8-2 クズい男
後日、連絡が来て再び屋敷へ向かった。
「先方から承諾いただけました。契約成立ですね。おめでとうございます」
「キング先生が尽力してくれたおかげです。ありがとうございます」
「いえー! 私なんてなにも! では、こちらにサインをお願いします」
書類にサインをし、その場で屋敷の代金と仲介料を支払った。書類と代金を受け取ったホレイショーは鞄にそのまま突っ込み、鞄から腕を抜いたはずみで、なにかがハラリと床に落ちた。
「何か落としましたよ」
紙を拾って渡すと、ホレイショーは慌ててと受け取る。
「写真ですか?」
「ええ! 私の娘なんです!」
そう言ってホレイショーが押し付けてきた写真を見て、息が止まった。
そこには、花束を抱えて微笑む、亡き妻の姿が映っていた。
思わず絶句して固まるヴィンセントにホレイショーは浮かれたように話し続ける。
「私が言うのもなんですけど、美人でしょう?」
「……ええ、本当に」
欲しい
「来年の春に結婚するんです」
「それは、おめでとうございます」
欲しい
「ありがとうございます! あ、伯爵も式にいらっしゃいませんか!?」
「ええ、是非。ありがとうございます」
欲しい
「伯爵においでいただけたら、ミナも喜びます!」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
ミナ……ミナが欲しい。
ミナ。この娘は妻の生まれ変わりだ。そうに違いない。ならば、ヴィンセントが手に入れて当然だ。ホレイショーの娘だろうが婚約しているだろうがなんだろうが、知ったことではない。
何をしても、どんな手を使ってでも、必ず手に入れる。
しばらく経って、ヴィンセントの屋敷にホレイショーとミナ、婚約者のジュリアスを招いた。
「伯爵! お招きいただきありがとうございます! こっちがこの前話した娘のミナと、婚約者のジュリアスです」
「お初にお目にかかります。ジュリアス・スペンサーです」
「ミナ・キングと申します」
ホレイショーに促されて挨拶をしたミナは優しく微笑んだ。笑顔も妻によく似ていて、一層彼女が欲しくなる。
「初めまして、ヴィンセント・ドラクレスティと申します。先日はキング先生にお世話になりまして、お礼を兼ねて招待させていただきました。それではご案内いたします。お手をどうぞ」
「まぁ、ありがとうございます」
差し出した手に、彼女の白く細い手が添えられる。細くやわらかな小さな手。いっそ、このまま連れ去ってしまいたい。
しばらく食事をしながら歓談をした。
「ジュリアスのお父様はクリストファー・スペンサー男爵という方なんですが、高名なお医者様でいらっしゃって、彼も医学を研究してるんですのよ」
「それは素晴らしいですね。社会に貢献する、素晴らしい事業です。今度是非研究所を見せて頂きたい」
「本当ですか? 嬉しいです。是非、今度おいで下さい」
ホレイショー、ミナ、ジュリアスと歓談しながらしばらくして、バーに移りジュリアスに酒を飲ませた。ジュリアスは下戸だったようで、あっさり酔っぱらう。
そんなジュリアスをミナは水を飲ませたり、背中をさすったり一生懸命介抱していた。
「ジュリアスは、私が寝室に連れて行きますので、しばしお待ちください」
かいがいしくジュリアスの世話をするミナなど見たくもない。邪魔者にはとっとと消えてもらうことにした。
ジュリアスをベッドに寝かせると、うーん、と唸りながらベッドに潜り込む。このままジュリアスを殺して、彼女を奪おうかとも考えたが、今のままでは彼女は手に入らない。
少し考えて、ジュリアスを吸血した。アルコールが混ざっていて、少し不味い。が、これで、しばらくジュリアスは目を覚まさない。おそらく体調不良くらいにはなっている。
「おやすみ、ジュリアス」
そう呟いて寝室を後にした。




