7-7 男の都合ってなによ
ミナが目を覚ますと知らない天井で、知らないベッドに寝かされていた。ミナが起きたことに気付いたようで、アンジェロが「よぉ」と声を掛けてくる。ミナも何度か経験があるので、すぐに察した。
誘拐されるのはこれで何度目だろうか。いい加減ミナも慣れる。やれやれと言った様子で体を起こしたミナに、アンジェロは顔の前で手を合わせた。
「ミナ、寝起き早々悪いんだけど、頼みがある」
全くアンジェロの言う通りだが、誘拐されたこと以外状況が飲み込めない。その事を尋ねたかったが、アンジェロが話を続けた。
「ちょっと手術してくれ!」
さすがにその頼みにはミナも「はぁ?」と首をかしげた。アンジェロは紙袋をガサゴソ漁ると、取り出した中身を手近にあるテーブルに並べた。
「麻酔、注射器、メス、鑷子、鉗子、針、糸。必要なものは全部用意した。自分でやりてーけど届かねんだよ。だから頼む」
ここまで準備しているのなら本気なのだろう。だがミナは手術などした事はないし、なぜ手術が必要なのかも疑問だ。
「そんな事言われても、困るよ」
「頼む。簡単な摘出だ。俺が言う場所の皮膚を割いて、その下にあるものを摘出するだけでいいから! 頼むよ!」
アンジェロがアンジェロらしくもなく懇願するので、仕方なしに引き受けた。
手を消毒して手袋をはめると、アンジェロも同じようにした。アンジェロは麻酔は自分でかけるからと言って注射器とアンプルを手に取る。アンプルから吸い上げた薬剤をバイアルの薬剤に混ぜてバイアルをよく振り混ぜる。再びバイアルから薬剤を注射器で吸いだして静脈に注射した。
「なんか、手馴れてない?」
「手馴れてるだろうな」
「なんでそんなこと慣れてんのよ」
ミナの質問をアンジェロは笑って誤魔化して、麻酔が効いてきたと言って服を脱いでミナに背中を向けた。そして肩甲骨の下端を指差した。
「そこ触ってみろ」
言われたとおりに触ってみると、肩甲骨と皮膚の間に何かの、小さな四角形の固い感触を感じた。
「それを摘出してくれ」
少し怖かったが、ミナは慎重に皮膚を切開していく。すると、切開した皮膚の下から黒く小さなチップが出てきた。それを鑷子で取り除いて、アンジェロの指示通りに縫合をして消毒を済ませた。膿盆の上に取り出されたチップを鑷子でつまみあげながら、ミナが尋ねた。
「これ、なに?」
「マイクロチップ」
「なんでこんなのが入ってるの?」
「俺の生体情報の送信の為」
「えっ、どういうこと?」
尋ねてもアンジェロは麻酔が抜けてきたのか、痛そうにしながらミナが寝ていたベッドに横になって、「まぁ気にすんな」と言って取り合わない。ミナは気になったが、アンジェロが痛いのは当たり前だと思って質問を飲み込んだ。
その代り、別の質問をした。
「ねぇ、どうして私を誘拐したの?」
その質問にアンジェロは痛そうにしながら寝返りを打って、ミナに向いた。
「伯爵と課長の邪魔をしない為」
「どういうこと?」
「男には男の都合があるんだよ」
全く理解できないし、釈然ともしない。これは詳しく話を聞くまでは引き下がれないが、ミナはてっとり早く情報を得られるのだという事を、ようやく思い出した。
(ヴィンセントさん!)
ヴィンセントにテレパシーで話しかけると、すぐに返事が来た。
(ミナか! 今は大人しくしていろ! 絶対にこちらに来るな!)
思わぬ返答にミナは勢いよく立ち上がった。
(どういうことですか!)
(説明している余裕はない! とにかく私の命令があるまで大人しくしていろ!)
その後は話しかけても一切の応答はなかった。オロオロするミナの様子を不審に思ったのか、アンジェロが少しだけ体を起こした。
「どうしたんだ?」
「ヴィンセントさん達に何かあったみたい。絶対に来るなって言われたけど、そういうわけにはいかないよ!」
ヴィンセント達に何が起きたのか、アンジェロにはすぐに察しがついた。だから、安心させるようにミナの頭を撫でた。
「心配すんな、お前は伯爵の言いつけを守れ」
「でも!」
「代わりに、俺が行く」
アンジェロがその言葉を発した瞬間、ミナは絶句してその場に立ち尽くした。




