたも頑張って……」
「ミナ、君は悪魔に魅入られないで……教授の言う事をよく聞くんだ。彼なら君を助けてくれる。エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授なら」
ジュリアスの墓の前で、大粒の涙を流し慟哭するミナの肩に優しく腕を回すと、ミナは私の胸に顔を預けて泣き出した。
やっとこの日がやってきた。
邪魔者は消えた。後は、ミナの心の隙に取り入るだけ。墓前だというのに、ヴィンセントは笑いをこらえるのに必死だった。
葬儀の後、ミナを屋敷に呼んだ。枯れ果てたのか、ミナの目にもう涙は見えない。
「ミナ」
優しく声をかけると、悲しそうに顔を歪ませて縋り付いてくる。
「伯爵、私はこれからどうしたらいいのでしょう……ジュリアスのいない生活なんて考えられません……」
「ミナ、気をしっかり持って。大丈夫。私が傍にいますから」
「伯爵……」
「あなたは言った。自分が傍にいると言ってくれた。だから、私もずっとあなたの傍にいますよ。私はどこにもいきません。ずっと、傍にいます」
「伯爵……ありがとう、ございます」
ぎゅっとミナを抱きしめると、ミナもヴィンセントの背中に腕を回してきた。
ミナを、抱いてしまいたい。だが、ジュリアスはまだ死んだばかりだ。まだ早い。
あぁ、でも、もう我慢の限界だ。ミナの目を魔眼で見つめる。
「ミナ、私のものになれ」
「……はい」
ミナを寝室に連れて行き、ベッドに横たえる。愛しい、愛しいミナ。ずっと手放したくない。この腕の中にいてほしい。
ふと、思いついた。そうだ。永遠にヴィンセントのものにする方法がある。ミナの首筋に顔をうずめて、ミナを吸血した。予想が正しければ、ほら、始まった。
ミナは苦しそうに息をし始める。しばらく呻きながら身もだえをすると、すぐに収まった。ミナの口を開いてみると、吸血鬼の牙が生えていた。それを確かめて、ヴィンセントは自分の指を噛み切り、その血をミナに飲ませた。
これで、ヴィンセントのモノだ。やっと、手に入った。ヴィンセントの、ヴィンセントだけの「死なない妻」。ヴィンセントは歓喜に震えて、その情を抑えることなく、ミナを抱いた。




