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不死王の愛弟子  作者: 時任雪緒
7 フィンランド編

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7-11 なんて日だ


「はははははは!」

 ヴィンセントは哄笑した。なんなのだろう、この状況は。苦労して作り上げた手駒にことごとく裏切られ、しかもミナはいない。ジュリアスが滑稽すぎる。


 アンジェロはずっと狙っていたのだ。長い間能力を育てながら、虎視眈々と。実験体として飼われて体をいじくりまわされ戦闘に駆り出され、上司のヒステリーに耐える日々にはウンザリだった。そこに舞い込んできたヴィンセント達との邂逅。これはチャンスだと思った。

 クリスティアーノの言った通り、ジュリアスはアンジェロがミナを返した本当の理由を、全く理解していなかった。アンジェロはただ単純に死にたくなかったのだ。いくら自分達が超能力者とはいえ、不死身の体を持つ最強の吸血鬼を前に、無事でいられるはずがない。

 だからミナをヴィンセント達に返して、ジュリアスの手の届かない土地で連絡を絶ち、ヴィンセントが戦いやすい様にミナを連れ去り、フィンランドに誘導したジュリアスを敵陣真っ只中に一人で置き去り。

 これだけの意趣返しをして、アンジェロはようやくせいせいしたのだった。今頃高笑いしていることだろう。

「はははは! あぁ、全く、アンジェロという奴は! いい性格をしている!」

 ヴィンセントは爆笑しながらそう言って、ジュリアスを見下ろす。一方のジュリアスは、屈辱に顔を歪めながら立ち上がった。


 屈辱だ、恥辱の極みだ。こんな屈辱を味わわされて、最早大事に育て上げたSMARTですら殺しつくしたい。激しい憎悪と怒りが渦巻いて、ジュリアスを侵食してゆく。

 ジュリアスの影が揺らめきながら、足元から徐々に広がってゆく。その様相にメリッサが警戒の姿勢を取ったが、影から伸びてきた鋭い槍がメリッサの胸元を貫いた。

「邪魔者はそこで寝てろ」

 ボニーとクライドの傍にうずくまったメリッサにそう言うと、ジュリアスはヴィンセントを睨み上げた。

 積年の恨みに加えてこの屈辱。この恨みは晴らさずにおけない。何が何でも、ヴィンセントを殺したい。


 ジュリアスの殺気の増幅に呼応するように、ヴィンセントも笑いながら殺気を垂れ流した。ジュリアスはクリシュナを、大事な家族を殺した。ミナから恋人を奪って、ミナを騙した。それは許されざること。

「いいだろう、闘ってやる」

 ヴィンセントの応答を聞いて、ジュリアスはホルスターから銀弾の装填された銃を抜いて向ける。

「一対一だ。負けても言い訳は通用しないよ」

 話しながらジュリアスの影が銃を覆って、引き込まれる様な光の無い黒い銃から、紅い咆哮が放たれる。レミが改造したその電磁誘導の銃は、恐るべきスピードでヴィンセントに迫り、立て続けに発射された弾丸がヴィンセントの頭部と胸部に命中し、爆裂。

 頭部を吹き飛ばされ胸部に穴をあけ、夥しい血液を周囲にまき散らして、ヴィンセントの体が揺らめく。しかし、その創部からしゅるしゅると血液が寄り集まり、瞬く間に吹き飛ばされた頭部を修復していく。それを見てジュリアスは歯噛みした。

「相変わらず、冗談みたいな再生力だな。卑怯者め」

 修復されたヴィンセントの表情は、いつも通り不遜に笑っている。

「正々堂々と言った覚えはない。生き残った者が勝者。シンプルでいいだろう?」

 ヴィンセントは改めて黒犬を召還し、自分の周囲にまとわりつかせる。殺気が満ちる部屋の中で、ジュリアスが瞬きをした瞬間、黒犬を残しヴィンセントが消失した。いや、背後から禍々しい気配と同時に、衝撃を感じた。

「こうやって兄様を殺したのか?」

 ジュリアスの背中から突き入れられた腕が、肋骨を突き破って生えている。ジュリアスの左胸から生えた腕には、ビクビクと痙攣する心臓が握られていた。

「あひっ、あぁ、がっ」

「そうか。他愛ないものだな」

 ヴィンセントが掌に力を入れて心臓を握り潰した。すると、ヴィンセントの腕の周囲から瞬く間に石化が始まり、ヴィンセントが腕を引き抜くと、ジュリアスはガラガラと音を立てて崩れ去った。


 あっけないものだ。並の吸血鬼は頭部か心臓を潰されればそれで死ぬ。ヴィンセントは例外的にそれでも死なないが、相手がジュリアスならば何のことはない。この程度の戦いであれば、アンジェロに気を使ってもらう事もなかった。

 銀弾のせいで修復が遅い3人を労わりながら助け起こすと、瓦礫を踏みしめる複数の足音がした。

「彼は死んでしまったようだ、ジュリアス」

「あぁ、残念だ、ジュリアス」

「彼は少し勇み足だったから仕方がない」

「だが、彼の気持ちは俺にも理解できる」

「あぁ、彼は俺だからね、ジュリアス」

 ヴィンセントが振り返ると、そこにいたのは金髪に青い瞳をした、5人のジュリアス・スペンサーだった。


 今日はおかしなことばかり起こる。殺したはずの男が、今度は複数やってきた。いい加減頭がおかしくなりそうだ。

 幽霊でも見るように見つめるヴィンセントに、ジュリアス達が進み出た。

「驚くことはないだろう?」

「伯爵も知っているはずだ」

「俺は科学者だよ」

「超能力者を作れるんだ」

「自分のクローンくらい作るさ」

 そして、5人の後方に居並ぶたくさんのジュリアス。


 これは何の冗談かと思ったが、ヴィンセントはアンジェロがミナを連れて逃げた理由がようやく理解できた。アンジェロ達は確かに最強のカードだが、ジュリアスは他にも手札を持っていたのだ。

 ジュリアスが作り上げたジュリアスのクローン、ジュリアスの吸血鬼としての特性から生み出された部隊。

「全く、アンジェロめ……聞いていないぞ」

 ヴィンセントと負傷した3人の吸血鬼。それに対するは50人の量産型吸血鬼部隊。ジュリアス達が笑う。

「正々堂々やるなんて言ってない」

 50人の吸血鬼が一斉に銃を構える。

「さぁ闘おうか、伯爵」

 ジュリアスの一人が合図をした瞬間、50人のジュリアスから一斉に銀弾が放たれる。迫る銀弾を見て、ヴィンセントは今日も溜息を吐く。

 あぁ全く、なんて日だ。

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